レーダーの送信パルスは、近距離で0.07μs、遠距離では0.5μs程度である。そのためビデオ信号のデジタル変換は、送信パルスの幅に対応した速度で変換する必要があり、特に近距離の場合は高速で変換しないと映像がバサバサした短冊模様の映像になってしまう。最低でも10MPS以上の速度での変換が必要なので変換速度が高速な無帰還比較方式の中の並列比較方式が主に使用されている。レーダー信号の強度の変換は表示にあわせて、一般に8段階(3ビット)か16段階(4ビット)で行うものが多い。TRW社の8ビット並列比較方式の超高速A/D変換器の構造図を図4・52に示す。この変換器は8ビットなので255個の高速電圧比較回路(Comparator)を配列してある。この回路の動作の概要は、VTRとVRB間に接続された参照電圧を直列接続された抵抗で分圧し、VINにつながれた入力信号と255個の高速電圧比較回路のどれが境になったかをENCODERで比較し8ビットの変換出力を得るものである。LATCHは変換結果を一時的に記憶させるもので、変換指令信号(CONVERT)に同期して作動する。NMINV、NLINVはデジタル変換された2進数のコードを変更する場合のものである。
図4・52 並列比較方式のA/Dコンバータの構造図(TRW社)
このような処理をした信号は一次メモリに送られるが、この一次メモリには、シフトレジスタと呼ばれるメモリの一種が使われる。シフトレジスタというのは図4・53に示すメモリが横一列に並んでいて、クロック信号というところにパルスが一つ入ると、nのところの内容がn-1のところにというように、右向きにその内容(1又は0)が一枠ずつ移動して、入力からnの枠に新しいデータが一つ入るとともに、1の内容は出力となって出ていくわけである。例えば、クロックパルスの周波数を10MHzとすると、クロックパルスの間隔は0.1μsなので、エコーは自船から15m間隔で、かつ、0と1の形で右から左へ並ぶことになる。2ビットのデジタル化をしたときには、このシフトレジスタを2個並列に使用して、1けた目と2けた目の0と1を別々に処理をする。こうして、1回のパルス送信後の受信エコーの強さは、2ビットのデジタル化の場合は図4・54に示すような形に整理をされる。ここで、S11、S12・・・S1n、S21、S22・・・S2n、はアドレスと呼ばれる。
図4・53 nビットのシフトレジスタ
図4・54 エコー信号のデジタル化
二次メモリは、レーダーのPPIの映像面のデーターを一画面そっくり記録する2次元配列のメモリであり、その数はデジタル化を何ビットで行うかによって変わるが、1ビット分をCRTの一画面分について縦(Y)方向と横(X)方向に分けた番地(アドレス)を示すと図4・55のようになる。標準型テレビの走査線の数は上下に512本あるので、この二次メモリの番地は大略(260,000×一画素当たりのビット数)が必要となる。
図4・55 二次メモリの番地(アドレス)
この二次メモリへの書き込み(記憶)は、図4・56(a)の一次メモリの内容を、レーダー空中線の走査角θが変化するにつれて同図(b)のように行い、空中線の一走査1回転が終わると全メモリの内容が新しいものとなる。このようなメモリの内容は、書き込みを行う一方で(0、0)から(X、0)へ、(0、1)から(X、1)へ、というように水平方向に順次読み出しが行われ、その結果がCRTに表示される。この場合、一画素当たり1ビットの記憶であればその結果は2色又は明暗といった表示しかできないが、2組のメモリを用いた2ビットであれば、エコーの強い順に11、10、01、00となり、これを色分けすれば赤、黄、緑、青(黒)の4色あるいはそれらの色の濃淡を含めた4階調、3ビットのときは8色又は8階調の表示をすることができる。
図4・56 一次と二次メモリのアドレス
これらのメモリヘのデータの書き込み、読み出し、あるいはCRT表示の制御は、空中線の走査とパルスの送信に同期した制御信号によって行われる。
(問1)航海用レーダーにおける、トリガ信号、送信パルス、固定距離マーカー、のタイミングチャートを図示せよ。
(問2)0.5(海里)間隔の固定距離マーカーを作るためには、何(μs)間隔のパルスが必要か、また、そのための発振周波数は約何(kHz)か。
(問3)航海用レーダーにおけるSTC回路及びFTC回路の役目と、その動作を説明せよ。
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