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第3章 レーダー用の特殊電子管・半導体及びマイクロ波伝送回路
 最近のレーダーの電子回路はそのほとんどが固体化され、基礎理論編に示す半導体や集積回路が使用されているが、一部では、なお特殊な電子管が使用されている。しかし、これらの電子管の一部も次第に半導体化されていく傾向がみられている。この章では、これらの特殊な電子管と、その半導体化の動向及びマイクロ波伝送回路について述べる。
 
3・1 マグネトロン(磁電管)
 船舶用のレーダーの送信は、ほとんどがマグネトロン(磁電管)と呼ばれる特殊な真空管で作られたマイクロ波によっている。マグネトロンは、その名のように磁気の効果を利用した真空管である。いま、図3・1(a)のような、同心になっている円筒形の二極真空管(電極が二つある真空管)に、図に示すような方向に磁界を掛けたときを考えてみる。同心電極の中心は陰極で、ヒーターで加熱されて、熱電子を放出するようになっていて、陽極には陰極との間に直流の正の電圧が掛かっているとする。いま、この真空管に磁界が掛かっていないとすると、陰極から放出された電子は、両電極の間に掛かっている電圧(電界)によって加速され、直進して陽極に達し、このため、陽極から陰極に電流が流れて、整流や検波作用が行われる。このような両電極の間に一定で、かつ、均等な磁界を掛けると、放出された電子は磁界の作用で図3・1の(b)に示すように曲げられて陽極に向かう。
 
図3・1 マグネトロンの原理と電子の動き
 
 この曲がり方は、いわゆるフレミングの左手の法則に従い、人さし指を磁界の方向、中指を電流の方向(電子の動きとは逆)とすると、電子に働く力は親指の方向となる。そして、その曲がり方は加えられている磁界の強さが強いほど大きくなり、電界(陽極に掛かっている電圧)が高いほど小さくなる。
 したがって、磁界を強くしていくと、図3・1の(c)に示すように電子が陽極に到達できなくなって陰極に戻るようになる。このように、陽極電圧と磁界とを適当に加え、かつ、陰極と陽極の間に共振回路を接ぐと、陽極に電流が流れたり、流れなくなったりして、マイクロ波の発振作用がおきる。しかし、このような方法は実用上は余り使用をされていない。
 
図3・2 マグネトロンの回路
 
 マグネトロンの第2の発振の方法は、磁界の掛け方は同じであるが、図3・2に示すように陽極を円周方向に適当に分割して、隣接電極間に共振回路を接続する形式とすることである。実際のマグネトロンは図3・3に示すように、金属ブロックを梅鉢形にくり抜いた形の陽極が使用されている。
 図では陽極は8分割され、それぞれ両端は開いているけれども、同じ共振周波数をもった空胴共振器が付けられている。これらの空胴共振器は、実質的には、すべてが並列で発振をするのと同じ効果を持つようになる。また、場合によっては一つおきの電極を結ぶ均圧環を付ける。
 
図3・3 空胴マグネトロンの構造
 
 電子は陰極から全方向に均一に放出されるが、それが磁界によって曲げられながら陽極の近くにくる。陽極の各空胴に共振が生じると、各空胴の入口のところには、共振周波数で振動をする図3・4に点線で示したような高周波電界ができているので、ある電子はそこで加速され、ある電子は逆に減速をされる。こうして、一部の電子が陰極の近くに戻ったり、陽極に吸収されたりしながら、加速された電子が固まっていく傾向を生じ、もし、電界と磁界の強さが適当なら結果的には図3・4に影で示したような形に集まった電子束が、高周波電界の振動に同期して矢印の方向に回転をするようになる。
 
図3・4 空胴マグネトロン内の電子の運動
 
 このような電子束の回転は、各空胴共振器に振動エネルギーを供給し、いつまでも振動が持続することになる。このようなマイクロ波の振動は、図3・3に示すように、一つの空胴共振器から出力用のループによって外に取り出される。
 代表的なマグネトロンM1437の特性は次のようなものである。
・陰極 傍熱形
ヒーター電圧 6.3V
ヒーター電流 0.52A
予熱時間 2分間以上
・周波数 9410±30MHz
・パルス出力 25kW以上
・パルス陽極電流 8A
電圧 8kV
入力 64kW
・陽極温度 120℃
・パルス幅 1μsec


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