2・3 レーダーの最小探知距離
レーダーの最小探知距離とは、PPI画面の上で自船からの距離を測定し得る最小の距離のことで、(1)自船レーダーのパルス幅(パルスの長さ)、(2)PPI用ブラウン管の最小輝点、(3)アンテナの垂直方向指向性(特にアンテナが高い位置に取り付けられた場合)等で決まることになる。また、海が荒れているときは海面反射が強くなり、その雑音のために小物標からの反射が隠されて最小探知距離が遠くなることに注意しなければならない。
(1)自船レーダーのパルス幅(パルスの長さ)
パルス幅とは、発信パルスが続く時間のことであるが、アンテナからパルス状の電波が発信されると、発信が続いている時間すなわちパルス幅に相当する長さの電波が空中を伝搬して行くことになる。例えばパルス幅が0.25(=1/4)μsであれば、3×108(m/s)×0.25(μs)=75(m)の長さの電波が飛んで行くことになる。そのレーダーの波長が3cmであれば、この電波が空中を飛んでいくようすは、一両の長さが3cmの車両を連結して、先頭から後尾までの長さが75mあるという列車が空中を飛んで行くようであるのでパルストレーン(pulse train)といっている。アンテナの下には自船の船体があり、その船体から75mの半分すなわち37.5mの距離以内にある物標からの反射波は、自船の船体からの反射波とつながってしまうから識別できないことになる。このように最小探知距離の大部分は、パルス幅の時間に電波が空中で占める長さの半分の距離で決まる。
(2)PPI用ブラウン管の最小輝点
PPI用ブラウン管の最小輝点は無限に小さくすることは不可能で、一定の大きさを持っているから、画面半径を何海里の表示範囲(レンジという。)とするかによって、その輝点が占める距離が決まる。表2・2は、ブラウン管の直径が7吋及び12吋についての輝点の大きさと種々のレンジに対する輝点が占める距離を示す表である。
表2・2 
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ブラウン管の直径による種々のレンジに対する輝点が占める距離の表
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ブラウン
管直径吋 |
有効半径(mm)
1スイープの長さ |
輝点
(mm) |
各レンジに対する輝点が占める距離(m) |
1海里 |
2海里 |
4海里 |
8海里 |
20海里 |
7吋 |
76.2 |
0.5 |
12 |
24 |
48 |
96 |
240 |
12吋 |
127 |
0.9 |
13 |
26 |
52 |
104 |
260 |
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表2・2で分かるように、パルス幅0.25μsのレーダーでは、レンジが4海里以上になると、最小探知距離は輝点によって決まるようになる。
(3)アンテナの垂直方向指向性(特にアンテナが高い位置に取り付けられた場合)
図2・6にアンテナの垂直方向指向性によって最小探知距離が決まるようすを示す。
図2・6 垂直方向指向性による最小探知距離
レーダーの距離分解能とは、自船から見て同一方向にある2つの物標が前後に並んで存在するとき、これらの物標が距離的にどのくらい離れていれば、PPI映像の上で2つの輝点として分離して識別できるかという能力である。これは主として、パルス幅によって決まる。前節(2・3)の(1)で述べたように、アンテナから出た電波はパルス幅で定まる長さのパルストレーンとなって飛んでいくので、2物標の前後の距離がそのパルストレーンの長さの半分以下であると、両者からの反射波はつながって分離できないが、パルストレーンの長さの半分以上であれば反射波は分離して2つの物標であると見分けられるからである。すなわち、もしパルス幅が0.25μsであれば、パルス幅による距離分解能は37.5mである。図2・7参照。
次にPPI用ブラウン管の最小輝点によっても左右されることは、前節(2・3)の(2)における説明と全く同じである。
図2・7 レーダーの距離分解能の説明
レーダーの方位分解能とは、2つの物標が自船から見て等距離にあって左右に並んで存在するとき、これらの物標が角度的にどのくらい離れていれば、PPI映像の上で2つ輝点として分離して識別できるかという能力である。
これは主として、アンテナから発信される電波の水平方向のビーム幅によって決まる。レーダーでは物標の方位を測定できるように電波を細かく絞って、物標を探知するようにアンテナを回転させているが、この細さの程度を表すのがアンテナのビーム幅であり、電力の半値幅で表す場合が多い。すなわち図2・8のようにレーダーのアンテナから発信される電波の強さを測定した場合に、正面の最も強い値の半分の強さ(電力にして3dB下がった値)になる左右の点の間の角度幅である。
1つの点物標でもレーダーの画面上では、ビーム幅に等しい横幅を持った映像として表されるから、横に並んだ2つの物標はビーム幅より大きく離れていなければ分離して見分けることができない。また、距離分解能の場合と同じく、PPI用ブラウン管の最小輝点によっても影響される。近距離にあっては輝点ができただけでも、その横幅の方がビーム幅より大きい場合がある。
図2・8 レーダーの水平ビーム幅
さらに、ビーム幅で決まるといってもある標準的な値であって、近距離の反射の強い物標では、感度を適正に調整しなければ横幅広く反射を表し、サイドローブで反射が表されて左右90度方向にも映像(これをサイドローブ偽像という)が表示され、更にはもっと強く反射が表されるようになると、円筒状に映像がつながってしまう場合さえある。
PPIスコープではAスコープと違って、表示された映像の鮮明度が問題となる。1つの物標を輝点として表す場合、その物標から帰ってくる反射パルスの数が多い程ブラウン管の蛍光面に貯えられるエネルギーが増大してよく光ることとなる。この数をヒット数というが、アンテナが1回転(これを1スキャンという)する間に物標に当るパルスの数は、次の(2・6)式のMで与えられる。
ただし、Nはアンテナ1回転の間のスイープの本数
θはビーム幅(度)
mは1秒間に発信するパルスの数(パルス繰り返し数)(パルス繰り返し周期の逆数)
tはアンテナが1回転する秒数(アンテナ回転速度)(60÷アンテナ回転数)
例えば、ビーム幅が2度、パルス繰り返し数が1000、アンテナ回転速度が3秒(アンテナ回転数1分間20回)とすれば、ヒット数は1000×3×2÷360=16.7となり、アンテナ回転速度が4秒(アンテナ回転数1分間15回)とすれば、1000×4×2÷360=22.2となって、鮮明度が改善されることになる。
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