7・2 人工衛星による位置測定
人工衛星による位置測定も、これまで述べてきた位置測定法の中の流れの一つとして説明することができる。
(1)静止衛星と移動衛星
人工衛星にはその利用目的に応じて静止衛星と移動衛星がある。静止衛星といっても地球上から見て静止しているように見えるだけで、地球を離れて見ればいずれも同じく地球を取り巻く軌道上を移動しているから、静止衛星とはその角速度が地球の自転と同じである衛星のことである。衛星の軌道面は必ず地球の中心を含んでいなければならず、静止して見えるためには必ず赤道上になければならない。そして地球の自転と同じ角速度で周回するためには、衛星の軌道半径は地球の中心から約42,000Kmでなければならず、地球の赤道半径は約6,380kmであるから、地上からの高さは約36,000kmとなる。この高さ以外の衛星は地球上から見れば必ず移動して見えるので、いわゆる移動衛星ということになる。この移動衛星には軌道面が地球の自転軸を含む(北極と南極の上を通る)極軌道衛星と、非極軌道衛星とがある。
GMDSSで利用される人工衛星には、次のようなものがある。
(1)406MHz-EPIRBで利用されるコスパス・サーサット極軌道衛星(地上高さ約1,000Km、周期約100分) 図7・7のA
(2)インマルサット通信やL band-EPIRBに利用されるインマルサット静止衛星(地上高さ約36,000Km、周期24時間) 図7・7のB
(3)GPSに利用されるナブスター非極軌道衛星(地上高さ約20,000Km、周期約12時間) 図7・7のC
図7・8はコスパス・サーサット極軌道衛星と406MHz-EPIRBの地球に対する位置関係を示している。
図中のOは地球の中心とし、S1、S2、・・・Siは時刻iにおける衛星の位置とすれば、そのXYZ座標は計算が可能である。またEPIRBの推定位置として一応何等かの値を与えることにより、時刻iにおけるEPIRBの推定位置PiのXYZ座標も与えられるから、時刻iにおける衛星とEPIRBの推定位置との距離SP1、SP2、・・・SPiはベクトル〔Ri〕の絶対値として表すことができる。
ベクトルRiは、OSベクトル(XYZ成分はそれぞれXosi、Yosi、osi)とOPベクトル(XYZ成分はそれぞれXopi、Yopi、Zopi)との差であって、OSベクトルを〔Vsi〕、OPベクトルを〔Vpi〕とすれば、〔Ri〕は〔Vsi〕-〔Vpi〕であるから、次のようになる。
で、
として計算することができる。
そして時刻iにおける衛星とEPIRBの推定位置との距離SPiは、次の式で計算される。
一定秒数(i+l)後の距離SPi+lも同様に計算できて、両者の差をΔRciとすれば、
ΔRci=SPi+l-SPi として計算が可能である。
このΔRciを計算距離差という。
一方EPIRBは、遭難情報と同時に基本の周波数406MHzの情報を送っているから、衛星位置の変化による距離の変化は、ドプラー効果によって周波数の変化(ドプラーカウント)として衛星経由で地上局に送られ、地上局ではこのドプラーカウントから真の距離差(ΔRti)を得て、真の距離差と計算距離差の差から、推定位置の間違いによる距離差の誤差εΔRiが計算される。
εΔRi=ΔRti-ΔRci である。
一方、誤差方程式から
として計算される。
ただし、Δφは推定位置の緯度の誤差、Δλは推定位置の経度の誤差、Δfは周波数の誤差である。
これをεΔRi=C1i・Δφ+C2i・Δλ+C3i・Δfと係数整理して、更に観測を続けると、
εΔRi=C1i・Δφ+C2i・Δλ+C3i・Δf
εΔRi+1=C1i+1・Δφ+C2i+1・Δλ+C3i+1・Δf
εΔRi+2=C1i+2・Δφ+C2i+2・Δλ+C1i+2・Δf
・・・
εΔRi+n=C1i+n・Δφ+C2i+n・Δλ+C3i+n・Δf
とn+1個の観測方程式が得られる。
ここで未知数はΔφ、Δλ、Δfの3個であるので、最小自乗法によって求めることができる。
このΔφ、Δλ、Δfを推定位置に加えると、推定位置が修正される。
修正された推定位置を用いて、再び上記の計算を繰り返し、更に同様の計算を繰り返し行うと、Δφ、Δλ、及びΔfの値が次第に小さくなり、一定の値以下になったならば、計算を停止する。そうすれば、計算を停止したときの一定の値以内の精度でEPIRBの位置が得られたことになる。
この方法によるEPIRBの位置測定は、図7・9のように衛星の二つの位置を焦点とする立体的双曲線面が、地球表面と交わる双曲線に似た位置の線の交点として位置が求まることを意味している。
|