2・3・6 整流試験
(1)中性点の決定
一般にブラシ位置は、電気的中性点又はその付近に設定される。補極巻線をもつ機械では、電気的な中性点は幾何学的な中性点とほぼ一致すると考えてよい。
最終的には負荷をとった場合、望ましい負荷特性、整流状態を得るような位置に決めなければならない。ブラシの位置を移動できるものでは、製造工場において決定した場所(ブラシ保持器枠と固定部)に合マークがつけられている。
中性点を決定する方法は一般にキック法が採用されるが、場合によっては交流電圧法、負荷試験法による決定法がある。
キック法についてはブラシのすり合わせを十分に行ったのち、正負ブラシ間に数ボルトの両振れの電圧計を接続し、界磁回路に定格界磁電流の約30%を突然入・切し、ブラシ間に接続された電圧計の振れが最小になるようにすれば、その位置が中性点である。
(2)整流調整上の注意
整流試験は、直流機の試験項目のうちでやっかいな問題である。
整流調整は、電気的な要素のほかに、機械的要素、ブラシの材質などが総合されていっそう複雑となっている。
整流調整を行うには次のような項目を確認する必要がある。
(a)整流子振れの大きさ
(b)ブラシの圧力
(c)ブラシの振動
(d)ブラシの当り
(e)ブラシの材質
(f)ブラシの取付角度
(g)正・負ブラシの間隔
(3)整流調整方法
整流の悪い原因として、電気的な要素と機械的な要素があるが、電気的原因は、特別な場合を除いて、補極の強さを適正にすることによって調整することができる。
補極の強さを調整する方法として、次のような検出方法がある。
(a)添加励磁による方法
(i)補極の強弱判定
図2・22のように補極へ添加電源を接続し、一定電圧、一定速度において各負荷電流に対し無火花帯を測定する。無火花帯の測定は、任意の負荷電流を流し火花が発生するまで強める。
火花が発生後徐々に弱め、火花の消えるときの添加電流を測定する。
図2・22 補極添加励磁回路
図2・23 無火花帯
同一方法で、添加電流を補極電流に対し正極性・負極性の場合を行い、図2・23のような無火花帯曲線を得る。
同曲線で無火花帯の中心点より過・不足補極電流IPを求める。IPにより、補極の強さをその値に相当するだけ調整すればよいが、一般には補極のギャップを調整して、補極の強さを適正に調整する。補極が強すぎる場合は、補極に分流抵抗を接続して調整する場合もある。
(ii)補極ギャップの決定
補極ギャップの調整値は実績値をもとにして作った次のような実験式を使うのが簡便である。
上式のIP/Iの前の符号はIPが和の方向のときは上段、差の方向のときは下段の符号を使う。Δδが−のときは補極ギャップを減少させ、+のときはギャップを増加する。
(b)ブラシの電圧降下測定による調整方法
負荷運転中図2・24(a)のような方法で、整流子とブラシ間の電圧分布を測定する。
整流子に当てる導体は、整流子を損傷しないような、例えばカーボンのとがったもの、鉛筆などを利用するとよい。この電圧分布を曲線に描く図2・24(b)において、曲線aが理想的であり、曲線bは不足整流で補極弱すぎ、曲線cは過度整流で、補極強すぎと判断できる。
図2・24 ブラシ電圧降下の測定(a)と電圧降下曲線(b)
(4)整流試験
整流調整が終わって、温度試験直後又は直流機が暖まっている状態で、特に指定がなければ、ブラシの位置を変えることなく、定格出力のとき定格電圧・定格電流になるような界磁電流を流し、無負荷から定格電流の150%まで増加しても有害な火花を発生しないことを確かめる。
有害な火花とは、火花により整流子表面を黒化したり、あるいは傷つけたり、またブラシに著しい摩耗あるいは破損をおこし特別な補修を行わなければその後の運転が行えない状態をいう。
火花の判定は、図2・25に示すような火花号数によって行う。
有害な火花は、同図において5号以上と考えてよい。
整流試験の際における合格・不合格の判定基準としては、100%負荷以下では花火号数2号以下、常用過負荷範囲においては3号以下が妥当な値と考えられる。
図2・25 火花号数
温度試験の一般事項については、交流発電機の 2・2・8(1)項を参照のこと。なお、直流機の温度上昇限度についても2・2・8(1)に述べてある。
(1)試験場の注意事項
直流機として、特に次のことを注意する。
(a)温度試験を行う定格値
自己冷却式電動機で使用速度範囲の広いときは、定格出力と回転速度冷却効果を考慮し、温度的にもっとも苦しい定格での温度試験を行う。
(b)整流の確認
温度試験中、整流子の温度上昇とともに整流状態の変化がないかどうかも温度測定時に確かめることが望ましい。
(c)ブラシの温度
ブラシの温度は、規格に規定されていないが、一般的に100℃を超えると、ブラシの摩耗が非常に増大するので、ブラシ圧力、振動等の再調整を行うとともに原因を調査すること。
(d)温度測定場所
構造上吸気が一方のみに限定するときは、電機子巻線では吸気側と排気側の温度差が非常に大きい場合があるので、できるだけ排気側の温度を測定すること。
温度試験のときの負荷方法は、電源及び負荷装置などの条件を考慮しなければならないが次の方法がとられる。
(a)実負荷法
電源及び駆動機の容量が十分なる場合で比較的小形機に適用される。発電機のときは、金属抵抗や水抵抗器を使い、電動機のときは、負荷用の発電機やうず電流ブレーキなどを使う。簡単で安全性がある。
(b)返還負荷法
電源の都合上、又は試験機が大容量で実負荷法を適用できない場合はこの方法を使う。これは発電機又は電動機の出力を外部で消費させず、電源側に返還し、損失に相当する電力の供給のみで試験を行う方法である。この方法にもいろいろあるが主なものを次に述べる。
(3)分巻直流機の返還負荷法
(a)電動発電機として2セットある場合
同容量程度の電動発電機がある場合、図2・26のように接続し被試験機DG1、負荷用発電機DG2の電圧及び極性を合わせACBを閉じ並行運転する。次にDG1の界磁電流の調整により、一定電圧にしながら、DG2の界磁電流を必要とする負荷電流に達するまで減少する。このときDG2は電動機となり、誘導電動機IM2は誘導発電機となって電力を返還する。電機子回路の抵抗Rは負荷安定用で定格電流においてその電圧降下が定格電圧の数パーセントとなるような抵抗値が適当である。
図2・26 電動発電機の返還負荷法
(b)カップ法
この方法は被試験機と同程度の試験用機がある場合に適用でき、図2・27のような接続をする。
DG、DM間に規定電流を流し、電源からは両機の全損失のみを供給する。
図2・27 カップ法
(c)その他の方法
ホプキンソン法、ブロンデル法、ハッチンソン法などがあるが省略する。
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