座禅の呼吸法による脳波の変化(トポグラフィー解析)
そのことをもう少し、これは、遅いアルファ波、速いアルファ波というものを脳全体で出していきます。呼吸法をやりますと、こういうふうに速いアルファ波のほうが脳全体に広がってくることが分かります。そのときに仲介するのはセロトニン神経だろうということが考えられます。人間ですから、脳の中のセロトニン神経の活動を撮ることはできませんので、血液ないしは尿の中のセロトニンを測ることによって、確かにセロトニン神経が活性化されているという証拠を見ます。そうしますと、これは尿中になりますけども、呼吸法のあと、セロトニンのレベルが上がっていくということから、セロトニン神経が活性化されると、今言ったすっきり爽快のアルファ波が出るということになります。
これは動物実験の脳波です。セロトニン神経が活性化されると、動物実験の脳波に変化が出るということがありますので、こういうふうに考えることができます。ちょっと難しくなりますが、大脳の働きを見てもらって、やっているのは、呼吸法をやっているだけなんですが、大脳の働きを変えるのに二つの経路があります。一つはこういうふうな、目を閉じたら外部からのいろんな感覚刺激が大脳を活性化する。そういう経路と、もう一つは、ここにありますセロトニン神経を介したその経路の二つがある。
二つの経路のうちの一方はセロトニンで、もう一つは外からのいろんな感覚刺激。目を閉じるということがアルファ波を出すというのは、やはり早計で、もう一つの経路がセロトニン。ですから、二つの違うアルファ波、速いアルファ波、遅いアルファ波が出たときには、脳内のこういう機構を介しているんだと。あまり細かいことを言ってもしょうがないのですが、ポイントは何かというと、呼吸法をやるとセロトニン神経が活性化されて、それが大脳の覚醒レベルを変える。しかも、覚醒レベルとして、緊張や不安が取れて、そしてすっきり爽快という覚醒のレベルを作っている。
この実験を記者とかいろんな人に実際にやってもらうのです。そうしますと、確かに皆さん、「それまでごちゃごちゃしてストレスいっぱいだったのが、終わったあとすっきりする」と言います。これをやったことがある人は大体分かると思うのですが、その状態を作り出しているのは、実はこのセロトニン神経を介したこの経路。この神経は何かというと、実はアルツハイマーに関係する神経なのです。いわゆる痴呆に関係する神経ですが、痴呆に関係するその神経を介して大脳全体の覚醒レベルを調節するということが言えます。
こういう研究をしていますと、お坊さんが来て、一緒にやりたいと。これはお坊さんと約1年以上やっていますけれども、脳波を測って実際に採血をさせてくれるのです。お坊さんというのは、いろんな意味で僕には遠い存在だったんですけども、(笑い)いろいろ教えていただき、非常に近しいお友達になって、今、一緒に研究しています。
そのお坊さんの言われたのは、座禅というのは声を出さないのです。だけども、毎日お勤めをするときにはお経を唱えるわけです。お経を唱えるのと座禅の呼吸法が実は同じ効果があるということです。これは読経する前とあとです。アルファ波がたくさん出ます。人によりますけれども、お経を約30分とか40分唱えてもらう。その最中、ずっと脳波を測っているのですが、こういうふうにアルファ波がどんどん出てきます。
それから、その下は筋電図ですが、声を出していますから、実は腹筋運動をして吐いているのです。ただ、吸うときにはゆっくりではなくて、息継ぎですからすっと入る。吸うのは実はどうでもいいのです。吐くのがポイントです。ふーっと吐いていって、吸い方はそこそこ普通で、そしてまたやるだけで、実は同じことが起こる。ですから、お坊さんは、いろんな所に行ってお経を唱えていますけども、あれはご本人にとっても非常にいい。実際に皆さんそう言います。これは尿中のセロトニンを測っていますが、読経するとこういうふうに血液の中のセロトニンが増えます。そういう意味では、座禅と基礎は同じです。
読経中の脳波の変化
ただ、面白いことは、読経のときに速いアルファ波が出てくるのですが、お経の内容は皆さんほとんど知らないと思います。実は僕も知らなかったのですが、実はあの経典をコピーさせてもらって、やっている最中に今どこをやっているかというのをチェックしながら脳波を測ったのです。データは次にお示ししますけども、よく言えば、南無妙法蓮華経。これは分かりますよね。
散文
偈分
唱題
これは唱題、ないしは念仏を唱える。それからもう一つは、これは偈文(けつぶん)と言って、大体5文字の韻を踏んで、聞いていても非常にいい感じです。ただ、内容は全く、読んでも分からないです。お坊さんに聞いても分かる人はいない。(笑い)そういう、偈文と言って、韻を踏んでいて非常にリズミカルだけれども、内容がない。これがポイントです。内容がないのがいいのです。音だけなのです。これがいいです。それからもう一つは、今度は、お釈迦さんがどうしたとかいろいろこういう、よく私たちが分かる、国語の教科書を読むような内容になります。
そういう三つの部分からなっていまして、この散文、偈文、唱題というふうに分けますと、これらの散文という所から偈文に入ります。偈文に入ると、この速いアルファ波が増えます。散文になると、せっかく増えていてもまた減ってしまいます。それから、偈文になるとまた増えてきます。というふうに、内容によって脳波の変化が変わるのです。ですから、呼吸法によって速いアルファ波が出るのですが、そこのところに、内容が分かって、特に左脳が働くわけです。言語脳が働かないでリズムだけ。
実はこういうことをやっているとお坊さんと対談する機会もあって、昨年、玄侑宗久さんという芥川賞作家の方と対談をしたのですが、その時も同じことを言っていました。暗証しているもの、それからこういう中身は分からないもの。一番高僧ですと、曹洞宗の館長された板橋興宗さんという、もう80近いと思いますが、その方も言っています。内容がないほうがいいと。その意味は、私たちの脳波の研究で大体裏付けられます。
読経中の脳波のトポグラフィー解析:散文と偈分の比較
どういうことかというと、これはアルファ2という速いアルファ波です。時間が横ですが、これ、たくさんアルファ波が出ている。この時期です。この時期は、唱題に相当する。この時期です。何をやっているかというと、「南無妙法連華経、南無妙法連華経」ただずっと繰り返しているだけなんです。その前は偈文ですから、ちょっと意味が分からないことをやる。最初は分かるのです。実はお経はそれを繰り返しているのです、2回か3回。
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