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 これからの話は、そういう意味で、恐らく、セロトニン神経というのは発見されて50年ぐらいしかないですけれども、人間の脳にあの辺りからずっと一生あるわけです。そういう意味では、セロトニン神経という点からすると、お釈迦さんのほうが、私が今知っているよりもはるかにたくさん知り尽くしていただろうと思われるところです。
 これから、まず、セロトニン神経とはどんなものかという話をします。セロトニン神経は、お手元の資料にもありますけれども、脳の中のある一つの神経が非常に、言ってみるとこれだけ心に影響するので、そういう意味では大脳の一番上位脳にあるだろうと想像されるのですが、実はセロトニン神経というのは一番古い脳であります。これがセロトニン神経のある場所です。
 一番上が大脳ですから、この大脳の下。しかも、ここから先が脊髄ですから、脳の一番古い、そして一番奥にあります。矢印が書いてありますけれども、矢印は、神経というのは情報を伝達するわけです。その情報を伝達する場所を表していますけれども、この場所から大脳、それからここら辺に心の部分がありますけれども、大脳に影響を与えて、大脳全体、そこに影響を与えて、脳の覚醒レベル、私たち、寝て、起きて、起きた状態で覚醒させるのにいろんな覚醒レベルがありますけれども、その覚醒レベルにまず影響を与える。それから、心です。大脳の下の所に大脳辺縁系という場所がありますけれども、そういう心に発生する脳神経系に影響を与える。
 それから、これは痛みの調節をするという点では非常に重要です。最近、偏頭痛にいい治療薬としてセロトニン関連の薬が注目されていますけれども、痛みの調節をしてくれる。皆さんは恐らく脳内麻薬様物質というのを聞いたことがあると思いますが、麻酔とかいろんなかたちで脳の中に痛みを抑える物質が出てくる。セロトニン神経も実は、活性化しますと痛みを抑える。そういう働きをします。それから姿勢を整える。座禅も姿勢を整えることから始まりますけれども、セロトニン神経が活性化されると姿勢が整うという部分があります。それから自律神経。交感神経、副交感神経というようなかたちで言いますと、自律神経を適当に調節してくれる。
 そうしますと、大体私たちの体のすべてに影響するのです。脳の一番古くて、一番奥にあるのですが、それが果たしている役割は、大脳、それから心、自律神経、筋肉、それから感覚という意味では脳全体に影響を与える、かなり特殊な神経になります。普通、神経といいますと、カエルの実験で運動神経を刺激すると筋肉が動く所。あれが神経の私たちの夢なのですが、このセロトニン神経というのは、そういう意味では、非常に広い所、脊髄も含めた脳全体に影響を与えるという点では、極めて特殊です。こういうタイプの神経は脳の中に10個もないです。それぐらい少ない。
 ただ、この神経は、これだけあちこちに影響を与えていますから、その内容は細かい指示をすることができないのです。与えられる指示というのは、脳全体の状況を作る。私はよく、オーケストラの指揮者だと言います。オーケストラの指揮者というのは実際に自分では何の楽器も演奏しないわけです。けれども、真ん中にいて、タクトを振ると、その楽曲全体に雰囲気をつくる。そういう働きをします。1個の神経細胞が影響を与えている脳の神経細胞の数が約数万個あるのです。1人が数万個に影響を与えるわけですから、その内容は細かい指示ではない。極めて大雑把な雰囲気作り、状態を作る、そういう神経になります。
 では何の状態を作るのかというと、その前に、先程セロトニンの再吸収阻害剤という薬の話をしました。その薬はここに効いています。セロトニンの再吸収と書いてありますけれども、神経細胞がありまして、矢印が出ていますが、あれが約数万本に分かれている。これは1本ですけど、数万個に分かれて、今言ったようにいろいろな所に影響を与えるのがセロトニン神経だということになります。そのセロトニン神経の末端からセロトニンという物質を放出して情報伝達をするので、セロトニン神経、自律神経とかいろんな名前がありますけれども、機能はこれだけたくさんありますので、放出物資とした表現ができない。ですから、セロトニン神経という言い方をします。
 情報がこうやっていま、物質として、ここまでは電気振動だと思いますが、ここから先はセロトニンという物質が出て次の神経に影響を与える。この多い少ないによって、その影響が強い弱い、ないしはセロトニン神経の働きがしっかりしている、ないしは弱っているという根拠になります。弱ってきますと、この分泌量が減ります。減った分は受容体に対する影響が少なくなります。ただし、このセロトニン神経には、余った分を再利用する、セロトニン再取り込みという装置があります。
 ですから、出して余ると再利用して、リサイクル利用しながら、このセロトニン神経の働きが調整されているわけです。けれども、出る量が少なくなってきたときには、材料にかけるところを阻害する。そうすると、出る量が少ない分を見かけ上、増やすことができる。それは先程のSSRIという薬の作用基準です。ですから、弱ったセロトニン神経の働きを、この薬を使うことによって、見かけ上、少しでもいい状態にしようというのがこの薬です。
 私の注目するのは、もともと出す量を調節するのはこの神経の発射です。神経の発射が多ければたくさん出ますし、少なければ出が少なくなるということになりますので、この神経発射を増やすメカニズムを理解すればいい。弱るのは、その神経発射を減らす方向にいろいろなことが起こっている。ですから、発射のところに注意を向ければいいと。
 そうしますと、この神経は、睡眠と覚醒の状況によって活動のレベルが変わってしまう。今のこのポイントの線、これが神経発射になりますが、これが要は実際の、これは人間じゃないですけども、動物から採った神経グラフですね。これは、一番下が英語ですけども、レムスリープ、スリープです。これは睡眠のときの発射です。発射がほとんどゼロになります。この場合も、発射がまばらになっています。ところが、上の二つは起きているのです。起きているときには、ずっともうこのセロトニン神経の活動が起こります。これを拡大しますと、こっちのように、セロトニン神経が非常に規則的に、大体1秒に2、3回の頻度で発射が続くわけです。
 ですから、先程、オーケストラの指揮者は何をやっているのかというと、覚醒をやってきているのです。起き出すと、この神経は活動を始めます。寝ている間は休んでいます。起き出すとこの活動が起こります。起きると、ずっと活動し続ける。ずっと活動し続けることによって、それが、今言いましたように、大脳から脊髄まで全部に影響を与え続けますから、起きたときの状況を演出してくれるわけです。まさに覚醒を演出する神経というのは間違いないです。
 ただ、この神経を増やしたり減らしたりする因子は何だろうと。一つは太陽の光です。太陽の光を浴びますと脳の中からその光の情報が入って、直接にこの神経を活性化する。もう一つ重要なのが、ここに出てくる、体を動かす。私たちが起き出すときのことを考えますと、もちろん太陽の光も重要ですけれども、普通は「おい、おい」と大きい声を出して、そして起きなければたたいて痛みを与えたりすると起きるはずです。ですから、一種のストレスを与えると覚醒というのは起こるわけですけども、そのストレスをこのセロトニン神経に与えても、全く何もしないのです。
 
 







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