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1. はじめに
 近年、沿岸域、特に人々が最も親しみ利用している海岸には、ゴミの放置、不法投棄、河川からの流入等によりあらゆる種類のゴミが漂着・散乱し、自然の景観や訪れた人々のやすらぎを奪い、景観だけでなく海洋生態系、漁業資源等にも大きな影響を与えている。
 このため、毎年全国各地で地方自治体、漁協、環境ボランティア等が、ゴミ清掃活動をしているが、恒常的な清掃システムでないため問題化しているのが現状である。
 本事業は、海岸、海浜に、漂着、散乱している海洋ゴミ問題に対して、国や民間を越えた社会活動システムの構築という観点から地域主導で取り組む社会システムづくりを目的に始めたものである。
 
2. 事業の概要
 海洋のゴミ問題を解決するには、社会や個人レベルでの意識改革、陸域と海域が連携した管理体制の一元化、行政、企業、NPO、地域住民の連携等、地域に密着した海岸清掃等に係わる循環型社会活動システムの構築が必要であると考え、平成14年度には海洋ゴミ清掃システムを策定し、主に常滑市で実証活動を行った。平成15年度は、海洋ゴミ清掃活動を継続的に行う循環型社会活動システム「地域の海洋環境貢献活動プロジェクト」として、各地域(稚内、気仙沼、常滑、加世田、宮古島等)において地域のNPO、民間組織等と協働で活動を実施した。
 今年度は、平成15年度の活動地域に加え、山形県酒田市、愛知県幡豆町、愛知県日間賀島、鹿児島県鹿屋市、熊本県宇土市、佐賀県伊万里市、鹿児島県枕崎市、沖縄県平良市(宮古島)等で活動を実施した。
 また、本事業で実施してきた「地域の海洋環境貢献活動プロジェクト」に直接携わった地域の方々が一堂に会し、お互いの情報交換やネットワーク化を目指して、平成17年2月25日、日本財団ビルにおいて「ゴミ問題に取り組む地域社会」―循環型の継続的活動を目指して―と題し交流会議を開催した。
 
3. 事業計画の内容
3.1 海岸清掃等に係わる社会活動システムの構築
 社会活動システムの地域拡張策として、平成14、15年度に実施した地域(北海道稚内市、愛知県常滑市、宮城県気仙沼市、鹿児島県加世田市、沖縄県平良市(宮古島))に加えて、今年度は、山形県酒田市、東京都新島村、愛知県日間賀島、鹿児島県鹿屋市、宇土市、伊万里市、枕崎市等で、プロジェクトの説明会を開催すると共に、活動を実施した。
 また、3年間の活動に直接携わってきた各地域の方々が集まり、お互いの情報交換や活動のネットワーク作りと地域におけるゴミ問題社会活動システムの構築を目指し、「ゴミ問題に取り組む地域社会」―循環型の継続的活動を目指して―と題して、交流会議を開催した。
 
3.2 海洋ゴミの集積・処理に関する社会的運用システムの構築
 平成15年度に実施した国内外の海洋ゴミ集積技術及び海洋ゴミ処理技術調査を基に、自然系海洋ゴミの処理技術について、処理装置を試作し実験を行った。
 
4. 海岸清掃等に係わる社会活動システムの構築について
4.1 地域の海洋環境貢献活動プロジェクト
4.1.1 地域の海洋環境貢献活動プロジェクトの概要
 本プロジェクトは、海浜のゴミ対策に苦労している地域の方々と協力して、海浜清掃活動に環境チケット(地域通貨の一種)を取り入れ、地域経済の活性化も視野に入れた実践を伴う循環型プロジェクトである。
 また、海洋環境教育プログラムを通じて、人々(特に子供たち)の海洋のゴミ問題への関心を促し、健康できれいな海を取り戻すことを目的として、SOF海洋政策研究所が提案し実践している。
 
1)海洋ゴミ問題についての基本認識とプロジェクトの概要
 海洋をめぐる環境問題解決のためには、国際的な取り組みが必要であることは論を待たないが、各コミュニティでの地道で実践的な取り組み無しには問題の解決ができないと考える。
 その際、最も大事なことは、その取り組みが「継続的」に推進されることである。そのためには、個別の地域社会を構成する当事者(行政、企業、NPO、地域住民など)が連携して地域に密着した活動を行うことが必要である。
この様な継続性を持った社会活動システム作りがまず必要となるが、平成14年度に海浜清掃等の海洋環境貢献活動に地域通貨*の一種の環境チケットを取り入れた「地域の海洋環境貢献活動プロジェクト」(図4.1)構想を策定した。
*地域通貨:環境保全や福祉・教育等、お金に換算しにくい活動・サービス等に関して、地域社会が発行するチケット等を、通常の貨幣に代わり活用する仕組み)
 
図4.1 プロジェクトの概要
 
2)活動プロジェクトのコンセプト
 地域の海洋環境貢献活動プロジェクトのコンセプトを図4.2に示す。
 ここで、「海洋環境貢献活動」とは、主として海浜清掃活動であるが、その他、河川・河口の清掃、海浜の植生活動、海面・海底の清掃活動等も地域によっては活動に含まれる。
 この、海洋環境貢献活動を行う「地域市民」は、海洋環境を守る意識のある人々で誰でも自由に参加できることとし、海洋環境貢献活動を行ったお礼として「環境チケット」が与えられる。
 「環境チケット」は、地域の環境がきれいになったお礼として商工業・観光業者・自治体等が協力し、地域商店や公共施設、レジャー施設の割引、地域銀行の預金金利の上乗せ等の特典が付加される仕組みである。
 本プロジェクトでは、初めてプロジェクトを実施する時に環境チケットの使い方を知ってもらうため、海浜清掃参加への特典(メリット)として海の工作教室を開催した。
 
図4.2 地域の海洋環境貢献活動プロジェクトのコンセプト
 
3)活動プロジェクト特色
(1)フィールド重視・問題解決型モデルである。
(2)官民協働の地域パートナーシップが創出できる。
(3)海浜清掃、海洋環境教室、漂着物・海の植物・生物等を使った海の工作教室を導入した。
(4)海洋環境貢献活動に地域通貨の一種である環境チケットを導入した。
4)活動プロジェクト実施の効果
(1)継続的な地域社会活動が可能になる。
(2)海洋環境が改善される。
(3)地域社会の環境意識が向上する。
(4)海洋資源(観光、レジャー、いやし効果等)が創り出される。
(5)環境チケットの導入により商店等の集客効果等により地域経済が活性化する。
5)活動プロジェクトの内容
(1)海洋環境貢献活動
 海岸で清掃を行いゴミの種類や量、ゴミはどこから来るのか等を教えると共に、海の工作教室の材料として海浜で貝殻や木片等を集める。
 環境貢献活動として、海に限らず河川や道路、公園等での清掃、整備等の環境保全活動を取り入れることもできる。
 写真4.1、写真4.2に海浜清掃活動の状況等を示す。
 
写真4.1 海浜清掃活動の様子
(愛知県常滑市多屋海岸)
 
写真4.2 集めた海洋ゴミ
(愛知県常滑市多屋海岸)


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