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プロジェクト計画:
国際規制レジームの包括的かつ統一された
グローバルな海洋ガバナンスへの統合
Merlin M. Magallona
フィリピン大学法学部教授
 
概要
 この会議の議題は「宣言:新たな海洋安全保障の概念“海を護る”」の草案を作成することである。この宣言の採択は、同会議の歴史的重要性をしるすこととなるであろう。
 
 本論文で提起する計画は、この宣言を新しい海洋安全保障の概念を実現する「海洋ガバナンスの包括的なグローバル・システムに向けて国際レジームを統合するための規範に関する国連宣言草案」に転換することを目指すものである。
 
 この国連宣言草案は、この会議に参加する国連海洋法条約(UNCLOS)加盟国を指導的機関とし、国連システムの中での新しい海洋安全保障概念の実現を規定するものである。
 
プロジェクト計画:
国際規制レジームの包括的かつ統一された
グローバルな海洋ガバナンスへの統合
Merlin M. Magallona
フィリピン大学法学部教授
 
 本計画は、本会議で採択される「宣言:新たな海洋安全保障の概念“海を護る”」を出発点としている。本計画の推進は、次の各段階に分けられる。
 
第1段階
 1. 「宣言:新たな海洋安全保障の概念“海を護る”」(以下 本宣言)の採択に当たって、本会議は本宣言を、付属資料Aに定義する「海洋ガバナンスの包括的なグローバル・システムに向けて国際レジームを統合するための規範に関する国連宣言草案」を実現するための基盤とみなす。
 
 この目的ゆえに、本会議はワークショップとして開催される必要があるものとする。ワークショップの課題は、本会議で採択する本宣言を、国連総会宣言草案の形に整えられるか否かを検討するということである。
 
 2. 本会議で宣言される、新たな海洋安全保障の概念の構築は、国連総会宣言草案の前文に掲げられることになる。国連宣言草案の該当する諸項目が、その履行における初期施策を規定する。
 
 従って、国連宣言の採択に関して、国連事務総長の指示のもと、国連事務局が研究報告書を作成する。その目的は、国連総会で採択された本宣言の下で必要な要件を具体化し、さらに新たな海洋安全保障概念の実施案の一部として明確化し、自身の解釈に寄与することにある。国連事務局の実施案は国連宣言と共に、国連海洋法条約の締約国会議における初期討論の基礎を形成すると同時に、国連宣言で個別に言及された他の多国間条約の下での制度的取り決めにおける協議の基準点となるものとする。
 
 3. このような形で国際社会にむけて提唱する意図は、海洋における人類共通の利益を、本会議で提唱する新たな海洋安全保障の概念に置き換えることの重要性を強調するところにある。
 
 新たな海洋安全保障の概念を表明する媒体としての国連総会は、国連を代表すると同時に、国際社会の民主主義基盤を代表するものである。
 
第2段階
 1. 本宣言の履行に関する責任は、主として国連海洋法条約の締約国会議、その他関連する多国間条約の締約国会議や会合にあるものとする。
 
 2. 締約国会議とは、多国間条約におけるすべての締約国を代表する総合機関である。締約国会議は、条約の下で、明示的あるいは黙示的権限に基づいて設置されるものとする。締約国会議はその本質として国際機関の範疇に入るものではないが、継続的な実行委員会、事務局、その他の補助団体を設置できるものとする。締約国会議は、補助団体および事務局の進行規則やガイドラインを採用するなど、内部の事柄を規定する権限を持つ。1
 
 国連総会の採択に基づいて本宣言を履行する際、特に重要なのは、国連海洋法条約の下で締約国会議が引き受けることとなる次の3つの機能である。締約国会議は、(1)継続する規則制定プロセスによって、例えば議定書を採択することなどにより、多国間条約の締約国の義務をさらに発展させるものとする。(2)条約の履行、あるいは条約締約国の義務の遵守に関して、監督機能を有するものとする。(3)活動プログラムや機能の統合に向けて協力、推進する目的で、他の多国間条約の締約国会議との緊密な関係を保持するための仕組みを確立するものとする。2
 
 3. 国連海洋法条約の締約国会議は、本宣言履行の主導機関として、国連総会の提言を受けて開催されるものとする。本条約は文言上、締約国会議を想定していないが、黙示的権限により、締約国はこうした会議を招集できるものとする。
 
 4. 国連海洋法条約の319(2)(e)項にて「(国連事務総長は)この条約により必要な締約国の会合を招集すること。」3と事務総長に依託された直接の権限に関する国連総会での宣言による提言に従って、一締約国、もしくは複数の締約国は、国連宣言に基づき、国連事務総長に対し、書面にて締約国会議の招集を要請するものとする。この職務の遂行に当たって、国連事務総長は、国連海洋法条約の受託者に加えて、事務総長としての職務をも果たすものとする。4
 
 締約国によるこうした会議は、国連海洋法条約の前文第3項で「海洋の諸問題が相互に密接な関連を有し及び全体として検討される必要があることを認識し」と述べられているように、より大きな枠組みの中で行われるものとする。
 
 5. このように、国連宣言の目的に導かれ、国連事務局の支援を受けて、また他の締約国会議との間で維持する協議や協力を継続することによって、崩壊しかねない様々な規制システムの機能と履行の統合を達成することができる。更に、国家が管轄する海洋と、それ以外の海洋区域の統一基準設定と規制措置における障害を乗り越え、国連海洋法条約の締約国会議の初期作業は、海洋ガバナンスの新たなグローバル・レジームへと発展することができる。
 
第3段階
 1. 国連海洋法条約の締約国会議は、その活動を国連宣言の下で進めるために、内部の組織構造を、次のように想定するものとする。
 
 
 締約国会議はその全権限を、国際法の下にある国際機関の黙示的権限に類似したものと解釈する。5締約国会議が義務の遂行に当たって複雑な問題に対処する際の柔軟性は、国際司法裁判所の勧告的意見Legality of the Threat or Use of Nuclear Weapons(核兵器の威嚇あるいは使用の正当性)に示されている判断に関連する。
 
 国際機関に与えられた権限は通常、構成文書における主題として明確に記述されている。しかし、国際社会の必然性から、目的を達成するために、組織の活動を規定する基本文書には明示されていない副次的な権限を持つ諸組織が必要になることもある。通例、国際機関は「黙示的」権限といわれるこうした権限を行使することができると認められている。6
 
 上記図中の「調整局」は、様々な国家、国際機関、国連関連組織、非政府組織(NGO)などの、グローバル・ガバナンスに従事している勢力および組織との関係を含む広範囲の協議網を構築しなくてはならない。この観点から調整局は、グローバル・ガバナンス委員会が活動の指針としてとらえるグローバル・ガバナンスの概念を念頭に置くよう指示されるものとする。
 
 ガバナンスとは、個人および組織が、公的および私的に、一般的な問題を管理する多くの方法の総体であり、衝突しあう様々な権益を調整し、協力的な行動をとるための継続的なプロセスである。ガバナンスには、遵守を強制する権限を持つ公式の組織やレジームのほかに、人々や組織が合意した、あるいは自らの権益になると認めた非公式の取り決めも含まれる。
 
 グローバルレベルでは、ガバナンスは主に政府間の関係とみなされてきたが、これからは非政府組織や市民運動、多国籍企業、そして世界資本市場も含めて理解する必要がある。これらの組織と情報を共有しているのが、非常に大きな影響力をもつグローバル・マスメディアである。7
 
 新たな海洋安全保障の概念を扱う3つの国際会議を通して、シップ・アンド・オーシャン財団は、グローバル・ガバナンスにおける問題の複雑さを提起した。既存のレジームの基盤を新たなものへと移行させることが事業の本質であり、それゆえに概念面、構造面双方の変化が必要とされることから、その指導力は非常に重要である。
 
 この非常に困難な課題に取り組むために、グローバル・ガバナンス委員会がその概念において意図する、勢力や組織の動員を支援しうる行動計画を実行するための事務局を、本会議またはシップ・アンド・オーシャン財団が設立する必要があるかもしれない。
 
 
1. See Robin R. Churchill and Geir Ulfstein, Autonomous Institutional Arrangements in Multilaterial Environmental Agreements: a Little-Noticed Phenomenon in International Law, American Journal of International Law, vol. 94, No. 4, October 2000, pp. 623-659.
2. Id., p. 626.
3. こうした会合は明らかに、条約の改正を行うことのみを目的とする312項「改正会議」とは別個のものである。
4. 319(2)(e)に基づく国連事務総長の職務は、国連海洋法条約の受託者としての職務とは別個のものであり、ここでは「のほか」という記述でこれを示している。
5. See Robin R. Churchill and Geir Ulfsten, op.cit., supra, note 1, pp. 632-633.
6. ICJ Reports, 1996, 66, 79, para. 25.
7. OUR GLOBAL NEIGHBOURHOOD, REPORT OF THE COMMISSION ON GLOBAL GOVERNANCE, pp. 2-3 (Oxford University Press, 1995).
 
付属資料 A
海洋ガバナンスの包括的グローバル・システムに向けて
国際レジームを統合するための規範に関する国連宣言草案
 国際連合総会は、
 
 国連憲章の下、経済的、社会的、文化的あるいは人道的性質を有する諸問題の解決に際して国際協調を得ることを含め、共通の目的の達成に当たって諸国の行動を調和するための中心となるという国連の目的に導かれ、
 
 海洋資源開発への責任の増加や、全体的な地球環境の悪化、冷戦後の世界における新たな緊張や衝突の原因が生じることによる安全保障の脅威増大などの理由で、海洋が地球上の生命の維持に重要な媒体となった事実を認識し、
 
 地球の生物圏の状況は、海洋や沿岸における生態系の破壊や海洋資源の枯渇、地球温暖化、気候変動などにより破滅的な状態になるとの見通しであり、またその規模は人類の生存すら脅かすものであることを意識し、
 
 海洋における地球温暖化の影響、とりわけ海抜上昇が、大半の島嶼国家や大洋の真中にある群島、世界の沿岸地域居住者にとって、安全保障上の問題となっていることを深く熟慮し、
 
 国際テロが海洋にも拡張し、海洋通商を危険に晒すことに留意し、
 
 海洋の利用に関する状況の大きな変化が、海を護るという新たな概念に向けた、関連する安全保障制度の抜本的な見直しの必要性を際立たせていることを信じ、
 
 海洋領域の諸問題は密接に関連しあっており、総体的に検討する必要があるという国連海洋法条約の根本的原則を再確認し、
 
 ただし、海洋、海洋資源およびその機能は、それらが本質的に相互に結びついており、国際社会共通の関心における結束を担うとしても、規制制度の普及の中で細分化されることに留意し、
 
 望ましい海洋ガバナンスのグローバル・システムにおいて協調的な意志決定のための枠組みを伴いながら、海洋領域の拡張は機能的に統一され、最後まで国家主権の要件は変化する状況の過程を踏まえて、そのようなガバナンスと一体となる必要性があることに一層注意し、
 
 国家・民族の安全は、総体的な海洋の安全保障に不可欠であり、また、海洋ガバナンスの統一的で包括的な制度の必要性が、国際社会共通の関心を反映していることを強調し、
 
 ここに次の通り宣言する:
 
 1. 環境保護、資源活用、気象の懸案事項、軍隊および対テロ活動と平和維持を含む、海洋管理の全側面を統一する安全保障概念に基づく海洋ガバナンスの統一的なレジームを発展させることを目的として、海洋領域に関係した規制システムと管理メカニズムの現状を包括的に再検討する必要性を認識する。また、海洋ガバナンスの一環となる国家管轄区域における統一基準設定や規制メカニズムの共同の枠組みの必要性も認識する。
 
 2. 国連海洋法条約の締約国に対して、前記の通り、そうした取り組みを主導すると共に、本決議案の目的と意義を果たすことを提言する。
 
 3. 国連海洋法条約の締約国に対して、関連する多国間条約、特に環境と発展に関する条約の下、締結国会議や会合との関係を維持する制度的取り決めの構築などの、締結国が本決議案に基づき適切であると判断するような施策を講じることを促進するため、締結国会議召集の実現の可能性を確認することを要求する。
 
 4. 国連環境計画に対して、条約や議定書に基づく締結国会議や会合が、地域海洋プログラムの下で実施した研究計画の提言を要求する。本決議案の第1章に記述される提言に関して、地域海洋プログラムは、国連海洋法条約の締結国会議との協力により履行されるものとする。
 
 5. 廃棄物などの投棄による海洋汚染の防止に関する条約、オゾン層保護に関する条約およびオゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分に関する条約、気候変動に関する国際連合枠組条約およびその京都議定書、生物多様性条約、そして、本決議案の懸案事項に対して、その研究が重要な影響を与える他の多国間条約の制度的取り決めに基づく締結国会議や会合に対して、国連海洋法条約の締結国と共に、後者が本決議案の第2章で決定する事案についてしかるべく協議に着手することを提言する。
 
 6. 事務総長に対し、本決議案の下、初期研究の基礎となる研究報告書の準備を要求する。前記した締結国会議や会合に対しては、本決議案を指針として、グローバルな海洋ガバナンスの統一した包括的なシステム概念の構成の要点をまとめることを求める。


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