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吟剣詩舞の若人に聞く 第66回
藤野綾さん
 
藤野綾さん(十八歳)●福岡県飯塚市在住
(平成十六年度全国剣詩舞コンクール決勝大会剣舞少年の部優勝)
姉:藤野舞さん
母:藤野代志乃さん
父(師):藤野昭錬さん(日本壮心流剣詩舞道九州昭武館館長)
失敗を克服した、家族の細やかな愛情
 藤野綾さんとご家族には、平成十六年度全国剣詩舞コンクール決勝大会当日、剣舞少年の部優勝直後に笹川記念会館において、優勝の喜びやコンクールのことを中心にお話をお聞きしました。
 
――優勝された、今の感想からお聞かせください?
「まだ信じられないと言うのが、今の気持ちです」
――今回の演舞は自分の評価ではいかがですか?
「自分では満足する舞ができ、終わったあとも、後悔はありませんでした」
――気をつけられた点は何ですか?
「とにかく一生懸命にやるだけで、その気持ちを持ってやれば、満足できる演舞ができると思い、舞台に臨みました」
――お父様としてご覧になった感想はいかがですか?
昭錬「率直に申し上げて、稽古のときよりも迫力が少なかったように感じましたが、優勝できたというのはかえってそれが良かったのでしょう」
――迫力が足りないといわれたけれど?
「自分では全力を出し切って演じたつもりなので、それが客席から見て、自分がどう見えたかはよくわかりませんね」(笑)
――お母様の感想をお聞かせください?
代志乃「子供たちが舞っているのを見るのは、生きた心地がしませんね(笑)。綾は昨年は失敗したことがありましたが、今年は落ち着いて失敗もせず演じていたので、良かったと思います。三年前に姉が優勝させていただき、妹のほうも親としては気がかりでしたから、本当によかったです」
――お姉様の感想はいかがですか?
「よく頑張ったと思います。稽古では、できなくて泣いている姿をずっと見てきたので、心からおめでとうといいたいです」
「ありがとう」
――今回の演題「青葉の笛」で気をつけられた点は何ですか?
「役柄が年配の方の役なので、気持ちがなかなかつかめなくて悩んだこともありましたが、先生に相談しながら、役になりきれるよう気をつけて演じたつもりです」
――ご指導されていて、綾さんはいかがでしたか?
昭錬「昨年失敗をしまして、それを取り戻すのに一年かかりましたが、指導していても、それがあったからこそ今日があるのかなとは思います」
――失敗というのは何ですか?
昭錬「納刀ミスと、袴を少し踏んだことです(笑)。稽古ではそのようなミスがまったくありませんでしたし、昨年の舞は今年よりも良いと私は思っています。それだけに本人も昨年は相当悔しかったと思います」
「いつもはしない失敗ですし、それだけにショックが大きく、心が傷ついた感じで・・・舞っている間中、どう自分の気持ちを立て直すかばかりを考えて、最後まで舞ってしまいました。大会が終わってしばらくは、まじめに稽古に打ち込めない時期もありました」
代志乃「昨年は稽古のときから本人の調子もよく、家族中でショックを受けましたね(笑)。特に主人のショックは大きく、笹川記念会館のエレベーターの横で、綾にむかって大変強い口調で怒り、それを見ている私たちも精神的にきつかったです(笑)。だから今日はホッとしました」(笑)
――そんなに怒られたの?
「はい、前を向いて歩けませんでした」(笑)
――そのショックを克服する切っ掛けはなんですか?
「お姉さんとかお母さんが励ましてくれましたが、最初は励ましの言葉をもらっても落ち込んだままでした。それでも声をかけてくれ、支えになってもらいながら今日まで来た感じです」
――お姉様はどんな言葉をかけましたか?
「日頃の舞台でもミスをなくすように、物を取るときは気をつけて、落ち着いて舞うように言いました。父から本当に強く怒られ、へこんでいましたから」(笑)
――今はニコニコしておられるけど、怒るというのは、それだけ期待しているし、愛情があるからではないですか?
「そうだとは思いますが、怒るとこわいです」(爆笑)
「気にしないで頑張れ頑張れと応援しました」
――小さなころから厳しかったの?
「はい、厳しく稽古させられましたね」
――そういうことに反発を感じたこともあるの?
「正直なところ、小学校六年から中学校くらいまでの間、反発を感じたこともありましたが、辞めようと思わなかったのは、やはり剣舞が好きだからだと思います」
――三年前、お姉様の優勝インタビューをしましたが、自分もいつかは優勝をと思っていましたか?
「やはり羨ましかったです」(笑)
――お姉様はライバルという感じですか?
「ライバルという感じはありませんが、負けたくはないですね(笑)。でも、私にできないことが、姉にはできるので、尊敬の気持ちのほうが大きいです」
「ありがとう」(笑)
「優勝インタビューですから、かっこいいこと言おうと思って」(爆笑)
 
優勝の報を聞いて喜びの藤野綾さん(右より2人目)を中心にポーズをとる、左より母の藤野代志乃さん、姉の藤野舞さん、師であり父である藤野昭錬さん
 
――お姉さんから見て妹さんはどうですか?
「いい意味でライバルですね。自分にできないことも妹にはできるので、お互い教えあい支えあっていける、いい関係だと思います」
――お母様から見てお二人はいかがですか?
代志乃「私にとって姉妹も主人も良き指導者ですから、大変助かっています」(笑)
――今回は姉妹と奥様の三人がコンクールに出場されましたが、指導者としてお嬢さんの方がご心配でしたか?
昭錬「その件に関しては、ノーコメントにしておきます」(爆笑)
――今後の剣舞に対するテーマなどはありますか?
「テーマというのではありませんが、賞をいただいたことにより、少なからず自信というものも出てきましたし、これを誇りに、さらに精進していきたいと思います」
――今の自分に足りないものは何ですか?
「舞台に立って、緊張しすぎて自分をコントロールできなくなるときがあるので、体をコントロールできる技術を身に付けたいです」
――綾さんに対してアドバイスなどがありましたらお願いします。
昭錬「タイトルをいただいたので、そのタイトルに恥じることの無いように頑張ってほしいと思います」
代志乃「本人も言っていますが、若い人に剣詩舞をもっとやってほしいので、いろいろな場で活躍し、後継者が生まれるように頑張ってください」
「優勝は私にとっても嬉しいことですし、これをひとつのステップとして、二人で一緒に頑張っていきたいと思います」
――最後に綾さんの決意などがありましたら、お願いします。
「来年からは青年の部になりますから、これを新たなスタートとして、さらに上のレベルを目指していきたいと思っています」
――本日は慌ただしいなか、インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。これからの皆様のご活躍を期待しております。


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