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剣詩舞の研究
石川健次郎
 
特集・幼少年の剣詩舞を考える(二)
 前回では幼少年の情操教育として、吟剣詩舞が「子供の将来を豊かにするもの」と云う問題意識を述べ、その具体例として、昭和53年から実施して来た日本吟剣詩舞振興会の「全国剣詩舞コンクール」で取り上げた作品についての概要を列挙してみました。
 
稽古ごとの功罪
 さて“稽古ごと”としての剣詩舞を考えた場合、子供達は何を目標にして稽古に励めばよいのか、また父兄や先生(指導者)は何を目的にして指導すべきかを考えてみましょう。
 まず前者の場合、子供と剣詩舞との“出会い”が、友達関係によるものや、父兄の知りあいや紹介者による場合などにもよりますが、いずれにしても、この“縁”を大切にして、なお剣詩舞と云う芸能の持つ優れた内容の感動を伝え、その美しさを理解させることを心がけ、更に礼儀や節度ある品格と自尊心を教えたいものです。
 次に稽古ごとに共通した、上達することの優越感(他人は出来ないが、自分は出来ると云った)を教えることで、その効果に励みをつけます。
 さて後者は、当然子供としての人格養成に目を向けるべきですが、悪い例としては稽古の成果ばかりに気持がはしり、子供に過重な稽古を強要することで、こうした事は避けるべきです。
 よく耳にすることですが、コンクールのための稽古が批判の対象になります。こうした問題はその実体を十分に考えて、何よりも子供に“やる気”を持たせることが大切で、“甘え”や過保護による“怠け癖”は戒める(いましめる)べきでしょう。
 さらに指導者は、その教え方が“幼少年”によく理解されているか、又稽古の手順が効率よく行われているか、などをチェックする必要があります。
 指導の途中でも、よく出来れば褒めてやることを忘れずに、また出来が悪い場合でも、何が足りないのかを指摘してやることや、場合によってはやり方自体を変更して、子供の適性を活かしてやることが必要です。
 以上のことは、何もコンクールに限ったことではなく、普段の稽古の場合も同じことが云えます。
 例えば同じ稽古場の同レベルのお弟子と一緒に稽古をさせて自然に競わせる(きそわせる)ことも得策でしょう。
 
楽しく剣詩舞を学ぼう
 それでは具体的な内容についてもう少し考えてみましょう。
 さて、前にも述べましたが、幼少年にはどんな吟題を選べばよいかと云うことは一応おわかり頂けたとして、次に考えることはその曲を如何に料理するか、云い替えれば剣詩舞にする構成や振付の方法について考えることです。
 結論的に云えば、それが出来上ったときに「美しい」とか、「感激的」だとか、「ドラマ的」であったと云う印象が持てる様にすることです。
 まず写真(1)を見て下さい、平成五年群舞コンクール詩舞で優勝した「月夜荒城の曲を聞く」の一シーンです。白扇が円形を描き満月を美しく表現しています。写真(2)「花の足守陣屋町」は詩舞構成で、美しく咲いた花を表現しています。どちらも、誰が見ても納得出来る振付で、なお踊っている子供達にも自分がその美しさの一部分である自覚が秘められています。
 
(1)「月夜荒城の曲を聞く」長坂紗織、長坂恵理子、関みのり、荒谷早智子
 
(2)「花の足守陣屋町」藤上南山社中
 
 次は剣舞です。写真(3)は昭和61年に優勝した「前兵児の謡」です、子供ながら結束した気慨に激しさを感じます。写真(4)は平成三年に幼年剣舞で優勝した「両英雄」です。剣舞の場合は作中の人物の実像ではなく、作品のイメージを演技しますから、演じる子供によく説明して納得する迄稽古します、指導者の腕の見せ所でもあります。
 
(3)「前兵児の謡」安藤裕嗣、安藤由記、堺 友紀
 
(4)「両英雄」長坂紗臓
 
 独舞の場合は、特に詩舞では演技の表現が多様で、振にドラマ的な意味のある(具象)ものや、雰囲気を中心にした(抽象)ものが両方使われます。写真(5)は平成13年に詩舞幼年で優勝した「太田道灌蓑を借るの図に題す」で、子供らしいおおらかさで少女の役をこなす一方、武将太田道灌も上手に芝居した演技でした。写真(6)は昭和55年に詩舞少年で優勝した「寒梅」です。二枚扇を駆使した振付で、梅の花や作者の心情を抽象的に表現していました。当時は幼年の部のない頃でしたから、少し構成のレベルが高かったようです。
 
(5)「太田道灌蓑を借るの図に題す」丸山愛美
 
(6)「寒梅」杉浦裕美
 
 さて幼少年の剣詩舞を楽しく見てもらうためには例えば写真(7)詩舞構成「藤野の里唄」の様に演技する幼少年を楽しく踊らせて欲しいと思います。
 
(7)「藤野の里唄」藤上南山社中
 
 基本的にコンクールの規定は優れた剣詩舞を育てて来ましたが、観客に接する芸能は節度を持って様々な形態があるべきでしょう。最近は大きな舞台で構成された剣詩舞の会が多い様ですが、それを楽しく見せるためにも、例えば全体の流れにドラマ的な内容の起伏をもたせて観客には感激を、出演するものも共感を持って演技して欲しいものです。
(完)


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