5. 今後の対応策について
繰り返し述べることになるが、このままでは沖ノ鳥島はあと半世紀もしないうちに水没・消失する。この島を基点とする大陸棚、排他的経済水域および領土を失うことになる。にもかかわらず、我が国はその危機に対して何ら対策を講じていない。
沖ノ鳥島研究会の示しているのは、まだ素案段階の対応策に過ぎないが、現在ある唯一のアイデアである。この“素案”が“実行計画”になるまで、今後の研究に依るところが大きいのである。以下にその流れを提示し、私の提言とする(図4)。
沖ノ鳥島に自然の力で州島を作ろうとするならば、
第一段階として実態把握が重要である。実態と言っても、長期にわたって安定した州島を目指すのであるから、現況、短期変動および長期変動のいずれについても把握する必要がある。このうち現況は現地調査と既存報告書の精査などで知ることができる。短期変動は5〜10年スケールの変動を指し、地道ではあるがモニタリング調査の繰り返しが必須である。長期変動は、現在の海底基盤の形成時期に関連する100年スケールの変動を指し、現存のコアサンプルの解析などが手がかりになる。
第二段階では対策検討を行うべきである。実態を把握した後は、如何にして州島形成につなげるかを検討する必要がある。州島形成のためには、砂を増やす、砂を溜める、砂を安定させる、の基礎技術開発が必須である。砂を増やすためには、サンゴおよび有孔虫の増殖技術の開発、砂を溜めるためには、海岸工学を考慮した流動制御技術の検討が必要である。砂を安定させるためには、植物による地盤安定化を図るのが一案である。
第三段階として効果検証を行うべきである。砂を増やす、溜める、安定させる、といった個々の要素技術が全体の系のなかで、どのような効果に結びつくかを検証する必要がある。現地検証実験が、費用や規模の面で現実的ではないとすれば、一定の条件を仮定した数値モデルを構築することが必須である。同時に、数値モデルの結果は、水槽実験などで再現し、場合によっては数値モデルの改良を検討しなければならない。
これらのステップを踏んだうえで、フィージビリティスタディ(FS)を行い、必要に応じて、フィードバックや方向修正を行なうなどの順応的対応が行なわれるべきである。
6.まとめ
沖ノ鳥島の水没は、地球温暖化の時計の針が逆回りでもしない限り、猶予がない。州島つくりは、現在のところの唯一のアイデアであるが、環境条件に関する情報が著しく不足しており、素案の域を越えていない。しかし、情報不足を口実にしていては、いつまでたっても目的に進むことはできない。猶予がないのであれば、走りながら考える、考えながら修正することを覚悟すべきである。つまり、沖ノ鳥島の消失を防ぐのであれば、既存の枠にとらわれずに、大胆かつ慎重な取り組みこそ重要である。
7.謝辞
再び貴重な機会を与えてくれた日本財団の皆さま、的確な操船で調査を円滑にサポートしてくださった日本サルヴェージ株式会社の皆さま、楽しく有意義な船内生活をともにした視察団の団員各位、今回の調査指針を与えてくれた沖ノ鳥島研究会のメンバー、そして年度末にも関わらす私の参加を許可した海洋政策研究財団の関係各位に心から御礼申し上げる。
*本レポートのなかで、沖ノ鳥島研究会の検討内容を扱った部分は、報告者個人の見解ではなく、これまでに積み上げられた討議内容を紹介したものである。海面上昇速度や海嶺の沈降速度などの根拠は、平成16年度沖ノ鳥島および周辺海域の管理・利用方法案のとりまとめ報告書― 沖ノ鳥島再生計画―に述べられているとおりである。
図4 沖ノ鳥島再生計画の素案から実行計画までのフロー
|