3.調査概要
(1)調査員
調査は、沖ノ鳥島研究会を代表して報告者、今回参加できなかった大森博士から委任された綿貫氏、柴田女史(いずれもテトラ総合技術研究所)とサンゴおよび潜水調査全般に詳しい横井氏(沖縄県ダイビング安全対策協議会)の4名で実施した。
(2)技術目的
今回の調査は州島形成のための基礎調査と位置付け次の5項目を技術目的とした。
・サンゴの生育状況 : 過去の調査結果との比較
・白化の影響評価 : 1998年、2003年に発生した白化(注1)の影響
・砂礫の移送・流出 : 端艇水路付近および調査域の砂礫の状況
・有孔虫の生息環境 : ターフアルジー(注2)の分布状況
・南端のブルーホール : 水深、サンゴの生育状況
(3)調査方法
今回の調査は図2に示すとおり島の西半分を対象とし、ライントランゼクト調査ターフアルジー観察、任意観察、砂厚調査、およびブルーホール調査を実施した。それぞれの調査方法の詳細は綿貫氏と柴田女史の報告に譲ることとする。
図2 項目別の調査域
注1 白化
サンゴの共生藻類は30℃以上の高水温が続いたり、強度の紫外線にさらされ続けたりすると、サンゴから抜け出てしまう。サンゴは、共生藻類が抜け出ても、すぐに死んでしまうわけではないが、代謝効率が低下し、やがて死んでしまうことが多い。世界規模で白化現象が発生した1998年や2003年の白化は沖ノ鳥島のサンゴにも影響を及ぼしたとの報告がある(斉藤ら, 2003)。
写真1.白化したサンゴ写真
注2 ターフアルジー(芝草状の海藻)
有孔虫は炭酸カルシウムの殻をもつ原生動物であり、深海から浅海、熱帯から寒帯に至るまで広く分布する。そのなかでも、熱帯域に分布する比較的大きな種は、生産量が高いため、州島形成への寄与が期待できる。これら有孔虫の多くは、芝草状の海藻(ターフアルジー)に絡み付いて棲息する。逆にターフアルジーがなくなれば、付着基盤を失うことになり、十分な増殖は期待できないことになる。
写真2.東小島のターフアルジ
4.結果
冒頭で述べたとおり、ここでは砂礫の移送について述べるので、サンゴならびに有孔虫調査の結果については綿貫氏および柴田女史の報告を参照されたい。なお、今回の調査は静穏期にわずか2日間で行なったものであり、調査範囲も島の西半分に限定されている。従って以下に述べる内容は、沖ノ鳥島の全体像を正確に反映するものではなく、定性的な観察結果とそれに基づく推察である。
沖ノ鳥島の環礁縁辺部は礁嶺が発達しその内側に最深でも5mほどの礁池がある。今回の調査では、同じ礁嶺であっても、北側と南側では異なる環境であること、さらに北側礁嶺の中でも中央から西にかけて様子が違うことが確認できた。
図3 調査地点の便宜上呼び名
北側礁嶺(中央部):写真3
東小島の東側に位置する礁嶺部は、水深が浅く、堆積物もほとんどみられない。露岩も平滑で、波あたりの強いことを示唆している。砂礫の供給はあったとしても、それらが堆積する環境にはない。
北側礁嶺(東小島付近):写真4
東小島付近には削り残しのサンゴ石灰岩や凹凸のある基盤岩が多数存在する。基盤岩の凹部にはターフアルジーの群落が分布し(写真2)、その周囲には細砂の集積があった。凹部にある孔はこぶし大で、ガンガゼなどの穿孔性の底生生物によるものと推察できる。前述の中央部と比べて、波あたりも弱く、明らかに堆積環境にある。今回の調査では大型有孔虫のホシズナやタイヨウノスナは確認できなかったが、有孔虫の生息には好適な条件が備わっている。
北側礁嶺(北小島周辺):写真5
北小島の周辺には、大きな礫が相当量、堆積している。大型礫が運ばれる程の流れがあるとすれば、有孔虫殻などで構成される細かい砂の堆積は困難かもしれない。一方でサイズに伴う分別が行なわれるとすれば、細かい砂の行方が興味深く、今後、重点的に調査する価値がある。
*報告者は北小島周辺では調査を行なっていないため、上記は綿貫、柴田および横井氏のコメントに考察を加えたものである。
南側礁嶺部(中央部)とブルーホール:写真6
南側礁嶺部は、北側とは印象が異なり、ガンガゼやシャコガイなどの穿孔生物による凹凸が顕著で、平滑な基盤岩はほとんど認められなかった。南端へ向うとブルーホールが点在するが、その中および付近はもっとも流れが緩やかで、サンゴ礁の発達も顕著だった。サンゴの生育と流れの関連性を暗示する場所である。
礁池(中央部):写真7
今回の観察範囲では礁池には薄くではあるが堆積物が分布したことが分かった。それでも堆積環境ではなく、ガレキサンゴや細砂は大型礫の陰、または海底の凹部を除けばごく薄く堆積しているに過ぎない。
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