日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  浸水事件一覧 >  事件





平成16年神審第80号
件名

モーターボートイー.シー.エス浸水事件(簡易)

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成16年12月2日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:イー.シー.エス船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関室内全機器濡れ損、曳航中沈没

原因
海水系統中のゴム製管継手の温度低下の確認不十分

裁決主文

 本件浸水は、漂泊中、右舷船内外機の冷却海水取水口を閉塞していた浮遊物を除去する目的で前後進を繰り返した際、同海水系統中に用いられていたゴム製管継手の温度低下状態の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月2日12時12分
 福井県小浜湾内大島漁港南東方沖合
 (北緯35度31.3分 東経135度39.1分)

2 船舶の要目
船種船名 モーターボートイー.シー.エス
登録長 6.85メートル
機関の種類 電気点火式船内外機
出力 176キロワット

3 事実の経過
 イー.シー.エスは、昭和53年にB社が製造し、船体中央部に操舵室が配置されたFRP製モーターボートで、推進装置として同室内操縦スタンドからの遠隔操縦が可能な2機2軸の船内外機を装備し、同スタンドには回転計、冷却海水温度計及び潤滑油圧力計などが組み込まれた計器盤が備えられていた。
 A受審人は、平成元年5月四級小型船舶操縦士の免許を取得したのち、余暇を利用してプレジャーボートの運航を繰り返し、平成14年2月に同社が左舷船内外機を更新したイー.シー.エスを購入し、福井県和田港内に所在するDマリーナに保管及び整備を任せ、主に釣りを目的に1年間に数回使用していた。
 右舷船内外機は、米国E社が製造したMCM165型と称する、新造時から搭載されていた機関で、機関室内に据え付けられた原動機(以下「右舷機」及び左舷船内外機の原動機を「左舷機」という。)及び航行中海面下に位置する変速装置並びに推進器からなり、原動機の冷却が海水で行われるようになっており、日頃から冷却海水流量が不足気味であったので、Dマリーナからの低負荷で運転すべきとの助言に基づき、左舷機と共に常用回転数を毎分3,000として運転されていた。
 冷却海水は、変速装置内に設けられた予圧ポンプにより、同装置ケーシング側面に設けられた取水口から吸引・加圧されて原動機前部に設けられた直結冷却海水ポンプに至り、更に加圧されてシリンダブロック、シリンダヘッド及び排気マニホルドの順に冷却したのち、排気と合流し、排気ブーツと称するゴム製管継手及び変速装置内の流路を経て、排気と共に推進器ボス部から海中に排出され、操舵室から通水状態を視認することができない状況となっていた。
 ところで、排気ブーツは、原動機に生じる振動や排気管の熱膨張などを吸収することを目的に設けられ、両端を冷却海水管にバンドで固縛された外径80ミリメートル(mm)、厚さ約7mm及び長さ205mmのもので、冷却海水流量が著しく減少すると、その材料が溶損するおそれがあった。
 平成16年5月2日09時40分イー.シー.エスは、A受審人が単独で乗り組み、友人1人を同乗させ、釣りの目的でDマリーナを発し、10時10分小浜湾湾口沖合に至り、姿勢を制御するために両舷船内外機をアイドリング及び前進に操作を繰り返しながら釣りを行っていたが、船体の動揺が大きくなったので、10時30分波浪を避けるために同湾内に向け航行を再開したところ、いつしか右舷機の冷却海水取水口が浮遊していたビニルシートで閉塞し、通水が阻害される状況となっていた。
 10時55分A受審人は、ゴムが焼けるような異臭と、機関室ハッチから漏出する黒煙を認め、両舷機をアイドリング状態として漂泊したところ、右舷機の冷却海水温度計の指示が平素に比べて高温位置であったことから、過熱気味であることを知り、同海水取水口に浮遊物が引っかかったと判断して直ちに右舷機を停止し、左舷機による前後進を繰り返した。その後、同人は、冷却海水流量の減少に伴って、前記ゴム製管継手の温度が著しく上昇していたものの、船体を前後進させたので浮遊物を除去できたものと思い、11時00分右舷機を再始動したのち、触手するなどして同管継手の温度が低下するのを確認することなく航行を再開し、依然として浮遊物が取水口を閉塞したままの状態であることに気付かなかった。
 こうして、イー.シー.エスは、間もなく右舷機が過熱状態に陥り、いつしか溶損したゴム製管継手に直径約30mmの破口を生じ、多量の海水が機関室内に噴出し、船尾喫水が次第に増加する状況となった。
 11時15分A受審人は、機関室ハッチから漏出する黒煙の量が増加傾向となったので、再び右舷機を停止したが、推進器ボス部の冷却海水排出口から逆流して増加し続けるビルジにより、やがて左舷機の運転も不能となり、漂流を余儀なくされていたところ、12時12分赤礁(あかぐり)埼灯台から真方位258度1,700メートルの地点において、船尾甲板上に溢れ出ている機関室のビルジを認め、同室が浸水していることを知り、海上保安署に救援を依頼した。
 当時、天候は晴で風力5の東南東風が吹き、湾内の波高が1メートルであった。
 その結果、イー.シー.エスは、来援した巡視艇に曳航されて大島漁港に引き付けられたのち、Dマリーナに向け曳航されて回航中、沈没した。

(原因)
 本件浸水は、漂泊中、冷却海水系統にゴム製管継手が用いられた右舷船内外機の、同海水取水口を閉塞していた浮遊物を除去する目的で前後進を繰り返した際、高温となっていた同管継手の温度低下状態の確認が不十分で、同管継手の冷却海水の通水が阻害されていることに気付かないまま運転を継続したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、漂泊中、冷却海水系統にゴム製管継手が用いられた右舷船内外機の、同海水取水口を閉塞していた浮遊物を除去する目的で前後進を繰り返した場合、同海水の通水状況を判断できるよう、触手するなどして、ゴム製管継手の温度低下状態について十分に確認を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船体を前後進させたので浮遊物を除去できたものと思い、ゴム製管継手の温度低下状態について十分に確認を行わなかった職務上の過失により、冷却海水の通水が阻害された状態のまま運転を継続し、同管継手の溶損による破口を招き、機関室を浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION