(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月28日20時00分
マリアナ諸島サイパン島南西方沖合
(北緯10度28.0分 東経144度48.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第八松一丸 |
総トン数 |
19.76トン |
登録長 |
14.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第八松一丸
第八松一丸(以下「松一丸」という。)は、昭和53年12月に進水した、従業制限小型第2種のまぐろはえ縄漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、甲板上の船首側に倉庫、船体中央部に船橋、甲板下の船首側に魚倉、同中央部に機関室、船員室及び食堂、船尾側に魚倉等がそれぞれ配置されていた。
イ 機関室
機関室は、長さ4.3メートル幅3.6メートル高さ4.3メートルの上下2段に仕切られた区画で、出入口として下段右舷船首側に船橋へ、同船尾側に船員室を経て食堂へいずれも通じる各引き戸が設けられており、上段に魚倉用冷凍装置(以下「冷凍装置」という。)の冷凍機、冷媒凝縮器及び冷凍機制御盤、下段の左舷側に船内電源用の発電機原動機(以下「補機」という。)及び補機駆動交流発電機、中央船首側に設置された台に主機駆動交流発電機、同機の船尾側に主機及び主機逆転減速機、右舷船首側に電動渦巻式の冷却海水ポンプ等がそれぞれ装備されていた。
ウ 冷凍装置の冷却海水系統
冷却海水系統は、機関室の右舷側の船体付弁から海水が冷却海水ポンプに吸引されて冷媒凝縮器に至り、冷媒と熱交換を行った後、喫水線上方の船外排出口に導かれる配管になっていた。
冷媒凝縮器は、左右両舷側カバー及び多管式の冷却管群等からなり、右舷側カバーには冷却海水入口管及び同出口管が接続されており、冷却海水入口管の一部として装着されたゴムホースがねじによる締付け部を有する呼び径32ミリメートルの帯状の金属製ホースバンド2個で同管に固定されていた。
3 事実の経過
松一丸は、アメリカ合衆国グアム島アプラ港を基地とし、周年にわたってミクロネシア海域の漁場で1航海25日間程度の操業を繰り返していた。
A受審人は、平素、航行中に機関室を継続的な監視下におくよう機関部の当直体制をとることなく、船橋当直者による2時間ごとのほか自らが適宜に機関室見回りを行うこととしていた。
ところで、冷媒凝縮器は、平成11年11月定期検査の整備で右舷側カバーの冷却海水入口管にゴムホースを固定するホースバンドが2個とも新替えされ、長期間取り付けられているうちいずれも締付け部が腐食し、いつしか腐食箇所に微小な亀裂が生じたが、機関室見回りの際に同部がゴムホースの陰で見えない状況になっていたことから、その状況のまま同亀裂が次第に進行していた。
しかし、A受審人は、漁場からアプラ港に帰港する都度、冷媒凝縮器の冷却管群の海水側に付着する海洋生物を取り除くため、ブラシを通して掃除するとき、左舷側カバーを取り外していたものの、冷却海水入口管が接続されている右舷側カバーを取り外さない手順にしており、同15年5月上旬にいつもの手順で冷却管群の海水側を掃除した際、これまで支障がなかったから大丈夫と思い、右舷側カバーを取り外すなどして冷却海水入口管にゴムホースを固定するホースバンドの点検を十分に行わなかったので、締付け部の腐食箇所に生じていた亀裂に気付かず、ホースバンドを取り替えないまま、その後、冷却管群に海水を通していた。
こうして、松一丸は、A受審人及び船長ほかインドネシア人4人が乗り組み、船首2.2メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、同月8日16時00分アプラ港を発し、ミクロネシア海域の漁場で操業を行い、まぐろ15トンを獲て、補機駆動交流発電機から電力を供給して冷凍装置を運転し、越えて28日03時00分漁場を発進して沖縄県泊漁港に向け、機関を全速力前進にかけて8.0ノットの対地速力で航行中、同受審人が17時20分から10分間の機関室見回りを行った後、前示ホースバンドが締付け部の腐食箇所で亀裂の進行により破断してゴムホースと冷却海水入口管とが固定不良となり、機関部の当直体制がとられていないまま、外れたゴムホースから機関室への海水の漏洩(ろうえい)が続き、20時00分北緯10度28.0分東経144度48.0分の地点において、同室が浸水して補機駆動交流発電機等が濡損し、船内が停電状態になった。
当時、天候は曇で風はなく、海上は穏やかであった。
A受審人は、船員室で休息中、船橋当直者から停電の連絡を受けて機関室に急行し、冷媒凝縮器の冷却海水入口管の外れたゴムホースから海水の漏洩が続いている状況を認め、主機及び補機等を停止するなどの措置をとり、その旨を船長に報告した。
松一丸は、乗組員が全員で容器を用いて排水作業を行った後、冷却海水ポンプ、主機始動電動機、主機逆転減速機、補機及び補機駆動交流発電機等の濡損が判明したが、同電動機を予備と取り替えるなどの措置をとって主機を始動し、濡損を免れた主機駆動交流発電機を運転して航行を続け、翌6月6日泊漁港に入港し、業者による同ポンプ及び補機駆動交流発電機の取替え並びに主機逆転減速機及び補機等の整備が行われた。
(本件発生に至る事由)
1 航行中に機関室を継続的な監視下におくよう機関部の当直体制をとらなかったこと
2 ゴムホースを固定するホースバンドが長期間取り付けられているうち締付け部の腐食箇所に生じた微小な亀裂が進行したこと
3 機関室見回りの際にホースバンドの締付け部がゴムホースの陰で見えない状況になっていたこと
4 冷媒凝縮器の冷却海水入口管が接続されている右舷側カバーを取り外さないで冷却管群の海水側を掃除していたこと
5 冷媒凝縮器の冷却管群の海水側を掃除した際、冷却海水入口管にゴムホースを固定するホースバンドの点検を行わなかったこと
6 冷却海水入口管にゴムホースを固定するホースバンドを取り替えなかったこと
(原因の考察)
本件は、機関長が、冷媒凝縮器の冷却管群の海水側を掃除した際、冷却海水入口管が接続されているカバーを取り外すなどして、同管にゴムホースを固定するホースバンドの点検を行っていたなら、締付け部の腐食箇所に生じていた亀裂を認めてホースバンドを取り替え、さらに、航行中に機関室を継続的な監視下におくよう、機関部の当直体制をとっていたなら、浸水には至らなかったものと認められる。
したがって、A受審人が、冷媒凝縮器の冷却海水入口管にゴムホースを固定するホースバンドの点検を行わなかったことからホースバンドを取り替えなかったこと、さらに、航行中に機関部の当直体制をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
機関室見回りの際にホースバンドの締付け部がゴムホースの陰で見えない状況になっていたことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
ゴムホースを固定するホースバンドが長期間取り付けられているうち締付け部の腐食箇所に生じた微小な亀裂が進行したことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件浸水は、冷媒凝縮器の冷却管群の海水側を掃除した際、冷却海水入口管にゴムホースを固定するホースバンドの点検が不十分で、締付け部の腐食箇所に亀裂を生じていたホースバンドが取り替えられなかったばかりか、航行中に機関部の当直体制がとられず、ホースバンドが亀裂の進行により破断し、外れたゴムホースから機関室への海水の漏洩が続いたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、冷媒凝縮器の冷却管群の海水側を掃除した場合、金属製のホースバンドは腐食して亀裂を生じることがあるから、これを見落とさないよう、冷却海水入口管が接続されているカバーを取り外すなどして、同管にゴムホースを固定するホースバンドの点検を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、これまで支障がなかったから大丈夫と思い、冷却海水入口管にゴムホースを固定するホースバンドの点検を十分に行わなかった職務上の過失により、締付け部の腐食箇所に生じていた亀裂に気付かず、ホースバンドを取り替えないまま航行中にホースバンドが亀裂の進行により破断し、外れたゴムホースから海水の漏洩が続き、機関室が浸水する事態を招き、冷却海水ポンプ、主機始動電動機、主機逆転減速機、補機及び補機駆動交流発電機等を濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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