(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月25日06時50分
北海道宇登呂漁港宇登呂地区
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八和栄丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
17.89メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
481キロワット |
回転数 |
毎分1,450 |
3 事実の経過
第三十八和栄丸(以下「和栄丸」という。)は、昭和62年7月に進水した、刺網及びいか一本つり漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、B社が製造したS160-GN型と称するディーゼル機関を備え、周年、知床半島周辺海域を主たる漁場として出漁していた。
主機は、間接冷却方式で、船底弁から主機直結冷却海水ポンプにより吸引、加圧された冷却海水が、空気冷却器及び逆転減速機の潤滑油冷却器へと分岐し、両冷却器を出たのち、再び合流して主機の潤滑油冷却器及び清水冷却器を順次経由し、船外に排出されるようになっていた。
主機逆転減速機の潤滑油冷却器は、単流多管式熱交換器で、冷却海水が鋼管で導かれ、同管と同冷却器側蓋との接続には、使用条件として圧力2キログラム重毎平方センチメートル流体温度摂氏マイナス10度から60度周囲温度摂氏60度までの、外径50.1ミリメートル厚さ6.0ミリメートル長さ約200ミリメートルで90度の曲がりをもたせたゴム継手を用い、その両端部を鋼製バンドで締め付けて水密が保たれていた。
そして、機関室には、ビルジ高液面警報装置を備えていた。
和栄丸は、年間の主機運転時間が1,000時間ばかりで、4月か5月に上架して船体及び機関の整備を行っていた。
ところで、ゴム継手の耐用年数は、使用状況により差があるものの、主機製造会社では1年ごとの整備及び2年ないし3年ごとの新替を推奨していたが、和栄丸では、平成7年10月に新替えされたものが継続使用されていた。
A受審人は、平成元年に実父が船長の和栄丸に甲板員として乗り組み、同2年10月一級小型船舶操縦士免許を取得し、平成15年4月から船長職を執ると同時に機関の保守運転管理に当たることとなった。
A受審人は、平成15年4月末北海道羅臼港で和栄丸を整備のために上架し、ゴム継手を取り外して主機逆転減速機の潤滑油冷却器の整備を行った際、同継手を長期間使用すると衰耗劣化が進行して破損するおそれがあったが、ゴム継手に目立った損傷を認めなかったので、このまま使用しても大丈夫と思い、定期的に新替えするなどして同冷却器海水管のゴム継手の整備を十分に行うことなく、主機逆転減速機の潤滑油冷却器の整備を終えた。また、機関室ビルジ高液面警報装置の作動の確認を十分に行っていなかったので、同装置が作動不良となっていることに気付かなかった。
和栄丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、ほっけ漁の目的で、船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成15年5月25日03時30分北海道宇登呂漁港宇登呂地区を発し、同地区西方約3海里の漁場に至って操業を行い、06時30分ほっけ約20キログラムを漁獲して操業を終え、機関回転数を毎分1,200にかけ10.0ノットの対地速力で、漁場を発進して帰航中、主機逆転減速機の潤滑油冷却器海水管のゴム継手が破裂して海水が噴出し、ビルジ高液面警報装置が作動しないまま機関室に浸水し続け、06時50分宇登呂港北防波堤灯台から真方位316度160メートルの地点において、発電機が冠水して短絡し、停電状態となった。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は平穏であった。
浸水の結果、和栄丸は、発電機などの電気機器を濡損し、自力で宇登呂漁港宇登呂地区に入港したのち、各機器が修理された。
(原因)
本件浸水は、主機逆転減速機潤滑油冷却器海水管のゴム継手の整備が不十分であったことと、機関室ビルジ高液面警報装置の作動の確認が不十分であったこととにより、同継手が破裂して海水が噴出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関の保守運転管理に当たる場合、主機逆転減速機の潤滑油冷却器海水管のゴム継手を長期間使用すると同継手に衰耗劣化が進行して破損するおそれがあったから、定期的に新替えするなどしてゴム継手の整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同継手に目立った損傷を認めなかったので、このままゴム継手を使用しても大丈夫と思い、同継手の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、ゴム継手が破裂して海水が噴出し、機関室を浸水する事態を招き、和栄丸の発電機などの電気機器を濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。