(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月18日06時00分
岩手県大船渡港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八勇進丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
75.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第八勇進丸(以下「勇進丸」という。)は、航行区域を限定沿海区域とする鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、 漲水(ちょうすい)することができる全バラスト量の65パーセントにあたる550トンを漲水し、船首0.60メートル船尾2.78メートルの喫水をもって、平成16年2月17日16時10分宮城県石巻港を発し、岩手県大船渡港に向かった。
ところで、A受審人は、大船渡港港内の琵琶島西方沖合から同島北東方沖合にかけて養殖漁業区域が設定され、かき養殖施設が多数設置されているのを知っていたが、同港入港前、風力3と風も弱く、海面も静穏であったことから、明朝の積み荷役に備えてバラスト水を全量排水して同港の防波堤内に入り、22時20分弁天山三角点63メートル頂(以下「三角点」という。)から253.5度(真方位、以下同じ。)690メートルの、水深が20メートルの地点に右舷錨を投錨した。
A受審人は、同日18時50分ごろテレビの天気予報で、接近する低気圧のため、岩手県南部に強風波浪注意報が出されており、夜になると北西風が強まることを知っていたが、平素、錨鎖を3節まで入れて単錨泊としていたところを4節まで入れたので大丈夫と思い、バラスト水を漲水して喫水を深くし、風圧面積を少なくするとか、守錨当直を配置するなどの走錨に対する配慮を十分に行うことなく錨泊し、自室のベッドで休息した。
勇進丸は、翌18日早朝から突風を伴う強い北西風により養殖施設に向けて圧流され始め、05時57分A受審人は、たまたま小用のため起きた甲板員に船尾方の網が近い旨を知らされたが、どうすることもできないでいるうち、06時00分三角点から209度600メートルの地点において、船首が西北西を向いた状態で、船尾部が同施設に乗り入れた。
当時、天候は晴で風力6の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、17日11時30分大船渡測候所から強風波浪注意報が発表されていた。
この結果、勇進丸に損傷はなかったが、養殖施設に損傷を、養殖かきに被害をそれぞれ生じた。
(原因)
本件養殖施設損傷は、夜間、強風波浪注意報が発表された状況下、養殖施設が設置されて水域が制限された岩手県大船渡港に錨泊する際、走錨に対する配慮が不十分で、吹き出した強い北西風に圧流されて風下の養殖施設に乗り入れたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、強風波浪注意報が発表された状況下、養殖施設が設置されて水域が制限された岩手県大船渡港に錨泊する場合、同注意報が発表されているのを知っていたのであるから、バラスト水を漲水して喫水を深くし、風圧面積を少なくするとか、守錨当直を配置するなどの走錨に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素、錨鎖を3節まで入れて単錨泊としていたところを4節まで入れたので大丈夫と思い、走錨に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、風圧面積を少なくすることも、守錨当直を配置することもしないまま錨泊して休息し、吹き出した強い北西風に圧流されて風下の養殖施設への乗り入れを招き、同施設に損傷を、養殖かきに被害をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。