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平成16年那審第25号
件名

水上オートバイ セナ アンド コスモ運航阻害事件

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成16年11月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(杉?ア忠志、小須田 敏、加藤昌平)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:セナ アンド コスモ船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:セナ アンド コスモ所有者

損害
イグニッションコイル2個が焼損

原因
電装ボックスの点検不十分

主文

 本件運航阻害は、水上オートバイの電装ボックスの点検が不十分で、同ボックス内に海水が浸入したことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月1日10時00分
 沖縄県勝連埼南西方沖
 (北緯26度17.6分 東経127度53.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 水上オートバイ セナ アンド コスモ
登録長 2.66メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 58キロワット
(2)設備及び性能等
 セナ アンド コスモ(以下「セナ」という。)は、Cが平成10年3月に製造した3人乗りのFRP製水上オートバイで、前部にステアリングハンドルバー、続いて鞍型の操縦者用の前部座席及び同乗者用の後部座席が設けられていて、前部座席に跨った操縦者が進みたい方向に同ハンドルバーを左、または右にきると、船尾にあるジェットポンプ推進装置のジェットノズルがこれに連動し、同ノズル噴流の向きが変わることにより旋回するようになっていた。
 セナは、前部座席の下方に位置するエンジンルーム内に装備されたエンジンの毎分回転数を調整するスロットルレバーがステアリングハンドルバーの右グリップ根元部に、船首部の物入れに格納された燃料油タンク及び予備燃料油タンクの切換え用燃料ノブが船体の右舷側中央部に、エンジン発停用のスタート及びストップの各ボタンが同ハンドルバーの左グリップ根元部にそれぞれ設けられていた。
 セナのステアリングハンドルバーの前部には、回転計、速度計及び燃料油量計などの計器並びに燃料油残量及び蓄電池充電不足などの警報装置を組み込んだ計器盤が備えられていた。
 セナのエンジンルームは、C製のJT750ZE型と称する、定格回転数毎分7,000の2サイクル2シリンダ電気点火機関を装備し、同機関の上方に、コンデンサ放電点火式イグナイタ、イグニッションコイル及びスタータリレーなどを格納した電装ボックスを備え、シリンダ内に吸入された空気とキャブレータにより気化された燃料油のガソリンとの混合気が、同コイルからキャブタイヤケーブル(以下「ケーブル」という。)を経て、シリンダ頂部に取り付けられた点火プラグに給電された高電圧の電流によって着火、燃焼するようになっていた。
 ところで、電装ボックスの側面は、蓄電池からスタータリレーに至るケーブル、同リレーからセルモータに至るケーブル及びイグニッションコイルから点火プラグに至るケーブルなどが貫通していて、エンジンルームに入った海水が同ボックス内に浸入して同コイルなどが焼損することのないよう、ニップル継手形ジョイント(以下「ジョイント」という。)の一方にOリングを装着して同側面に締め込み、ジョイントにケーブルを通したのち、ジョイントの他方にグロメットを挿入してキャップで締め付け、水密を保つようになっていた。

3 事実の経過
 A受審人は、例年通り、久場埼海岸でキャンプ会を行うこととし、B指定海難関係人にも同会に参加するよう声をかけ、平成15年12月31日午後水上オートバイの愛好者及びその家族十数人と、同受審人所有の1人乗り水上オートバイ及び同指定海難関係人所有のセナのほか、3人乗り水上オートバイが同海岸に集まった。また、集まった3台の水上オートバイは、同会に参加した者で、特殊小型船舶操縦士の免許を受有しているならば各水上オートバイを自由に使用することができるようになっていた。
 B指定海難関係人は、平成15年12月31日昼ごろセナをトレーラに積み込み、これを自動車で牽引して久場埼海岸に赴き、A受審人が主催するキャンプ会に参加し、同日に約1時間ばかりと、新年を迎えた翌1月1日07時30分から同時50分ごろまでセナで遊走を楽しんでおり、その際、エンジンの不調を認めなかった。
 しかしながら、B指定海難関係人は、平成15年9月中旬にセナの電装ボックスの点検、整備を行ったが、その後同ボックスのジョイントの緩みの有無などについて、定期的に同ボックスの点検をしないまま遊走を繰り返していたので、いつしかエンジンの振動の影響を受けて、ジョイントに緩みが生じ、同箇所から浸入する海水によりイグニッションコイルが焼損して運航不能に陥るおそれがあることに気付いていなかった。
 平成16年1月1日05時ごろ起床したA受審人は、初日の出を観賞したのちに朝食を摂り、07時30分過ぎB指定海難関係人がセナで遊走しているのを見ていたところ、水上オートバイの後ろに乗せてくれと友人に乞われ、自己所有の水上オートバイが1人乗りであったので、セナで遊走することとし、救命胴衣を着用したうえで、燃料油量及び潤滑油量の確認並びにステアリングハンドルバーとジェットノズルの動きなどを点検し、スタートボタンを操作してエンジンを始動させ、その作動音に異常が無いことを確認し、セナ単独で遊走することとしたものの、携帯電話を自己所有の水上オートバイの物入れに入れていたことから同電話を所持していなかった。
 セナは、A受審人が乗り組み、救命胴衣を着用した友人1人を後部座席に乗せ、遊走の目的で、平成16年1月1日09時00分久場埼海岸を発し、沖縄県沖縄市泡瀬の海岸に沿って東行し、同県勝連埼南西沖に向け遊走中、かねてから緩みを生じていた電装ボックスから点火プラグに至るケーブルのジョイントがさらに緩んで海水が同ボックス内に浸入するようになり、絶縁抵抗値が著しく低下していたイグニッションコイル2個が焼損し、10時00分勝連埼灯台から真方位258度1.1海里の地点において、エンジンが自停して運航不能となった。
 当時、天候は晴で風力1の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は、燃料油の供給阻害を疑って燃料ノブを操作して予備燃料油タンクに切り換えてスタートボタンを操作したところ、異常なくセルモータが回転するものの、始動せず、工具も無いことから点火プラグ等の異常の有無を点検できなかったが、湾内は平穏であり、また、海岸から遠く離れていなかったことなどから、しばらくこのまま漂泊して待機することとした。
 B指定海難関係人は、A受審人等が戻らないのを心配して水上オートバイで付近の海岸を捜索したが、セナを発見できなかったことから海上保安庁に救助を要請した。
 その結果、海上保安庁のヘリコプターにより発見され、A受審人及び友人は、来援した巡視艇によって救助され、セナは、久場埼海岸に引き付けられ、のち各部を点検したところ、電装ボックスから点火プラグに至るケーブルのジョイント2個が著しく緩みを生じていてイグニッションコイル2個が焼損していることが判明した。

(本件発生に至る事由)
1 B指定海難関係人が定期的に電装ボックスの点検を行っていなかったこと
2 発航前、A受審人が電装ボックスを点検しなかったこと
3 電装ボックスから点火プラグに至るケーブルのジョイントが緩み、海水が同ボックスに浸入してイグニッションコイルが焼損したこと

(原因の考察)
 本件運航阻害は、定期的に電装ボックスの点検が行われていたならば、同ボックスから点火プラグに至るケーブルのジョイントの緩みを早期に検知でき得たもので、これにより同ボックスへの海水の浸入を防止できたものと認められる。
 したがって、B指定海難関係人が定期的に電装ボックスの点検を行っていなかったことは、本件発生の原因となる。

(主張に対する判断)
 理事官は、A受審人の所為について、発航前に電装ボックスのOリングの緩みなどの点検を十分に行うべき注意義務があった旨を主張するので、以下これについて考察する。
 A受審人は、発航時、
1 水上オートバイの燃料油量及び潤滑油量の確認並びにステアリングハンドルバーとジェットノズルの動きを点検し、始動後のエンジンの作動音に異常が無いことを確認していること
2 本件時、遊走していた水上オートバイが友人のものであったこと
3 受審人は、1人乗りの水上オートバイを所有しており、船体及びエンジン等についての知識及び経験を有していたこと
4 発航前、水上オートバイ「セナ」の所有者が遊走しているのを見ており、また、同所有者から電装ボックスの不具合等について連絡を受けていなかったこと
5 発航前の点検・確認事項として、水上オートバイ取扱説明書に電装ボックスの点検等が記載されていないこと
 以上のことから、A受審人の所為は、本件発生の原因とはならない。
 しかしながら、A受審人は、セナの物入れに小型船舶用信号紅炎が格納されていたとはいえ、セナ単独で遊走するのであるから、携帯電話を所持し、事故発生時の通信手段を確保しておくべきであった。

(海難の原因)
 本件運航阻害は、水上オートバイの電装ボックスの点検が不十分で、沖縄県中城湾において遊走中、同ボックスから点火プラグに至るケーブルのジョイントの緩みが進行し、同ボックス内に浸入した海水によりイグニッションコイルが焼損して同プラグへの給電が不能となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B指定海難関係人が、定期的に水上オートバイの電装ボックスの点検を行わず、同ボックスから点火プラグに至るケーブルのジョイントに緩みを生じたまま放置し、同ボックス内に海水が浸入する事態を招いたことは、本件発生の原因となる。同指定海難関係人に対しては、その後、定期的に同ボックスの点検を行い、事故の再発防止に努めていることに徴し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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