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平成16年神審第53号
件名

モーターボートペポニ運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成16年10月4日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:ペポニ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
運航不能

原因
漂泊時における船外機始動用蓄電池の電気容量措置不十分

裁決主文

 本件運航阻害は、釣りを行う目的で漂泊中、船外機始動用蓄電池の電気容量を維持する措置が不十分で、同電池が過放電状態となり、船外機の始動が不能となったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月1日22時30分
 兵庫県浜坂港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 モーターボートペポニ
全長 5.74メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 51キロワット
回転数 毎分5,500

3 事実の経過
 ペポニは、平成15年7月にA受審人が中古で購入したFRP製モーターボートで、船尾端に船外機が取り付けられ、船体中央部に船外機の遠隔での始動及び操縦ができる装置を備えた操縦席、前部甲板下にキャビン、また、後部に船外機始動用鉛蓄電池(以下「蓄電池」という。)1個が設置された格納庫を有し、GPS及び航海灯などの電気設備を備え、平素、同人の自宅に陸揚げされた状態で保管されていた。
 船外機は、B社が製造した70BETO型と呼称し、潤滑油が混合されたガソリンを燃料とする2サイクル3シリンダ機関で、内部にセルモータ、クラッチ、減速装置及び発電機が組み込まれていたが、手動の始動装置が備えられていなかったことから、専ら操縦席での電気始動方式で始動できるようになっており、クラッチを中立位置(以下「アイドリング」という。)としたときの回転数が毎分1,000に設定されていた。
 蓄電池は、C社が製造した、95D31R型と呼称する定格電圧12ボルト定格容量64アンペア時の鉛蓄電池で、船外機のセルモータのほか、前記電気設備にも給電できるようになっており、船外機始動後、回転数が毎分1,000に達すると発電機に必要最低限の起電力が発生し、蓄電池の充電及び電気設備への給電が行えるようになっていたが、同回転数以上であっても、同設備に給電中や低速運転中は、始動のために大電力を消費し、電気容量が大きく低下した蓄電池に十分な電力が供給されず、充電完了に長時間を要することとなり、また、短時間の運転が繰り返されると、端子電圧に著しい低下が認められずとも、次第に同容量の低下が進行し、過放電状態に陥るおそれがあった。
 A受審人は、機械関連の専門学校を修了後、父親が営む機械の販売及び修理業に携わっており、蓄電池の取扱い及び保守に関する知識を有していたので、ペポニを購入した際、経年劣化が懸念された蓄電池を新替えした。
 ところが、蓄電池は、平成15年8月A受審人が、二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免許を取得し、遊漁の目的で、充電量が不足する短時間の運航を繰り返していたものの、陸上電源による充電が行われることなく保管されていたので、徐々に電気容量が低下する状況になっていた。
 平成15年9月1日A受審人は、船長として単独で乗り組み、友人1人を同乗させ、船外機を始動したのち、GPS及び航海灯に常時給電した状態で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、釣りを行う目的で18時15分鳥取県鳥取港を発したのち、船外機を回転数毎分2,000の低速で運転し、18時35分同港沖合に至り、アイドリング状態として釣りを開始したものの、釣果が芳しくなかったので釣場を変更することとし、19時05分回転数を前回より僅かに上昇させた毎分3,000として移動を開始し、19時30分鳥取県田後港北東方沖合に至った。
 A受審人は、蓄電池の電力容量が十分に回復していない状況のまま、船外機をアイドリング状態として漂泊したのち釣りを再開していたところ、20時20分同乗者から船外機の排気の臭いで気分が悪いと訴えられたとき、依然としてGPS及び航海灯を使用中で、発電機からの電力の供給が途絶えると、蓄電池の電力容量が更に低下することが明らかであったが、新替えしたばかりなので、著しい電気容量の低下を来すことはあるまいと思い、船外機を停止し、蓄電池の充電を継続しなかった。
 こうして、ペポニは、連続して使用していたGPS及び航海灯が、発電機の代わりに電源となった蓄電池から給電される状況で、漂泊を続けるうち電気容量が益々低下し、帰港を予定していた21時に近づいたので、A受審人が船外機の始動を幾度も試みたが、セルモータの回転速度が十分に上昇せず始動できないでいるうち、やがて過放電状態に陥っていたところ、22時30分居組港不動山灯台から真方位336度1.24海里の地点において、巡視船に救助された。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 その結果、ペポニは、巡視船に曳航されて鳥取県網代港に引き付けられたのち、蓄電池の充電が行われ、船外機の始動が可能となった。

(原因)
 本件運航阻害は、電気設備を使用しながら釣りを行う目的で漂泊中、船外機始動用蓄電池の電気容量を維持する措置が不十分で、同電池から他の電気設備への放電が続けられるうち、過放電状態に陥り、船外機の始動が不能となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、電気設備を使用しながら釣りを行う目的で漂泊する場合、平素から発電機内蔵の船外機を、同機始動用蓄電池の充電量が不足するおそれのある状態で運転していることを承知し、また、電気設備の所要電力を把握していなかったのであるから、同蓄電池の適正な電気容量を維持できるよう、船外機の運転を継続すべき注意義務があった。しかるに、同人は、新替えしたばかりの同蓄電池が短時間で著しい電気容量の低下を来すことはあるまいと思い、船外機の運転を継続しなかった職務上の過失により、同蓄電池の過放電を招き、船外機の始動を不能とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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