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平成16年門審第92号
件名

漁船第2大和丸モーターボートエフエム-II乗組員負傷事件(簡易)

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成16年11月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第2大和丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:エフエム-II船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
大和丸・・・損傷ない
エフエム-II・・・ウェイクラインの切損及びハイポールの折損船長が11日間の入院加療を要する右肋骨骨折、肺挫傷などの負傷

原因
大和丸・・・漂泊船との航過距離を十分にとらなかったこと(主因)
エフエム-II・・・ウェイクボーダーの交替時、ウェイクラインを揚収しなかったこと(一因)

裁決主文

 本件乗組員負傷は、第2大和丸が、漂泊中のエフエム-IIを替わす際、同船との航過距離を十分にとらなかったことによって発生したが、エフエム-IIが、ウェイクボーダーの交替を行う際、ウェイクラインを揚収しなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月9日13時11分
 博多港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第2大和丸 モーターボートエフエム-II
総トン数 1.2トン  
全長   6.43メートル
登録長 7.36メートル 5.76メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力   51キロワット
漁船法馬力数 60  

3 事実の経過
 第2大和丸(以下「大和丸」という。)は、採介藻漁業に従事し、船尾に操縦席を有するFRP製漁船で、平成11年9月に一級小型船舶操縦士の免状の交付を受けたA受審人(同16年6月に同免状を更新し、一級小型船船舶操縦士及び特殊小型資格の小型船舶操縦免許証を受有した。)ほか1人が乗り組み、あさり採捕の目的で、船首0.26メートル船尾0.31メートルの喫水をもって、同15年9月9日13時00分ごろ博多港北東部の塩浜の係留地を発し、同港西戸崎北側の漁場に向かった。
 ところで、博多港北部は、アイランドシティを構築するための海面埋立工事が実施され、同工事実施区域と北側の陸岸との間が塩浜などの港奥に通じる水路となり、同水路にはアイランドシティ側と陸岸側のそれぞれに汚濁防止膜が展張されており、可航幅は約100メートルにまで狭められていたが、同水路付近は、海面が静穏であり、平素からウェイクボードと称してスノーボードに類似した板をボーダーが履いて、モーターボートなどにより曳航されて水面上を滑走して楽しむ遊走海域ともなっていた。
 A受審人は、発航後暫くして23.0ノットの対地速力に増速して前示水路に向かって西行し、13時09分半ごろ海の中道大橋下を通過したとき、船首方1,150メートルばかりの、水路のほぼ中央部で船尾を向けて漂泊中のエフエム-II(以下「エ号」という。)を初認した。
 13時10分半、A受審人は、福岡市東区奈多所在の国土交通省福岡航空交通管制部が管理する空中線鉄塔(56)(以下「鉄塔」という。)から151度(真方位、以下同じ。)475メートルの地点で、エ号をほぼ正船首方325メートルばかりのところに視認するようになり、同船がウェイクボード曳航用ロープ(以下「ウェイクライン」という。)を船外に流しているおそれがあったが、同船との航過距離を十分にとることなく、同船の北側約10メートルのところを航過するつもりで、針路を245度に定めて進行した。
 その後、A受審人は、エ号の右舷側から北側に流していたウェイクラインに向かっていることに気付かず続航中、13時11分鉄塔から185.5度560メートルの地点において、大和丸は、その推進器にウェイクラインが絡み付き、同ラインが緊張して、エ号の同ラインを連結していたハイポールと称する曳航属具が折損、倒壊して同船の操縦席にいたB受審人に倒れかかり、同人が負傷した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、エ号は、船尾に海中への昇降はしごを備えたFRP製オープンデッキ型モーターボートで、平成15年6月に二級小型(5トン限定)、特殊小型及び特定操縦資格の小型船舶操縦免許証の交付を受けたB受審人が単独で乗り組み、友人3人を同乗させ、遊走のため、船首0.10メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、同年9月9日10時30分博多港北西部の大岳のマリーナを発し、前示水路に向かった。
 エ号には、浮揚性合成繊維製で、長さ約16メートル、直径約5ミリメートルのウェイクラインを連結するためのハイポールと称する水面上高さ約2メートルの金属パイプ製の三脚型ウェイクボード用曳航属具が、操縦席の後方にあたる船体中央部の甲板金具にピンで取り付けられていた。
 B受審人は、10時45分ごろアイランドシティ前面海域に到着し、以後、前示水路付近でウェイクボードに興じていた。
 13時09分ごろB受審人は、ウェイクボーダーを交替するため、前示発生地点付近で245度を向首し、機関を停止してウェイクボーダーの揚収をしたが、間もなく携帯電話の呼び出し音がしたので、ウェイクラインを右舷方に十数メートル延出させたままこれの揚収をすることなく、操縦席の椅子に腰を掛けて船首方を向いた姿勢で通話していたところ、同時11分わずか前右舷側至近距離に大和丸を認めたがどうすることもできず、前示のとおり負傷した。
 その結果、大和丸に損傷はなかったが、エ号は、ウェイクラインの切損及びハイポールの折損を生じ、B受審人が、ハイポールに強打されて11日間の入院加療を要する右肋骨骨折、肺挫傷などの傷を負った。

(原因)
 本件乗組員負傷は、博多港北部のアイランドシティ前面の水路において、出航中の大和丸が、漂泊中のエ号を替わす際、同船との航過距離を十分にとらなかったことによって発生したが、エ号が、ウェイクボーダーの交替を行う際、ウェイクラインを揚収しなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、博多港北部のアイランドシティ前面の水路において、漂泊中のエ号を替わす場合、同船の至近を航過するとウェイクラインなどを流しているおそれがあったから、安全に航過できるよう、同船との航過距離を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同人は、同船から少し離せば大丈夫と思い、同船との航過距離を十分にとらなかった職務上の過失により、自船の推進器にウェイクラインを巻き込み、エ号のハイポールを倒壊させてB受審人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、博多港北部のアイランドシティ前面の水路において、ウェイクボーダーの交替を行うため漂泊する場合、他船がウェイクラインを巻き込まないよう、同ラインを揚収すべき注意義務があった。ところが、同人は、携帯電話に応答することに気を奪われ、同ラインを揚収しなかった職務上の過失により、大和丸の推進器に同ラインを巻き込ませ、ハイポールが倒壊して自身が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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