日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  行方不明事件一覧 >  事件





平成16年神審第76号
件名

モーターボートかもめのジョナサンIII同乗者行方不明事件(簡易)

事件区分
行方不明事件
言渡年月日
平成16年11月8日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:かもめのジョナサンIII船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
同乗者が、海中に転落し行方不明

原因
縮索作業に対する安全措置不十分

裁決主文

 本件同乗者行方不明は、縮索作業に対する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月31日17時02分
 滋賀県琵琶湖西岸志賀町東方沖合
 (北緯35度11.5分 東経135度56.3分)

2 船舶の要目
船種船名 モーターボートかもめのジョナサンIII
登録長 4.61メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 69キロワット

3 事実の経過
 かもめのジョナサンIII(以下「ジョナサン」という。)は、FRP製モーターボートで、平成10年1月交付の四級小型船舶操縦士免状(当時失効中)を受有するA受審人が1人で乗り組み、Bほか家族及び知人ら6人を同乗させ、遊走の目的で、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成15年8月31日11時00分大津市真野浜を発し、11時20分松の浦水泳場沖合に至って遊走したのち、17時00分少し前発航地に向けて帰航することとした。
 17時00分A受審人は、志賀町の89.0メートル頂所在の下山神三角点(以下「基点」という。)から056度(真方位、以下同じ。)1,540メートルの地点で、直径約1メートルのビニール製浮環(以下「ビスケット」という。)1個を、空気を抜いて船上に上げる手間を省くため、長さ約20メートルのロープで船尾中央のクリートに係止して引航することとし、1人を助手席に、2人を操縦席前方の座席に、2人を同後部座席に、B同乗者を後部座席後方のデッキ上右舷側に、1人を同左舷側に座らせ、いずれにも救命胴衣を着用させないで、 和邇浜(わにはま)に向けて発進した。
 発進したとき、A受審人は、針路を182度に定め、機関を微速力前進にかけ、3.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 17時01分A受審人は、基点から064度1,400メートルの地点において、日没までに余裕をもって帰航することとし、全速力前進の24.0ノットに増速して続航した。
 増速したとき、A受審人は、航走波のため、引航していたビスケットと引航用ロープが左右に大きく振れ始めたのを認め、B同乗者が、振れを止めるため、後方を向いて中腰になり、同ロープを手繰って縮索作業を始めたことを知ったが、同人がこれまでにも何度か同作業を行ったことがあり、慣れているので大丈夫と思い、減速したうえで救命胴衣を着用させるなど、縮索作業に対する安全措置を十分に行うことなく、進行した。
 その後A受審人は、何度か後方を振り返り、B同乗者の作業に注意を払ったものの、依然減速することなくビスケットが左右に振れたまま、ジョナサンは、滑走状態で船底を波に叩かれて上下に動揺しながら原針路、原速力で続航中、17時02分基点から096度1,250メートルの地点において、B同乗者が身体の平衡を失し、海中に転落した。
 当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、波高は約50センチメートルで、視界は良好であった。
 転落の結果、B同乗者は、行方不明となった。

(原因)
 本件同乗者行方不明は、琵琶湖西岸志賀町東方沖合において、ビスケットを引航しながら帰航中、縮索作業に対する安全措置が不十分で、引航用ロープを手繰っていた同乗者が、身体の平衡を失して海中に転落したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、琵琶湖西岸志賀町東方沖合において、ビスケットを引航しながら帰航中、同乗者がビスケット引航用ロープの縮索作業を行うのを認めた場合、ビスケット及び同ロープが左右に大きく振れ、身体の平衡を失することがあるから、減速したうえで救命胴衣を着用させるなど、縮索作業に対する安全措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同人は、同乗者が、これまでにも何度か縮索作業を行ったことがあり、慣れているので大丈夫と思い、縮索作業に対する安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、引航用ロープの縮索作業を行っていた同乗者を海中に転落させ、行方不明とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION