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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  死傷事件一覧 >  事件





平成16年神審第73号
件名

押船第八十八寿美丸被押土運船開発3001乗組員負傷事件(簡易)

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成16年10月6日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:第八十八寿美丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:第八十八寿美丸次席一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)

損害
次席一等航海士が2箇月の入院加療を要する左大腿骨骨折及び左示指基節骨骨折等の負傷

原因
揚土作業中の安全対策に関する指示不十分及び係船索切断時の危険範囲内に立ち入ったこと

裁決主文

 本件乗組員負傷は、船体動揺が予想される状況のもと揚土作業中の安全対策に関する指示が十分でなかったばかりか、係船索の状態を確認する際、係船索切断時の危険範囲内に立ち入ったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月27日15時23分
 神戸港第5区

2 船舶の要目
船種船名 押船第八十八寿美丸 土運船開発3001
総トン数 224.72トン 3,121トン
登録長 30.12メートル  
全長   80.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 2,059キロワット  

3 事実の経過
 第八十八寿美丸(以下「寿美丸」という。)は、鋼製押船でA及びB両受審人ほか3人が乗り組み、土砂4,731トンを積載し船首尾とも4.7メートルの喫水となった開発3001(以下「バージ」という。)の船尾凹部に船首を嵌合してロープで両船を連結した状態(連結状態の両船を「寿美丸押船列」という。)で、船首2.7メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成16年3月27日12時50分尼崎西宮芦屋港を発し、揚土のため、神戸港第5区の神戸空港島建設現場に向かった。
 14時50分A受審人は、神戸第2信号所から196度(真方位、以下同じ。)1,800メートルの地点で、寿美丸押船列を神戸空港島南東側に係留してあった揚土船の右舷側に左舷横付で、船首を286度に向けて、係船索を取り、揚土作業を開始した。
 ところで、寿美丸押船列の揚土船への係船は、バージの船首と船尾にあるウィンチローラーから、それぞれ伸ばした直径60ミリメートルの化学繊維製係船索1本ずつを、フェアリーダーやクロスビットを経由して揚土船の船首と船尾のビットに取り、揚土船の船首部と船尾部から伸ばした直径8ミリメートルのワイヤーロープ1本ずつを、バージの中央部のビットに取っていた。
 バージからの揚土作業は、揚土船上中央の右舷側に設置されたバックホー1台によって行われていたが、バックホーがバージから土を掻き上げると、バージと揚土船が防舷材を挟んで引き寄せられたり、離れたりして船体が大きく動揺し、係船索やワイヤーロープが緊張と弛緩を繰り返すことがあった。バックホーは、固定されていて移動できないので、作業の進捗に伴ってバージの前方への移動が必要となったり、また、バージと揚土船の喫水の変化による調整が必要となったりすると、寿美丸押船列側では係船索を、揚土船側ではワイヤーロープを巻き締めたり伸ばしたりしていた。
 船内における安全及び衛生に関する事項を統括監理するA受審人は、以前に同様の揚土作業で、船体が大きく動揺してワイヤーが切断する経験をしていたので、係船索切断時の危険範囲内に立ち入らないなどの安全対策が必要であることは十分に承知していたが、乗組員がこの種の作業に慣れているので大丈夫と思い、その安全対策に関する指示を十分に行わないまま、係船索の調整に従事させた。
 船内の安全担当者に任命されていたB受審人は、船首部の係船索の調整に従事し、2度目のバージの前方への移動で、揚土船と連絡を取りながら、船首ウィンチからフェアリーダーと船首部クロスビットを介して、揚土船の船首部のビットに取った船首係船索を、同ウィンチで巻き締めて固定した。
 15時23分少し前B受審人は、係船索の調整については何度も従事していたので、係船索切断時の危険範囲内に立ち入らないようにすべきであることを十分承知していたが、係船索が防舷材の下に潜り込まないかどうかが気になって、係船索切断時の危険範囲内であった船首部クロスビットの後方間近に立ち、揚土船とバージの間の防舷材付近を覗き込んだところ、15時23分神戸第2信号所から196度1,800メートルの地点において、後方の異常音を聞いたとき、フェアリーダー付近で切断した係船索が大きく跳ねて、同人の左大腿と左手を強打した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、船橋にいたが、トランシーバーで事故発生の報告を聞き、直ちに現場に赴き、事後の措置に当たった。
 この結果、B受審人は、2箇月の入院加療を要する左大腿骨骨折及び左示指基節骨骨折等を負った。

(原因)
 本件乗組員負傷は、神戸港神戸空港島建設現場において、揚土作業による船体動揺が予想される状況のもと揚土作業中の安全対策に関する指示が十分でなかったばかりか、係船索の状態を確認する際、係船索切断時の危険範囲内に立ち入ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、神戸港神戸空港島建設現場において、揚土作業による船体動揺が予想される状況のもと乗組員を係船索の調整に従事させる場合、係船索切断時の危険範囲内に立ち入らないなどの安全対策に関する指示を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、乗組員がこの種の作業に慣れているので大丈夫と思い、その安全対策に関する指示を十分に行わなかった職務上の過失により、切断して跳ねた係船索がB受審人を強打する事態を招き、B受審人に2箇月の入院加療を要する左大腿骨骨折等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、神戸港神戸空港島建設現場において、揚土作業による船体動揺が予想される状況のもと係船索の状態を確認する場合、係船索切断時の危険範囲内に立ち入らないようにすべき注意義務があった。しかしながら、同人は、係船索が防舷材の下に潜り込まないかどうかが気になって、係船索切断時の危険範囲内に立ち入った職務上の過失により、船体の動揺で切断して跳ねた係船索が自身の体を強打する事態を招き、前示の骨折等を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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