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平成16年横審第78号
件名

漁船隆勝丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年12月17日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(安藤周二)

理事官
千葉 廣

指定海難関係人
A 職名:隆勝丸船舶所有者

損害
主機空気冷却器冷却管群の亀裂、吸気弁、ピストン及びシリンダライナ等の腐食損傷

原因
船舶所有者の船舶職員の乗組みに関する基準の遵守不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、船舶所有者が、船舶職員の乗組みに関する基準の遵守が不十分で、主機の給気マニホルドに接続されたドレン管の整備が行われなかったことによって発生したものである。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月6日11時30分
 伊豆諸島鳥島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船隆勝丸
総トン数 14トン
全長 18.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 470キロワット
回転数 毎分1,940

3 事実の経過
 隆勝丸は、平成12年9月に進水した、従業制限小型第2種のまぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてB社が製造したS6B5-MTKL型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
 主機は、始動電動機のほか、過給機及び空気冷却器が付設されていて、過給機のブロワによって加圧された給気が空気冷却器で冷却された後、給気マニホルドを経て各シリンダの燃焼室に送り込まれていた。
 また、主機の空気冷却器は、多管フィン式冷却管群3個を通る冷却海水が給気を冷却するもので、給気マニホルドの船尾端下側に直径8.5ミリメートルのドレン排出穴が開けられ、同穴に接続されたドレン管(以下「給気ドレン管」という。)の先端が機関室床上に導かれており、給気中に含まれる水分の凝縮によるドレンが給気ドレン管から常時排出され、底部にはドレンが滞留しない構造になっていた。
 隆勝丸は、毎年7月から8月にかけての休漁期を除き、周年にわたって九州南方沖合から三陸東方沖合の漁場に出漁し、1回20日間程度の操業を繰り返していた。
 A指定海難関係人は、昭和56年以降、漁船に乗り組み、同63年7月に一級小型船舶操縦士の免許を取得して船長職を執り、隆勝丸の新造当初から船舶所有者の業務を行うほか、船長として乗り組み、平素、本邦の海岸から100海里を超えて出漁していたが、機関長を乗り組ませるよう規定した船舶職員の乗組みに関する基準を十分に遵守することなく、自ら操舵室で主機を遠隔操縦していた。
 ところが、主機は、平成15年8月中旬に給気ドレン管が空気冷却器や給気マニホルド等の錆(さび)で閉塞(へいそく)した際、機関長が乗り組んでいなかったことから、給気ドレン管の整備が行われず、その後、同冷却器底部の冷却管群が滞留したドレンに浸って腐食する状況になっていた。
 こうして、隆勝丸は、A指定海難関係人ほか3人が乗り組み、船首1.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、越えて11月23日10時00分宮城県気仙沼港を発し、三陸東方沖合の漁場に至り、漁場を移動しながら操業を行っていたところ、いつしか主機の空気冷却器底部の冷却管群が腐食による亀裂を生じて冷却海水が少しずつ漏洩(ろうえい)し、12月6日09時00分投縄を終えて主機を停止中、漏洩した冷却海水が給気マニホルド及び開弁していた吸気弁を経て燃焼室に浸入する状況となり、11時30分北緯31度44分東経145度40分の地点において、同指定海難関係人が始動操作を行ったとき、浸入水のピストンとシリンダヘッドとの挟撃による水撃作用に至らなかったものの、主機が始動できないまま運転不能に陥った。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 隆勝丸は、海上保安部に救助を要請し、来援した巡視船等により千葉県銚子港に引き付けられた後、主機が精査された結果、空気冷却器冷却管群の前示亀裂のほか、漏洩した冷却海水の浸入による吸気弁、ピストン及びシリンダライナ等の腐食損傷が判明し、これらの各部品等が取り替えられた。
 本件後、A指定海難関係人は、船舶職員の乗組みに関する基準を遵守し、隆勝丸に機関長を乗り組ませる改善措置をとった。

(原因)
 本件機関損傷は、船舶所有者が、船舶職員の乗組みに関する基準の遵守が不十分で、主機の給気ドレン管の整備が行われず、空気冷却器底部の冷却管群が滞留したドレンに浸って腐食による亀裂を生じ、漏洩した冷却海水が燃焼室に浸入したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、本邦の海岸から100海里を超えて出漁する際、機関長を乗り組ませるよう規定した船舶職員の乗組みに関する基準を十分に遵守しなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、本件後、船舶職員の乗組みに関する基準を遵守して改善措置をとった点に徴し、勧告しない。





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