(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月19日05時30分
静岡県川奈埼北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船要一丸 |
総トン数 |
19.29トン |
登録長 |
17.45メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
回転数 |
毎分1,850 |
3 事実の経過
要一丸は、昭和55年12月に進水した、さばすくい網漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてB社が製造した6LAH-ST型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置及び計器盤を備えていた。
主機は、回転計、冷却清水温度計及び潤滑油圧力計のほか警報装置等が計器盤に組み込まれており、船体付弁から海水こし器を介して直結駆動の冷却海水ポンプに吸引された冷却海水が、空気冷却器、清水冷却器及び潤滑油冷却器の各冷却管群を順に通って熱交換を行った後、船外へ排出されていた。
一方、主機の冷却清水系統は、総水量75リットルで、清水冷却器と一体となった清水膨張タンクから直結駆動の冷却清水ポンプに吸引された冷却清水が、シリンダブロック、シリンダヘッド及び排気マニホルドを順に冷却した後、排気マニホルド出口の水温を摂氏75度ないし85度の標準値に調節する温度調整弁を経て同タンクに戻る経路で循環しており、同水温が摂氏95度を超えると冷却清水温度上昇警報装置が作動し、警報ブザーが鳴るようになっていた。
また、主機の潤滑油系統は、クランク室下部に設けられた容量64リットルの油受から直結駆動の潤滑油ポンプに吸引された潤滑油が、潤滑油こし器、潤滑油冷却器及び潤滑油主管を経て各部に分岐し、ピストンとシリンダライナとの摺動面(しゅうどうめん)等を潤滑した後、油受に戻る経路で循環しており、クランク室のオイルミストを排出するガス抜管の先端が操舵室船尾側に導かれていた。
A受審人は、平成11年2月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、同13年3月に要一丸の船長として乗り組み、周年にわたって伊豆諸島利島から三宅島周辺海域にかけての漁場でさばすくい網漁の操業を行い、操船のほか主機の運転保守にあたっていた。
ところで、A受審人は、操業中に潮流等の影響で主機の冷却海水とともに撒餌(まきえ)が吸引されて海水こし器に詰まることから、同こし器の内部が見えるように透明アクリル製ケーシングのものを装備していた。
要一丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、船首0.7メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同15年6月18日15時00分静岡県伊東港を発し、利島南西方沖合の漁場に至って操業を行った。
A受審人は、翌19日03時00分同漁場を発進して帰途に就く際、主機の海水こし器の点検を十分に行わなかったので、前示撒餌の吸引による同こし器の詰まりに気付かず、その後主機を回転数1,750(毎分回転数、以下同じ。)にかけ、冷却海水が不足する状況になったまま航行中、05時30分川奈埼灯台から真方位351度2,300メートルの地点において、冷却清水温度上昇警報装置が作動した際、操舵室で警報ブザー音を聞き、その作動に気付いたが、大事に至らないと思い、直ちに停止回転数600に減速のうえクラッチを中立にするなどして負荷軽減措置を適切にとることなく、微速力前進の回転数900に減速しただけで冷却清水温度及び潤滑油温度が著しく上昇し、依然として同装置が作動したまま、運転を続けているうち、やがて全シリンダのピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑が阻害され、これらが焼き付き始め、操舵室船尾側のガス抜管の先端から噴き出した白煙を認めた。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
要一丸は、そのまま続航して伊東港に帰港し、主機が精査された結果、ピストン及びシリンダライナ等の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。
(原因)
本件機関損傷は、主機の海水こし器の点検が不十分で、冷却海水が同こし器の詰まりにより不足する状況になったこと及び冷却清水温度上昇警報装置が作動した際、負荷軽減措置が不適切で、冷却清水温度及び潤滑油温度が著しく上昇したまま運転が続けられ、ピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転保守にあたり冷却清水温度上昇警報装置の作動に気付いた場合、冷却海水が海水こし器の詰まりにより不足する状況になっていたから、直ちに停止回転数に減速のうえクラッチを中立にするなどして、負荷軽減措置を適切にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、大事に至らないと思い、負荷軽減措置を適切にとらなかった職務上の過失により、冷却清水温度及び潤滑油温度が著しく上昇したまま、運転を続けてピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑が阻害される事態を招き、ピストン及びシリンダライナ等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。