(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月11日08時45分
北海道網走港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八十八吉祥丸 |
総トン数 |
166トン |
登録長 |
31.82メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
回転数 |
毎分720 |
3 事実の経過
第八十八吉祥丸(以下「吉祥丸」という。)は、昭和56年4月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する鋼製の漁船で、可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)を有し、主機として、B社が製造した6MG28BX型と称するディーゼル機関を備えていた。
主機の過給機は、B社製のNHP30AL型で、ロータ軸のブロワ側にアルミニウム合金製のブロワインペラ及びステンレス鋼製のインデューサが取り付けられていた。
ところで、過給機は、主機の回転数や負荷を急激に変化させると、給気圧力が不安定となって異音を伴う激しい振動を呈する、いわゆるサージングを起こすことがあり、メーカーではこれが頻発するとブロワインペラ及びインデューサが破損するおそれがあることを取扱説明書に記載して取扱者に注意を促していた。
吉祥丸は、毎年3月末から翌年1月中旬までを漁期とし、休漁期に船体と機関の整備を行い、過給機については平成15年2月にブロワインペラのカラーチェックや軸受新替えなどの開放整備が行われていた。
A受審人は、平成11年3月に吉祥丸に機関長として乗り組み、機関の運転保守管理に従事していたところ、かけ回しによる投揚網の操船中、頻繁に船速を変えるため急激な機関操作がとられ、その都度CPPの翼角や主機の回転数が急激に変化して、過給機がサージングを起こしているのを認めていたが、投揚網中の操船者である漁労長に気兼ねして、同人に対し、急激な負荷変動を避ける機関操作を行うよう強く促すなど、過給機のサージング防止措置を十分にとることなく、幾らかでもサージングの軽減措置を図ろうと、投揚網中は自ら主機ハンドル前に待機してガバナの機側操作や給気逃がし弁の開閉操作を行っていたものの、確実にサージングを防止することができないまま運転を続けていた。
そのうち、過給機は、サージングによる異常振動で、ブロワインペラの軸穴のスプライン溝に亀裂を生じる状況となった。
こうして、吉祥丸は、A受審人ほか16人が乗り組み、すけそうだら漁の目的で、平成15年7月11日03時00分北海道網走港を発し、05時ごろ同港北東方の漁場に至って操業を始め、主機回転数を毎分680、CPP翼角を11度として曳網索を巻き始めたとき、過給機がサージングを起こし、亀裂が進展していたブロワインペラが割損し、08時45分能取岬灯台から真方位090度12.8海里の地点において、大音を発した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
機関室当直中のA受審人は、過給機を調査したところ、ブロワケーシングに亀裂を生じているのを認め、吉祥丸は、操業を中断して発航地に向け低速力で帰途につき、帰着後、過給機の開放調査が行われた結果、前示損傷のほか、ロータ軸及びタービンケーシングなど過給機全般にわたって亀裂と当たり傷を生じていることが判明し、中古の過給機と取り替えられた。
(原因)
本件機関損傷は、主機過給機のサージング防止措置が不十分で、異常振動により、ブロワインペラに亀裂を生じたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、かけ回しによる投揚網の操船中、急激な機関操作がとられて主機過給機がサージングを起こすのを認めた場合、異常振動により過給機各部に亀裂が生じるおそれがあったから、操船者に対し、急激な負荷変動を避ける機関操作を行うよう強く促すなど、過給機のサージング防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、操船者である漁労長に気兼ねして、過給機のサージング防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、ブロワインペラに亀裂を生じて割損を招き、ブロワケーシング、ロータ軸及びタービンケーシングなど過給機全般にわたって亀裂と当たり傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。