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平成16年函審第45号
件名

漁船第六十七源榮丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年12月14日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、古川隆一、野村昌志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第六十七源榮丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機ガバナ駆動平歯車が欠損、クランク軸歯車、カム軸歯車、回転計歯車、ガバナ駆動傘大歯車、ガバナ駆動傘小歯車及びガバナ下部箱取付け面に損傷

原因
主機ガバナ取付けボルトの締付け状態の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機ガバナ取付けボルトの締付け状態の点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月30日04時45分
 津軽海峡
 (北緯41度33.0分 東経141度02.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第六十七源榮丸
総トン数 138トン
全長 34.95メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 441キロワット
回転数 毎分370
(2)第六十七源榮丸
 第六十七源榮丸(以下「源榮丸」という。)は、昭和49年5月に進水した、いか一本つり漁業に従事する鋼製漁船で、5月から翌年2月までを漁期とし、1航海を1箇月ばかりとして夜間操業を主体に時折昼いか漁も行い、1日当たり主機を約8時間運転していた。
(3)主機
 主機は、B社が昭和49年3月に製造した6L26BGSH型ディーゼル機関で、逆転機を介してプロペラ軸と連結し、燃料制限装置に封印がなされていて、全速力における回転数を毎分340とし、2年ごとに開放整備が行われ、平成13年4月の中間検査工事の際、ガバナの開放整備が行われていた。
 主機のガバナは、本体と下部箱とで構成され、下部箱内に、ガバナ駆動平歯車、同歯車に固定されたガバナ駆動傘大歯車及びガバナ駆動傘小歯車の駆動機構が納められており、本体と下部箱とが一体となって呼び径M10のガバナ取付けボルト6本により主機後部の歯車室上部に取り付けられていた。そして、同ボルトの回り止めとしてスプリングワッシャーが挿入されていた。また、主機の歯車列は、クランク軸歯車から中間歯車を介して、ガバナ駆動平歯車、カム軸歯車及び回転計歯車が噛み合っていた。

3 事実の経過
 源榮丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的をもって、平成14年8月6日10時30分青森県八戸港を発し、同県の日本海沖合の漁場に至り操業を開始した。
 ところで、歯車の噛み合せ部のすき間をバックラッシと称しており、これが増大すると、歯車に片当たりを生じて不均一な荷重がかかり、歯面の異常摩耗や歯車の材料疲労が進行することとなるので、機関メーカーでは歯車列のバックラッシを0.14ミリメートルないし0.18ミリメートルと定めていた。
 その後、源榮丸は、青森県及び北海道の日本海沖合で連日の操業を続けているうち、機関の振動により主機のガバナ取付けボルトが緩み始めたが、A受審人は、スプリングワッシャーが挿入されているので同ボルトが緩むことはないと思い、同ボルトの締付け状態を点検することなく運転を続けていたところ、ガバナが微振動するようになって、ガバナ駆動平歯車のバックラッシが増大する状況となった。
 こうして、源榮丸は、8月29日05時30分操業を終えて漁場を発進し、主機を回転数毎分340にかけ発航地に向けて帰航の途、主機のガバナ駆動平歯車が材料疲労を起こして欠損し、欠損片を噛み込んだ中間歯車も欠けて、翌30日04時45分大間埼灯台から真方位093度5.5海里の地点において、主機が異音を発した。
 当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、海上は穏やかであった。
 機関室当直中のA受審人は、異音に気付いて船橋に連絡のうえ主機を止め、各部を調査したところ、前示の損傷を認め、主機の運転を断念して救援を求めた。源榮丸は、来援した僚船により八戸港に引き付けられ、前示損傷のほか、クランク軸歯車、カム軸歯車、回転計歯車、ガバナ駆動傘大歯車、ガバナ駆動傘小歯車及びガバナ下部箱取付け面にいずれも叩かれ傷を生じていることが判明し、のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が、ガバナ取付けボルトはスプリングワッシャーが挿入されているので緩むことはないと思い、同ボルトの締付け状態を点検しなかったこと

(原因の考察)
 本件は、主機ガバナの取付けボルトが緩んだまま運転が続けられ、ガバナ駆動平歯車のバックラッシが増大したことによって発生したものであり、同ボルトの緩みを早期に発見して締め直しをしていたなら、同歯車の欠損を防止できたものと認められる。
 したがって、A受審人が、ガバナ取付けボルトはスプリングワッシャーが挿入されているので緩むことはないと思い、同ボルトの締付け状態を点検しなかったことは、本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件機関損傷は、主機ガバナ取付けボルトの締付け状態の点検が不十分で、同ボルトが緩んだまま運転が続けられ、ガバナ駆動平歯車のバックラッシが増大し、同歯車の材料が疲労したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、機関の保守運転管理に従事する場合、主機ガバナの取付けボルトが緩むとガバナ駆動平歯車のバックラッシが増大し、同歯車の材料が疲労するおそれがあったから、同ボルトの締付け状態を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同ボルトはスプリングワッシャーが挿入されているので緩むことはないと思い、同ボルトの締付け状態を十分に点検しなかった職務上の過失により、同ボルトが緩んだまま運転を続け、ガバナ駆動平歯車及び歯車列の中間歯車に欠損を生じさせたほか、クランク軸歯車、カム軸歯車、回転計歯車、ガバナ駆動傘大歯車、ガバナ駆動傘小歯車及びガバナ下部箱取付け面にいずれも叩かれ傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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