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平成16年神審第67号
件名

旅客船ささゆり機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年11月4日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:ささゆり機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
右舷主機のロータ軸の折損及び左側シリンダ列1番シリンダの吸・排気弁棒の曲損など損傷

原因
主機付過給機の保守管理にあたり、車室の固縛方法が不適切であったこと

裁決主文

 本件機関損傷は、主機付過給機の保守管理にあたり、車室の固縛方法が不適切であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月19日15時20分
 姫路港飾磨区南方沖合
 (北緯34度45.1分 東経134度38.5分)

2 船舶の要目
船種船名 旅客船ささゆり
総トン数 250トン
全長 43.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,993キロワット
回転数 毎分1,790

3 事実の経過
 ささゆりは、平成10年3月15日に竣工し、2機2軸の推進装置を備えた軽合金製旅客船で、姫路港飾磨区と兵庫県家島諸島各港間を1日あたり8往復する定期航路に就航していた。
 A受審人は、昭和60年から漁船に、また、同63年B社に入社していずれも機関員として乗り組み、平成7年11月に四級海技士(機関)の海技免許を取得したのち、平成8年2月から機関長職を執るようになり、ささゆりでは竣工以来機関長として、機関の運転及び保守管理にあたっていた。
 主機は、C社が平成9年11月に製造した、16V16FX型と称し、船尾方からシリンダ番号を付した4サイクルV形16シリンダ機関で、常用回転数を毎分1,750として月間約300時間運転され、両舷主機の左右各シリンダ列後端には過給機が1台ずつ取り付けられていた。
 主機付過給機(以下「過給機」という。)は、C社が平成9年11月に製造した、NR15/R型と称する定格回転数毎分57,800の排気タービン式で、単段のラジアル式タービン及び遠心式インペラを取り付けたロータ軸が、2組の浮動式滑り軸受で支持され、排気側から順にタービン入口ケース、ベアリングケース、コンプレッサ出口ケース及び同入口ケースと称する部材で構成される車室内に組み込まれており、タービン入口ケース及びベアリングケースに取り付けられたブラケットと称するL字形脚を介して主機に据え付けられていた。
 コンプレッサ出口ケースとベアリングケース及びコンプレッサ出口ケースと同入口ケースの各接続面は、その外周を外径408ミリメートル(mm)、幅22mmで、断面がV字形状となったステンレス鋼製バンド(以下「Vバンド」という。)及び同バンド締付金具(以下「締付金具」という。)からなる車室固定帯を巻き付けてそれぞれ固縛され、運転中に生じる相対した車室の不同膨張を吸収できるようになっていた。
 締付金具は、L字形のステンレス鋼製で、2つ割れになった半円状のVバンド各端部に、5箇所でスポット溶接されており、ねじの呼びM10で全長62mmの機械構造用炭素鋼製ボルト(以下「締付ボルト」という。)及びオーデーナットと称する緩み難いねじ構造としたナットによって締め付けられていた。
 また、C社は、運転中、車室の前記膨張によってVバンドに付加される応力が過大とならないよう、冷態時における締付ボルトの締付トルク値を19ニュートンメートルと規定し、締め付けるにあたってはこれを厳守する旨を取扱説明書に記載していた。
 ささゆりは、法定検査工事のため1年ごとに入渠し、これに合わせて過給機を開放することとしており、平成15年1月に定期検査工事で入渠した際、積算運転時間が17,440時間となっていた過給機全数の開放を業者に依頼し、整備を終えて復旧するにあたり、コンプレッサ出口ケースとベアリングケースの固縛に使用されていた各車室固定帯が新替えされた。
 完工後、ささゆりは、運航を再開し、各過給機を毎分約47,000ないし48,000の回転数で運転していた。
 ところで、B社は、機関部乗組員として、A受審人ほか2人の機関士をささゆりに交代で配乗しており、主機等の保守担当者を定めていなかったものの、乗船中の同乗組員に過給機ブロワのフィルタ掃除などの船内で可能な保守を行わせていた。
 平成15年3月上旬A受審人は、過去に締付ボルトが緩んだことを経験していたので、点検を思い立ち、車室固定帯の緩みの有無を確認する際、締付金具のナットを過度に締め付けると、運転中、Vバンドに過大な応力を生じさせるおそれがあったが、できるだけ締め付けておけば緩むことはないものと思い、力一杯締め付け、過給機取扱説明書を参照して規定の締付トルク値を確認したうえ、船内に備えられていたトルクレンチを使用するなど、車室の固縛を適切な方法で行わなかった。
 その結果、各過給器は、温度上昇に伴って、Vバンドに過大な曲げ応力、また、締付金具のスポット溶接部に過大な剪断応力を生じる状況となったまま、運転が繰り返されていた。
 こうして、ささゆりは、A受審人ほか3人が乗り組み、旅客15人を乗せ、船首1.0メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成15年7月19日15時03分姫路港飾磨区に向け、兵庫県家島港を発し、両舷主機を回転数毎分1,750の全速力前進として運転していたところ、右舷主機左側過給機のコンプレッサ出口ケースとベアリングケース間を固縛する車室固定帯の、締付金具スポット溶接部が剪断したことにより、コンプレッサ出口ケースが同入口ケースと共に機関室床板上に脱落し、同日15時20分飾磨西防波堤東灯台から真方位209度1,400メートルの地点において、空気量不足により同主機の燃焼が不良となり、A受審人が排気管から排出される黒煙を認めた。
 当時、天候は曇で風力3の南南東風が吹き、海上には白波があった。
 A受審人は、急ぎ機関室に赴き、右舷主機左側過給機が前記状態となっていることを知り、直ちに同主機を停止した。
 その結果、ささゆりは、右舷主機の運転が断念され、片舷運転で姫路港飾磨区に入港し、同主機の点検を行ったところ、前記各ケースの脱落に伴うロータ軸の折損及び左側シリンダ列1番シリンダの吸・排気弁棒の曲損や他の締付金具の変形なども判明し、のち、いずれも修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機付過給機の保守管理にあたり、冷態において2組の締付ボルト及びナットにより円周方向の2箇所で締め付ける方式の車室固定帯の緩みの有無を点検する際、車室の固縛方法が不適切で、運転中、過度に締め付けられた締付金具に車室の熱膨張に伴う応力が付加され、同金具の溶接部が剪断したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機付過給機の保守管理にあたり、冷態において2組の締付ボルト及びナットにより円周方向の2箇所で締め付ける方式の車室固定帯の緩みの有無を点検する場合、運転中に高温となる車室が熱膨張するのであるから、締付金具に過大な応力が生じることのないよう、C社が指定したトルク値に設定したトルクレンチを用いてナットを締め付けるなど、車室の固縛を適切な方法で行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、できるだけ締め付けておけば緩むことはないものと思い、車室の固縛を適切な方法で行わず、過度に締め付けた状態で運転を続けるうち、同金具溶接部の剪断を招き、ブロワ側ケーシングがベアリングケーシングから脱落するとともにロータ軸が折損するなどの損傷を生じ、右舷主機の運転を不能とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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