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平成16年函審第30号
件名

漁船第十六福長丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年11月30日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第十六福長丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
ロータ軸、ブロワケーシング及びタービンケーシングなど過給機全般に損傷

原因
主機過給機のサージング防止措置不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機過給機のサージング防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月17日22時20分
 色丹島南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十六福長丸
総トン数 29トン
全長 25.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 603キロワット
回転数 毎分1,450

3 事実の経過
 第十六福長丸(以下「福長丸」という。)は、平成12年7月に進水した、さけ・ます流し網漁業及びさんま棒受網漁業に従事する軽合金製の漁船で、主機として、B社が製造したS6R2F-MTK3型と称するディーゼル機関を備えていた。
 主機の過給機は、輻流式のタービンケーシング、ブロワケーシング、ロータ軸、消音器及び排気出口管で構成され、主機右舷側に配列されている排気マニホルドのほぼ中間部に直接据え置かれていた。
 消音器は、吸気音を軽減する機能を備えた空気取入れ部のことで、ブラケットにより主機本体に固定されたうえ、バンド締め方式の消音器取付金具によりブロワケーシングに接続され、バンド両端の直角に折り曲げられた合わせ面が蝶ナットで締め付けられていた。また、排気出口管も、バンド締め方式の排気出口管取付金具によりタービンケーシングに接続されていた。
 ところで、過給機は、主機の回転数を急激に変化させると、給気圧力が不安定となって異音を伴う激しい振動を呈する、いわゆるサージングを起こすことがあり、取扱者は、急激な主機の回転数変動を避ける操作を行う必要があった。
 福長丸は、毎年5月から7月までをさけ・ます流し網漁に、8月から11月までをさんま棒受網漁にそれぞれ従事し、12月から翌年4月までを休漁期としていた。
 A受審人は、平成13年5月福長丸に機関長として乗り組み、機関の運転保守管理に従事していたところ、さんま棒受網漁の魚群探索中、魚群を発見したときその場に船を止めるため急激な機関操作がとられ、その都度主機の回転数が急激に変化して、過給機がサージングを起こしているのを認めていたが、万一に備えて過給機の完備品を予備として保有していたので安心し、操船者である船長に対し、急激な主機回転数変化を避ける機関操作を行うよう強く促すなどして、過給機のサージング防止措置を十分にとることなく主機の運転を続けていた。
 その後、過給機は、サージングを頻繁に起こしながら運転が続けられているうち、異常振動により、消音器取付金具のバンド両端の合わせ面折り曲げ部に亀裂を生じる状況となった。
 こうして、福長丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、さんま棒受網漁の目的で、船首1.15メートル船尾1.45メートルの喫水をもって、平成15年8月15日10時00分北海道花咲港を発し、ロシア連邦経済水域内の北太平洋漁場に至って連日の操業を始め、魚群発見の度に主機回転数を全速力前進の毎分1、 450から機関停止、次いで急激に全速力後進の毎分1,250にかけるような機関操作が続けられ、度々過給機がサージングを起こしていたところ、翌々17日22時20分北緯43度30分東経147度45分の地点において、亀裂が進展していた消音器取付金具のバンド両端の合わせ面が破断して、破断片がブロワに吸い込まれ、ブロワインペラに当たってロータ軸が振れ回り、大音を発した。
 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、直ちに過給機の取替えにかかったが、排気出口管取付金具の締付けボルトがねじ切れたため、過給機の取替えを断念し、福長丸は、操業を中断して発航地に向け低速力で帰途につき、帰着後、過給機の開放調査が行われた結果、ロータ軸、ブロワケーシング及びタービンケーシングなど過給機全般にわたって当たり傷が発生していることが判明し、過給機が新替えされた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機過給機のサージング防止措置が不十分で、異常振動により消音器取付金具に亀裂を生じ、破断片がブロワに吸い込まれたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、さんま棒受網漁の魚群探索中、急激な機関操作がとられて主機過給機がサージングを起こすのを認めた場合、異常振動により過給機各部に亀裂が生じるおそれがあったから、操船者に対し、急激な主機回転数変化を避ける機関操作を行うよう強く促すなどして、過給機のサージング防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、万一に備えて過給機の完備品を予備として保有していたので安心し、過給機のサージング防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、消音器取付金具に亀裂を生じて、破断片がブロワに吸い込まれる事態を招き、ロータ軸、ブロワケーシング及びタービンケーシングなど過給機全般にわたって当たり傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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