(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月17日11時30分
北海道西方沖合(武蔵堆)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十七大杉丸 |
総トン数 |
16トン |
全長 |
22.50メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
433キロワット |
回転数 |
毎分2,000 |
3 事実の経過
第二十七大杉丸(以下「大杉丸」という。)は、平成7年9月に進水した、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、B社が製造したS6B3F-MTK2型と称するディーゼル機関を備えていた。
主機の冷却水系統は、直結の冷却清水ポンプにより清水冷却器内蔵の清水膨張タンクから吸引加圧された清水が、潤滑油冷却器を経て入口主管に至り、シリンダジャケット、シリンダヘッド及び排気マニホルドを順に経て、清水膨張タンクに戻る経路となっており、同タンクの圧力キャップと清水リザーブタンクとがビニールホースで通じていた。また、排気マニホルド出口における冷却清水温度が摂氏98度になると、船橋で警報が発せられるようになっていた。
冷却清水ポンプは、主機の左舷前部に設置され、ベルト駆動方式となっていて、駆動装置として、同ポンププーリ及びクランク軸プーリのほか、ベルトの張り具合を調整するテンションプーリを備え、これらにVベルト1本が装着されていた。
テンションプーリの軸受は、内径20ミリメートル外径52ミリメートルの両シール型の単列深溝玉軸受で、内・外輪の間にグリースが密封されており、プーリ本体の中空部に2個納められていた。
A受審人は、高校を卒業後父親の所有する漁船に乗船していか一本つり漁に従事し、平成3年9月一級小型船舶操縦士免許を取得してから船長職を執り、大杉丸の新造以来船長として乗船し、毎年1月から5月初めまでを九州の日本海沖合で、5月中旬から6月末までを日本海を北上しながらそれぞれ操業し、その後は小樽港を基地として12月中旬まで操業を続け、年末には地元の対馬に戻る操業形態を繰り返し、自ら機関の運転と保守整備にも当たり、主機を年間3,000時間ばかり運転していた。
ところで、玉軸受は、長期間使用しているうち鋼球や内・外輪の軌道面が摩耗や材料疲労が進行することから、定期的に新替えする必要があり、その周期は使用条件により異なるものの、前示テンションプーリの軸受については、両シール型で内部が見えない構造となっていたこともあって、12,000時間ごとに新替えするのが通例とされていた。
平成12年A受審人は、博多港において整備業者の手により主機冷却清水ポンプの修理が行われた際、テンションプーリの軸受が新造以来1度も新替えされず、長期間使用されていたが、これまで順調であったので大丈夫と思い、同軸受を新替えするなどベルト駆動装置の整備を十分に行うことなく、同ポンプ及びVベルトを新替えして修理を終えたので、その後の運転において、同プーリの軸受の材料疲労が進行する状況となった。
こうして、大杉丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、平成14年9月15日07時30分小樽港を発し、17時ごろ同港の北北西方100海里沖合の武蔵堆漁場に至り、いか約3トンを獲て、翌々17日07時00分に漁場を発進し、主機回転数を毎分1,750にかけて発航地に向け帰航中、テンションプーリの軸受1個が破損して焼き付き、同プーリが回らなくなってVベルトの摩擦面が損耗し始め、やがて主機冷却清水ポンププーリも回らなくなり、09時00分冷却水温度上昇警報が作動した。
A受審人は、機関室に入って調査をしたところ、主機が過熱して清水リザーブタンクのビニールホースが溶断し、高温の冷却水と水蒸気が噴き出していたほか、テンションプーリの軸受2個のうち1個が破損しているのを認め、破損した軸受を取り外して軸受を1個としたうえ、Vベルトの予備がなかったので現装のVベルトのまま、10時ごろ主機回転数を毎分1,200の低速力として運転を続けたが、再びテンションプーリの軸受が破損するとともにVベルトが切断し、11時30分天売島灯台から真方位278度46.5海里の地点において、冷却水温度上昇警報が作動した。
当時、天候は晴で風力4の東風が吹き、海上はやや波立っていた。
A受審人は、主機の運転を断念して海上保安部に救援を要請し、大杉丸は、巡視船により留萌港に引き付けられ、損傷調査が行われた結果、前示損傷のほか、冷却水の噴出により主機の右舷側に設置されていた集魚灯用安定器60個及び電気機器などが冠水して濡損したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件機関損傷は、主機冷却清水ポンプのベルト式駆動装置の整備が不十分で、長期間の使用により、テンションプーリの軸受が材料疲労を起こしたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転及び保守整備に当たる場合、主機冷却清水ポンプのベルト式駆動装置のテンションプーリの軸受が、経年とともに摩耗や材料疲労が進行するから、定期的に同軸受を新替えするなど同装置の整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで順調であったので大丈夫と思い、ベルト駆動装置の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、同軸受の破損を招き、Vベルト及び清水リザーブタンク用ビニールホースの切断のほか、冷却水の噴出により、集魚灯用安定器などの電気機器を濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。