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平成16年那審第29号
件名

旅客船サザンクロス3号火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成16年12月14日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(杉?ア忠志、小須田 敏、加藤昌平)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:サザンクロス3号船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:C社整備課長

損害
救命浮環、左舷側主機過給機のブロワ側エアフィルタ及び左舷側減速機の遠隔操縦ワイヤなどが焼損、同室後部側壁、同室後部天井及び排気ダクトなどが著しく汚損、同減速機のハウジングとリヤカバー間に装着していたガスケットに亀裂

原因
減速機のハウジングにリヤカバーを取り付ける際、装着するガスケットの点検不十分

主文

 本件火災は、左舷側主機逆転減速機のハウジングにリヤカバーを取り付ける際、装着するガスケットの点検が不十分で、ガスケットの入口側油孔からハウジング外縁に達する亀裂が生じ、作動油が噴出して着火、炎上したことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月14日09時50分
 沖縄県石垣港
 (北緯24度19.8分 東経124度07.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船サザンクロス3号
総トン数 19トン
全長 22.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,028キロワット
(2)設備等
ア サザンクロス3号
 サザンクロス3号(以下「サザン号」という。)は、平成5年1月に進水した、旅客定員62人の一層甲板型軽合金製旅客船で、航行区域を沿海区域(限定)とし、沖縄県石垣島の石垣港と同県八重山列島の黒島、新城島、西表島及び波照間島の離島間の航路(以下「離島航路」という。)に就航し、定期便及び臨時便として運航されていた。
 サザン号の甲板上は、船首方から順に、操舵室、旅客40人分の長いすを設けた客室、同室後部壁の船尾側に、右舷側から左舷側にかけて機関室前部出入口、機関室外気取入口、客室後部出入口及び便所、次いで旅客22人分の長いすを設けた遊歩甲板をそれぞれ配置していた。また、遊歩甲板の船尾方には、右舷側に機関室後部出入口ハッチを、左舷側に機関室排気排出口を配置していた。
イ 機関室
 機関室は、長さ約6.0メートル幅約3.9メートルで、やや後方寄りの両舷に、主機としてD社製の6LX-ET2型と称する定格回転数毎分1,950の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を装備し、同主機の後部にE社製のMGN232E型と称する逆転減速機(以下「減速機」という。)をそれぞれ備えていた。
ウ 機関室通風装置
 機関室は、船首側両舷の天井近くに、F社製のKEPT-45AW型と称する、ファン直径45センチメートル(以下「センチ」という。)風量毎時120立方メートル電動機容量1.5キロワットの軸流通風機を各1台備え、同室外気取入口から給気ダクトを経て両軸流通風機により吸引された給気が同室の船尾方に向けて吹き出されるようになっていた。また、同室の排気は、左舷側主機減速機(以下「左舷側減速機」という。)後方の上部にある排気ダクトを経て同室排気排出口から大気に放出されるようになっていた。
エ 減速機
 減速機は、逆転駆動歯車、前進用の湿式多板型クラッチ(以下「クラッチ」という。)及び前進用小歯車を取り付け、主機クランク軸と弾性継手を介して結合される入力軸、逆転被駆動、後進用のクラッチ及び後進用小歯車を取り付けた後進軸、並びに前・後進用小歯車とかみ合う大歯車を取り付け、中間軸を介してプロペラ軸に連結される出力軸で構成され、アルミニウム合金製のハウジング、リヤカバー及びエンドカバーなどからなる減速機ケーシング内に入力軸、後進軸及び出力軸がそれぞれ内蔵されていた。
 ハウジング及びリヤカバーには、それぞれが相対する上面の右舷側に直径17.4ミリメートル(以下「ミリ」という。)の入口側及び出口側の各油孔が設けられており、各油孔の外周からハウジング外縁間の当たり面の幅が約11ミリであった。
 減速機の作動油及び潤滑油系統は、入力軸の船尾側軸端に取り付けられた直結の作動油ポンプにより減速機ケーシング底部の容量13リットルの油だめから吸入側こし器を経て吸引された作動油が、23ないし25キログラム毎平方センチメートルに昇圧され、入口側油孔を通って潤滑油冷却器に至り、同冷却器で冷却されたのち、出口側油孔を経て作動油圧調整弁で作動油系統と潤滑油系統に分岐し、作動油は前・後進切換弁を経て前進クラッチ、あるいは後進クラッチを作動させるようになっており、また、作動油圧調整弁から分岐した潤滑油は、潤滑油圧調整弁で調圧されたのち、クラッチ内部及びブッシュなどに給油され、潤滑油の飛沫が歯車及び軸受を潤滑するようになっていた。
 ところで、減速機のハウジングとリヤカバー間には、厚さ0.5ミリ縦約60センチ横約65センチのガスケットを装着し、作動油などの漏洩を防止していた。

3 事実の経過
 サザン号は、離島航路の定期便及び臨時便に就航中、左舷側舵板が落下したことから、平成16年1月19日石垣港内にある造船場に上架され、同舵板の修理及び船底掃除などが行われた。その際、サザン号は、主機等の定期整備を行うこととなり、翌20日左舷側主機及び左舷側減速機が陸揚げされてC社の自社工場に搬送され、同主機のピストン抜き整備、シリンダライナの取替え及び同減速機の開放、整備などが開始された。
 B指定海難関係人は、サザン号の乗組員であるA受審人及び甲板員1人を指示、指導しながら左舷側主機及び左舷側減速機を開放し、各部の掃除、点検及び計測などを行ったのち、同主機全筒のシリンダライナ、同主機1番、2番及び3番の各連接棒などを取り替えるなどして同月23日ごろから同主機の復旧を開始し、また、同減速機については、開放した結果、前・後進用のクラッチ板、前進側小歯車、大歯車及び入力軸などの軸受が損傷していることが判明し、それらを取り替えるため機関メーカーに部品を発注した。
 B指定海難関係人は、同月30日発注した左舷側減速機のクラッチ板、歯車及び軸受などの部品を入手したところから、同減速機の復旧に取り掛かり、ハウジングの船尾側を上方に向け、入力軸、後進軸及び出力軸などを順に組み立て終え、ハウジングにリヤカバーを取り付けることとしたが、ハウジング及び同カバーの各当たり面を圧縮空気で吹かして異物を除去したのち、装着するガスケットを十分に点検しないで、自らがガスケットをハウジングに装着して同カバーを取り付け、呼び径10ミリないし14ミリの締付けボルトをトルクレンチで締め付けた。
 ところが、装着したガスケットは、円筒状の型紙に巻かれ、発注した減速機のほかの部品と一緒にダンボール箱に入れられて機関メーカーから発送され、B指定海難関係人が同箱を受け取り、しばらくの間倉庫で保管していたもので、輸送中及び保管中にほかの部品等と接触するなどして、入口側油孔から上方の外部にかけて折り目が付いていたうえ、同折り目に沿って亀裂が一部生じていた。
 左舷側主機及び左舷側減速機の復旧を終えたB指定海難関係人は、同16年2月3日同主機及び同減速機をサザン号に積み込み、翌々5日13時から海上試運転を2時間ばかりかけて行い、各部を点検して異常のないことを確認した。
 海上試運転を終えたサザン号は、同月7日朝、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、離島航路の定期便及び臨時便の運航を再開し、1日に6時間ないし7時間両主機が運転された。
 ところで、両主機は、全速力航行時、排気集合管の排気温度が摂氏460度ないし480度で、防熱材が取り付けられていなかった過給機のタービン側ケーシングが赤熱した状態を呈していた。 A受審人は、発航前にサザン号の船体、機関、排水設備、救命設備及び消火設備などの点検を行い、この結果を発航前点検簿に記入し、運航開始後、できるだけ機関室に赴いて潤滑油、冷却水及び燃料油の漏洩の有無及びビルジ量などを点検していた。
 同月14日サザン号は、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、06時50分ごろ両主機が操舵室で始動され、運転を開始した両主機の油漏れ及び冷却海水の排出状況などの点検が行われたのち、石垣港と小浜島の小浜港間の定期便に就き、船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水で、07時20分石垣港を発して同時45分小浜港に着き、同時55分に同港を発して08時20分少し前石垣港に着いた。
 次に、サザン号は、小浜港と西表島の仲間港間の臨時便に就くため旅客を乗せないまま、08時20分石垣港を発して同時45分ごろ小浜港に着いたのち、A受審人が機関室巡視を行って両主機及び両減速機などに異常がないことが確認され、同時50分旅客41人を乗せて同港を発し、09時16分ごろ仲間港に着いて旅客全員を下ろした。
 そして、09時20分サザン号は、旅客を乗せないまま、仲間港を発し、主機を全速力前進にかけ、32ノットの対地速力で石垣港に向け航行中、左舷側減速機のハウジングとリヤカバー間において、いつしかガスケットの入口側油孔上部からハウジング外縁にかけて生じていた亀裂が著しく進展して同外縁に達し、加圧された作動油が同亀裂に沿ってほぼ真上に噴出するようになり、09時50分石垣港沖西防波堤灯台から真方位240度1,180メートルの地点において、作動油が同減速機の上方約36センチに位置する左舷側主機過給機に降りかかって着火、炎上し、機関室排気排出口から火炎が吹き出した。
 当時、天候は晴で風力2の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 操舵室で操船に就いていたA受審人は、両主機の回転数が突然低下したことから甲板員に機関室を見に行くよう指示したところ、同人から遊歩甲板の船尾方から黒煙と火炎が吹き出ている旨の報告を受け、直ちに両主機を操舵室で停止し、客室前部左舷側の側壁に取り付けられていた持運び式消火器を持って同甲板に駆け付け、機関室排気排出口から約63センチ後方にあるハンドレールに掛けていた救命浮環が燃えているのを認め、同消火器を放出して同浮環を消火し、09時55分同室後部出入口ハッチカバーを開放して同室内をのぞき込み、左舷側主機の停止により左舷側減速機作動油の噴出が止み、同室内の火炎が鎮火していることを確認した。
 火災の結果、サザン号は、右舷側主機のみで石垣港に帰港し、同港において機関室及び船体の各部を点検したところ、前示の救命浮環、左舷側主機過給機のブロワ側エアフィルタ及び左舷側減速機の遠隔操縦ワイヤなどが焼損し、同室後部側壁、同室後部天井及び排気ダクトなどが著しく汚損されていることが判明したほか、同減速機のハウジングとリヤカバー間に装着していたガスケットに亀裂が生じていること、同減速機油だめ内には検油棒の下方に作動油が付着する程度の残油があることなどが認められ、のち損傷部が修理された。
 本件後、C社整備課は、主機減速機を復旧する際には、装着するガスケットを十分に点検するとともに、機関メーカーの技術資料、整備講習及び取扱説明書などにおいて液体パッキンの塗布が指示されていなかったものの、装着時に位置決めしたガスケットの移動防止や、リヤカバーなどの変形及びガスケットの入口側及び出口側の各油孔を通過する作動油圧を考慮して各油孔の周囲などに液体パッキンを塗布することとしたほか、保管中の部品の品質管理を徹底することとした。

(本件発生に至る事由)
1 左舷側減速機のハウジングにリヤカバーを取り付ける際、装着するガスケットの点検が行われなかったこと
2 輸送中及び保管中におけるガスケットの品質管理が十分でなかったこと
3 運航中、左舷側減速機の点検が十分でなかったこと

(原因の考察)
 本件火災は、左舷側減速機のハウジングとリヤカバー間のガスケットが損傷し、噴出した作動油が左舷側主機過給機に降りかかって着火、炎上したことによって発生したものであり、その原因について考察する。
 B指定海難関係人が、左舷側減速機のハウジングにリヤカバーを取り付ける際、装着するガスケットの点検を行っていたならば、ガスケットの入口側油孔から上方の外部にかけて生じていた折り目などの不具合部を発見でき、その結果、ガスケットの使用を中止するなどの措置を講じることができたものと認められる。
 したがって、B指定海難関係人が装着するガスケットの点検を行っていなかったことは、本件発生の原因となる。
 ガスケットの輸送中及び保管中に折り目が付き、これが運航中に進展したことについては、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、装着時及び運航中に折り目が生じたものと認められず、また、折り目の発生時期等が不明であるものの、海難防止の観点からガスケットの梱包、輸送及び保管の各過程における品質管理を徹底すべき事項である。
 A受審人が、運航中、左舷側減速機の点検が十分でなかったことについては、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、同人が、両主機始動前後に油漏れなどについての点検を行っていたこと、本件発生前に機関室巡視を行っていたこと、同減速機の潤滑油が新油で、油漏れの有無が分かりにくく、また、本件後、同減速機油だめの潤滑油量が著しく減少していなかったことなどから、このことを敢えて原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件火災は、左舷側減速機のハウジングにリヤカバーを取り付ける際、装着するガスケットの点検が不十分で、ガスケットの入口側油孔上方からハウジング外縁にかけて折り目が付き、これに沿って亀裂が一部生じていたガスケットが装着され、運航中、亀裂が進展して同油孔から同外縁に達し、噴出した作動油が左舷側主機過給機に降りかかって着火、炎上したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 B指定海難関係人が、左舷側減速機のハウジングにリヤカバーを取り付ける際、装着するガスケットを点検しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件の発生を反省し、装着するガスケットを十分に点検するとともに、装着時に位置決めしたガスケットの移動防止や、リヤカバーなどの変形及びガスケットの入口側及び出口側の各油孔を通過する作動油圧を考慮して各油孔の周囲などに液体パッキンを塗布するなどの措置並びに保管する部品の品質管理を徹底するなどの措置を講じたことに徴し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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