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平成16年広審第60号
件名

貨物船東明丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成16年10月15日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(吉川 進、米原健一、佐野映一)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:東明丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:東明丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
C社 業種名:船舶修理業
D 職名:C社作業責任者

損害
電動機室ファン及び圧縮機の各駆動電動機、油圧ポンプ始動器、圧縮機減速機、電線類、油圧配管などが焼損

原因
火気作業時の防火管理不十分、船舶修理業者が、火気作業時の火種降下防護準備不十分及び作業開始前に可燃物の隔離を確認するよう作業責任者に指示しなかったこと、また作業責任者が、作業開始前に隔離されているか確認しなかったこと

主文

 本件火災は、ボースンストア内で火気作業が行われるに当たり、防火管理が十分でなかったことによって発生したものである。
 船舶修理業者が、火気作業に備えて不燃シートなど火種降下防護の準備が十分でなかったこと及び作業開始前に可燃物の隔離を確認するよう作業責任者に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 船舶修理業者の作業責任者が、作業開始前に、可燃物が十分に隔離されているか確認しなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月1日20時55分
 岡山県日生港 
 (北緯34度43.6分 東経134度16.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船東明丸
総トン数 499トン
全長 58.51メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
ア 船体及び設備
 東明丸は、昭和59年10月に進水した、鋼製液化ガス運搬船で、主として岡山県水島港または兵庫県東播磨港を積地とし、茨城県鹿島港または宮崎県細島港を揚地として塩化ビニールモノマーの運搬に従事していた。
 船体は、船尾機関を有する凹甲板型で、凹甲板に横置円筒型の鋼製タンクを2基収めた貨物タンク区画を、また、船尾楼に船橋、乗組員居住区、操舵機室及び機関室をそれぞれ配置していた。
 船首楼は、上甲板の船首側からボースンストア、続く左舷側に電動機室及び圧縮機室、右舷側にペイントロッカーをそれぞれ配置し、船首楼甲板にはウィンドラスなど係船機器を備えるほか、給気筒が取り付けられていた。
 圧縮機室は、貨物ガスの回収と、配管内残液を圧送するための圧縮機が設置され、凹甲板に面する鋼製扉を有していた。
 電動機室は、船尾側の壁越しに圧縮機を駆動する電動機が設置され、船首側のボースンストアとの壁に鋼製扉が設けられていた。
 ボースンストア(以下「ストア」という。)は、床面が船首尾方向長さ5.6メートル後壁幅5.8メートルで、船首楼甲板のウィンドラスを駆動するための油圧ポンプと油タンクが船首左舷側に据え付けられ、傾斜する船首外板沿いに鋼製枠に棚板を載せた保管棚が取り付けられ、床からの高さ900ミリメートル(以下「ミリ」という。)の右舷側の棚上にワイヤーロープ、ホーサー、オイルフェンス、油吸着材、消火ホースなどのほか船内作業で用いる自動車タイヤの古チューブが段ボール箱に入れて置かれていた。また、同タンク頭上から同ポンプの真上にかけて左舷錨のホースパイプが、そして、対称右舷側には右舷錨のホースパイプがそれぞれ天井から斜めに下って外板につながっており、ホースパイプと保管棚の一部とが交差し、同交差箇所から後壁まで3.8メートルの距離であった。
イ ストアへの通行と換気
 ストアの出入り口は、船首楼甲板上の円筒コーミングにハッチが取り付けられたもので、コーミングからストア床まで立て梯子が取り付けられ、左舷後部の電動機室の出入り口にもなっていた。
 ストアの換気は、船首楼に設置された給気筒頂部の電動ファンから給気通風され、同室天井の通気孔から外気に排出されるようになっていた。

3 事実の経過
 東明丸は、A受審人及びB受審人ほか3人が乗り組み、平成15年9月30日宮崎県細島港で揚げ荷役を終えて16時45分同港を発したが、次の荷役予定まで日程が空いたので、基地としていた岡山県日生港に戻ることとし、翌10月1日13時00分船首1.80メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、空倉のまま同港に入港し、日生港日生防波堤西灯台から真方位060度500メートルの地点に、船首錨を投入し、船尾づけで係留された。
 A受審人は、予め会社にホースパイプの破孔部を補修したいので、沖修理業者を派遣するよう依頼していたところ、13時15分Cから作業員が来船したので、自ら補修の概要を説明したのち、B受審人が知識も経験もあるので任せておけばよいと思い、同受審人に火気作業についての防火措置を明確に指示することなく現場の船首楼に案内させ、自室に戻った。
 Cは、E専務、D指定海難関係人及び作業員1人が、ガス切断器、ガス容器、電気溶接棒、溶接防護具などを持参したものの、不燃シートなど、火の粉やスパッターの降下を防護するものを用意しないで本船に出向き、B受審人とともにストアに入って、ホースパイプと保管棚の一部とが交差する辺りの補修箇所を確認した。
 E専務は、B受審人に対して、可燃物の移動を依頼したのち、D指定海難関係人に対して、作業開始前に可燃物が十分に隔離されているか確認するよう指示しないまま、会社に入渠船があったので、火気を使用して補修作業が開始される前に東明丸を離れた。
 B受審人は、予備のホーサー2巻を船首楼甲板に運び揚げたのち、ホースパイプ間近の保管棚に置かれたものを移動してその下の棚板を一部外したが、間近の可燃物を移動したので大丈夫と思い、それに続く右舷側の保管棚に置かれていた自動車タイヤの古チューブ、油吸着資材、オイルフェンス等の可燃物を、電動機室内や同室入り口付近に移動するなど、十分に隔離しなかった。
 D指定海難関係人は、B受審人が可燃物の移動をしている間に、ガス切断器でパッチ当て材を切り出す場所を、船首側棚と両舷ホースパイプに近い床に設定するなど、作業の準備を行ったが、作業開始前に、ホースパイプの補修箇所や鋼管溶断の場所から可燃物が十分に隔離されているか確認しなかった。
 D指定海難関係人は、13時45分ごろ作業員とともに補修作業を開始し、自らはホースパイプの補修箇所に合わせてパッチ当て材を切り出し、ホースパイプに点付けしたのち、作業員に電気溶接でホースパイプのパッチ当て作業を行わせた。
 B受審人は、ストア内でホースパイプの補修作業に立ち会っていたが、しばらくして船首楼甲板に上がり、溶断による火の粉や電気溶接のスパッターが可燃物に降りかかっていないか監視しないまま、作業を続けさせた。
 D指定海難関係人は、作業員に右舷ホースパイプに3箇所の、また、左舷ホースパイプに1箇所のパッチ当てを順次行わせ、16時30分船首楼甲板に上がってB受審人とともに休憩していたところ、同時45分A受審人が現場を見に来たので、ストアに下りて作業の進捗状況を説明した。
 A受審人は、補修箇所の状況を聞いて、その日のうちには工事が終了できないと判断して、翌日継続することをD指定海難関係人と確認し合い、ストア内を見回して船首楼甲板に上がったのち、B受審人にもその旨を告げて自室に戻った。
 D指定海難関係人は、作業をそのまま中断して手じまいしたが、保管棚の上の可燃物に火種が残っていないか十分点検しないまま、船首楼甲板に上がり、B受審人にホースパイプの補修作業をいったん終わることを伝え、16時55分ごろ作業員とともに東明丸を離れた。
 B受審人は、出入り口にわずかに隙間を付けてハッチを閉め、再度ストアに入って現場の状況を確認しないまま居住区に戻り、17時過ぎA受審人に当日の作業を終了したことを報告した。
 A受審人は、作業終了の報告を受けたが、任せておいても大丈夫と思い、B受審人に対して、無人となったストアを定期的に見回るよう指示しなかった。
 B受審人は、右舷側ホースパイプに近い保管棚の段ボール箱の古チューブに降りかかった電気溶接のスパッターなど火種が残っていることに気付かず、以前に行われた同種の作業でも何事もなく終わっていたので、火種が残っていることはないだろうと思い、無人となったストアを定期的に見回るなどして、補修箇所近くに残された可燃物に異状がないか点検しなかった。
 こうして、東明丸は、ストア右舷側の保管棚に載せてあった段ボール箱内のタイヤの古チューブに落ちていた火種がくすぶり始め、給気筒から給気されていた同室で徐々に置き火の状態が強まり、いつしか炎が上がって周囲のオイルフェンス、消火ホース、流出油吸着材、棚板などの可燃物に燃え広がり、20時55分、前示の地点で、通気口と出入り口から黒煙が噴出し、隣に係留されていた船の乗組員が黒煙に気付き、折しも買い物から帰って来た機関長に通報した。
 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹いていた。
 東明丸は、機関長が船長に知らせて、消防用海水ポンプが始動され、船首楼甲板上の入り口から消火海水が投入されたが、燃焼物に有効にかからず、A受審人の通報で来援した消防隊が消火活動に当たり、21時55分ごろ鎮火した。
 火災の結果、ストア上半部が火炎で損傷し、ストア右舷側の外板及び船首楼甲板が変形し、油圧ポンプ、電動機室ファン及び圧縮機の各駆動電動機、油圧ポンプ始動器、圧縮機減速機、電線類、油圧配管などが焼損し、のち右舷外板と船首楼甲板の切替え、電動機の新替え、焼損機器と油圧配管の分解掃除、電線の新替えなど修理が行われた。
 Cは、本件後、修理で使用する火気作業のときには、可燃物の移動を確実に行うよう指示し、また、整備作業後の火種の残っていないことを確認するよう改めた。

(本件発生に至る事由)
1 Cが社員に対する安全教育や研修の機会を設けていなかったこと
2 A受審人が防火措置を明確に指示しなかったこと
3 Cが不燃シートなど火の粉の降下を防護するものを用意しなかったこと
4 Cが、作業開始前に可燃物が十分隔離されているか確認するよう指示しないままD指定海難関係人に作業を任せたこと
5 B受審人が可燃物を火気作業箇所から十分隔離しなかったこと
6 D指定海難関係人が、可燃物が十分隔離されているか確認しなかったこと
7 B受審人が補修作業中に火の粉やスパッターが可燃物に降りかかっていないか十分監視しなかったこと
8 D指定海難関係人が補修作業を手じまいした後、保管棚の上の可燃物を点検しなかったこと
9 B受審人が、D指定海難関係人から作業の手じまいをしたことを聞いて、ストア内を点検しなかったこと
10 A受審人がB受審人に対して無人となったストアを定期的に見回るよう指示しなかったこと
11 B受審人が作業を終えて無人となったストアを定期的に見回りを行わなかったこと

(原因の考察)
 本件火災は、いわゆる沖修理作業で、船首楼ストア内でホースパイプへのパッチ当て補修が行われ、ガス溶断作業の火の粉や電気溶接によるスパッターが、至近に置かれていた段ボール箱に詰め込まれた古チューブや消火ホースなど可燃物の隙間に飛び込み、作業後ストアが無人となった中、それらの火種が、可燃物の隙間でくすぶり続け、4時間ほどを経て燃え上がったもので、以下に防火の措置と、消火について考察する。
 まず、防火の措置については、火種と可燃物の状況は、本件当時、火気が直接行使されるホースパイプと右舷側の棚上の可燃物との距離が、わずか1メートルほどであった。ホースパイプから後壁までの距離とストア後壁の幅、そして隣接して電動機室があったことを考慮すると、距離的に可燃物を十分に隔離することは、容易に行えたのであり、B受審人がガス溶断作業及び電気溶接が行われる場所から、十分に隔離しなかったことは、本件発生の原因となる。
 防火管理の面では、A受審人が、ホースパイプの補修作業についての防火管理の考えを示さず、防火の措置についても明確に指示しなかったことは、B受審人が可燃物の十分な隔離をしなかったことにもつながったのであり、本件発生の原因となる。
 一方、船舶修理業者は、火気作業に当たって、不燃物でも火の粉の降下がもたらす不具合など想定をして、火の粉が直接降りかからないよう、養生するものを用意して慎重な防護を施してしかるべきで、万一、可燃物の隔離が十分でなくても、不燃シートなどによる防護がなされていれば本件発生は防止できたのであり、Cが、不燃シートなど火種の降下防止の準備をしていなかったことは、本件発生の原因となる。
 また、Cが、D指定海難関係人に対して可燃物が隔離されたか確認するよう指示しなかったこと、及び同指定海難関係人が、可燃物を十分に隔離されているか確認しなかったことは本件発生の原因となる。そして、Cが社員に対して安全教育や研修の機会を設けていなかったことが、両指定海難関係人に係る事由の背景になったと言うべきであり、改善が求められる。
 次に、消火の点では、補修作業の行われていた時間帯は、B受審人が作業場所に立ち会ったと主張するが、火種の飛散状況を詳細に監視したものとは認められず、また、D指定海難関係人が、当日の作業を終了後に可燃物周辺に火種が残っていないか点検したと主張するが、これも段ボール箱に詰め込まれたタイヤの古チューブなど中身を丹念に点検したものではなく、いずれも火種が発見できなかったため、せっかく置かれていたバケツの水による初期消火も行われなかった。
 すなわち事由7、事由8及び9は、火種となるものが飛び込むときやその後の火種探しに関することで、いずれも本件発生に至る過程に関与した事実である。しかしながら、電気溶接作業で発生する白煙が室内にこもっていた状況下、可燃物の隅々まで火の粉など火種の有無を確認するのは実務的には困難であり、本件発生の原因とするまでもないが、海難防止の観点から是正されるべきである。
 また、夕刻、火気作業を終えた場所に可燃物が残されたまま無人となった状況下には、不測の事態が考慮されるべきであり、B受審人が、作業を終えて無人となったストアを定期的に見回って点検しなかったことは、本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件火災は、日生港内で停泊中、船舶修理業者によるホースパイプの補修のために、ストア内で火気作業を行わせるに当たり、防火管理が不十分で、作業中に飛散した火の粉などが可燃物に降りかかり、作業後、無人となった状況下、可燃物に挟まっていた火の粉などが火種となってくすぶり、燃え広がったことによって発生したものである。
 防火管理が十分でなかったのは、船長が一等航海士に対して火気作業の防火措置を明確に指示せず、作業を終えて無人となった後に見回りをするよう指示しなかったことと、一等航海士が作業前に可燃物を十分に隔離せず、作業を終えてストアが無人となった後に見回りをして点検しなかったこととによるものである。
 船舶修理業者が、火気作業に備えて不燃シートなど火種降下防護の準備が十分でなかったこと及び作業開始前に可燃物の隔離を確認するよう作業責任者に指示しなかったことは本件発生の原因となる。
 作業責任者が、作業開始前に、可燃物が十分に隔離されているか確認しなかったことは本件発生の原因となる。

(受審人の所為)
1 懲戒
 A受審人は、沖修理でストア内のホースパイプの補修に当たり、火気作業の準備をさせる場合、ストア内に可燃物が多量に保管されていたのであるから、防火措置を明確に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、一等航海士が知識も経験もあるので任せておけばよいと思い、同航海士に対して防火措置を明確に指示しなかった職務上の過失により、作業中に飛散した火の粉がタイヤの古チューブの束に落ち、作業後無人となったストア内でくすぶり続け、いつしか炎が上がって周囲の可燃物に燃え広がる事態を招き、火災となってストア右舷側の外板及び船首楼甲板に変形を、油圧ポンプ、電動機室ファン及び圧縮機の各駆動電動機、油圧ポンプ始動器、圧縮機減速機、電線類、油圧配管などに焼損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、ストア内で火気を使用して補修作業を行わせるに当たり、防火準備をする場合、火の粉などの火種が可燃物に降りかからないよう、電動機室や同室入り口付近に移動するなど、可燃物を十分に隔離すべき注意義務があった。しかるに、同人は、間近の可燃物を移動したので大丈夫と思い、電動機室や同室入り口付近に移動するなど、可燃物を十分に隔離しなかった職務上の過失により、作業中に飛散した火の粉がタイヤの古チューブの束に落ち、作業後無人となったストア内でくすぶり続け、いつしか炎が上がって周囲の可燃物に燃え広がる事態を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 Cが、沖修理を請け負って、本船ストア内で火気作業を行うに当たって、不燃シートなど火種降下防護の準備が十分でなかったこと及び作業開始前に可燃物が十分に隔離されているか確認するよう作業責任者に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 Cに対して勧告しないが、会社の安全管理体制を具体的に策定して実施するとともに、社員の安全教育を十分行わなければならない。
 D指定海難関係人が、作業開始前に、可燃物が十分隔離されているか確認しなかったことは本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては、本件後、火気作業前の隔離など防火の確認を十分に行うよう反省していることに徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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