(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月9日13時00分
長崎県宇久島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船俊光丸 |
総トン数 |
1.2トン |
全長 |
6.42メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
3 事実の経過
俊光丸は、平成9年6月に進水した、一本釣り漁業に従事する船尾端に船外機を備えたFRP製漁船で、A受審人(昭和58年10月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.15メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、平成16年4月9日08時00分長崎県平漁港を発し、同港北東方沖合にある古志岐島周辺の漁場に向かった。
ところで、俊光丸は、船首端から後方約1.3メートルが両舷にパルピットを備えた船首楼甲板で、その後方から約4メートルが主甲板となっており、船体中央部の主甲板上に無蓋の操舵スタンドがあって、両舷にブルワークが巡らされていた。船尾部には、船尾端に船外機がボルトで船体に固定され、その前部約0.7メートルがモーターウエルとなっており、その前部にはベンチを兼ねた甲板上高さ約0.5メートルの物入れを両舷ブルワークの幅に設けていた。
08時40分A受審人は、肥前長崎鼻灯台から025度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点に到着して重さ5キログラムのステンレス製4爪錨を水深約30メートルの海中に投入し、直径12ミリメートルのナイロン製錨索を約50メートル延出して機関を停止し、錨泊して釣りを始めた。
12時半ごろ、A受審人は、前示地点で釣りを続けていたものの、釣果が思わしくなかったので釣り場を移動することにして昼食をとったのち、12時52分船首が折からの潮流に立って335度を向いていたとき、船外機を始動して中立運転としたまま揚錨を開始したが、錨が根掛かりして揚錨することができないので、平素のように機関を使用して前進力で根掛かりした錨を外すことにした。
A受審人は、錨索を船首楼甲板上にあるアイプレートに係止したのち、船外機を前進にかけて錨索の延びた方向に約15メートル進行したとき、船外機が停止して船首が180度回頭し、船尾が潮流に立つ状態となったので、船尾から海中を見たところ、錨索が船外機のプロペラに絡んで緊張しているのを認めた。
A受審人は、プロペラから海中に延びた錨索をフックで手元に引き寄せようとしたものの、緊張して引き寄せることができないので、錨索を緩めるために付近の海域で操業中の僚船に船尾を引かせることにして携帯電話で連絡をとり、12時57分来援した僚船から曳索を左舷船尾のクリートに係止して船尾方に引かせながらモーターウエルに立ち、錨索をフックで手元に引き寄せ、折からの南東方に向かう潮流と波高約1メートルの潮波がある状況下で、プロペラに絡んだ錨索を解く作業を開始した。
A受審人は、自身の体重と錨索を引く力とによって船尾が海面近くに沈下した状態で作業を行っているうち、やがて、船尾から海水が打ち込んで船内に滞留するようになったものの、依然として絡んだ錨索を解くことができず、このまま作業を続けると船内の海水が片舷に移動して船体が大傾斜するおそれがあったが、プロペラに絡んだ錨索を解くことに気を奪われてこのことに気付かず、緊張した錨索を切断して捨錨する措置をとらずに作業を続けた。
こうして、俊光丸は、A受審人が船尾で作業中、潮波を受けて船体が大きく横揺れしたとき、船内に滞留していた海水が片舷に移動し、船体が右舷側に大傾斜して復原力を喪失し、13時00分前示錨泊地点において、船首をほぼ155度に向けたまま右舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風力2の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には南東方に向かう約3ノットの潮流があった。
転覆の結果、俊光丸は、船外機及び計器類に濡損を生じたが、来援した漁業協同組合所属の警戒船により平漁港に引き付けられ、のち修理され、A受審人は海中に投げ出されたが、僚船に救助された。
(原因)
本件転覆は、長崎県宇久島東方沖合において、釣り場を移動するために揚錨中、根掛かりした錨の錨索がプロペラに絡んで緊張した際の措置が不適切で、潮波を受けて船体が大きく横揺れしたとき、船内に打ち込んだ海水が片舷に移動し、船体が大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県宇久島東方沖合において、釣り場を移動するために揚錨中、錨が根掛かりしたうえ錨索がプロペラに絡んで緊張した場合、絡んだ錨索を解く作業中に船尾から海水が船内に打ち込んでいたのだから、船内の海水が片舷に移動して船体が大傾斜することのないよう、錨索を切断して捨錨する措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、プロペラに絡んだ錨索を解くことに気を奪われ、錨索を切断して捨錨する措置をとらなかった職務上の過失により、潮波を受けて船体が大きく横揺れしたとき、船内に打ち込んだ海水が片舷に移動し、船体を大傾斜させて転覆を招き、船外機及び計器類に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。