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平成16年広審第58号
件名

モーターボート第十あてぎ丸転覆事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成16年10月15日

審判庁区分
広島地方審判庁(佐野映一、吉川 進、米原健一)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:第十あてぎ丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
左舷側の鉄パイプ製テント支柱2本に折損

原因
気象・海象に対する配慮不十分で発航を取り止めなかったこと

主文

 本件転覆は、気象海象に対する配慮が不十分で、発航を取り止めなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月19日08時30分
 広島県横島南方沖合
 (北緯34度20.2分 東経133度17.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボート第十あてぎ丸
全長 5.56メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 22キロワット
(2)設備及び性能等
 第十あてぎ丸(以下「あてぎ丸」という。)は、平水区域を航行区域とする最大搭載人員5人のFRP製モーターボートで、船体中央部やや後方に操舵スタンドを、船尾端に船外機をそれぞれ装備し、航海速力は8.0ノットであった。
 前部甲板の両舷には直径25ミリメートル高さ80センチメートルの、また後部甲板の両舷には直径25ミリメートル高さ92センチメートルの鉄パイプ製支柱がそれぞれ1本立てられ、両舷の支柱頂部を連結するように同製の山形骨組みが取り付けられて、同骨組みの上に長さ4.30メートル幅2.24メートル厚さ2ミリメートルの防水キャンバス製テントが展張されていた。

3 天気概況及び警報、注意報の発表状況
 平成15年7月19日03時00分日本海中部にある998ヘクトパスカルの低気圧が北東進中で、同低気圧の中心から温暖前線が南東方に伸びて若狭湾に、寒冷前線が南西方に伸びて九州北部を通って東シナ海にそれぞれ達し、同低気圧や前線に向かって南から暖かく湿った空気が流れ込んで、西日本の大気の状態が不安定になっていた。
 そして、広島地方気象台は、前日18日22時20分広島県南部に大雨、洪水警報、雷、濃霧注意報を発表し、19日05時15分同警報及び注意報を福山・尾三地域に対する大雨、雷、洪水注意報に切り替えて発表し、防災上の注意事項として落雷などのほか、局地的な突風に警戒を呼びかけていた。

4 事実の経過
 あてぎ丸は、A受審人が単独で乗り組み、釣り仲間4人を乗せ、魚釣りの目的で、船首尾ともに0.35メートルの喫水をもって、平成15年7月19日07時50分広島県横田漁港の係留地を発し、同県横島南方沖合の釣り場に向かった。
 発航に先立ち、A受審人は、釣り仲間から前夜の天気予報で大雨、洪水警報が発表されていたことを聞き、07時00分携帯電話でテレホンサービスの天気予報を聞いたところ、福山・尾三地域に大雨、雷、洪水注意報が発表されて局地的な突風に警戒を呼びかけていることを知ったが、警報が注意報に変わっているし、朝の空模様が多少雲のある青空で風もほとんどなかったことから、天候は回復傾向にあるものと思い、魚釣り中に天候が悪化して船体等が危険な状態に陥ることのないよう、気象海象に対する配慮を十分に行うことなく、雨が降っても快適に魚釣りを行えるようにと釣具店から借りる釣り船をテント付きのあてぎ丸に変更し、予定通り発航したものであった。
 こうして、A受審人は、08時05分前示釣り場に至って、魚釣りを行っていたところ、北西の風とともに雨が降り始め、同方向から低く垂れ込めた黒い雲が接近する様子を認めたので、魚釣りを中断して帰航することとし、同時24分横田港一文字防波堤西灯台から215度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で、針路を034度に定め、機関を全速力前進にかけて発進し、6.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 08時25分少し過ぎA受審人は、横田港一文字防波堤西灯台から215度1.2海里の地点で、針路を横島南岸に接航する054度に転じ、更に同時27分同灯台から211度1.0海里の地点で、針路を065度に転じて続航したところ、風雨が雷鳴や雷光を伴って強くなるとともに波も高くなり、風雨は幾度かその強さや方向を変えて突風となって吹き付け、甲板上に展張したテントに風をはらんで船尾が浮き上がるように右舷側に大傾斜し、08時30分横田港一文字防波堤西灯台から199度1,460メートルの地点において、あてぎ丸は、原針路原速力のまま、復原力を喪失して転覆した。
 当時、天候は雨で、瞬間最大風速毎秒20メートルの西寄りの突風が吹き、潮候は低潮時であった。
 転覆の結果、左舷側の鉄パイプ製テント支柱2本に折損を生じ、のち釣具店の他の釣り船により付近の海岸に引き上げられた。また、A受審人と釣り仲間4人が海中に投げ出されたが、付近のプレジャーボートによって全員救助された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が発航前に釣り仲間から、前夜の天気予報で大雨、洪水警報、雷、濃霧注意報が発表されていたことを聞いたこと
2 A受審人が発航前にテレホンサービスの天気予報で、大雨、雷、洪水注意報が発表されて防災上の注意事項として落雷などのほか、局地的な突風に警戒を呼びかけていることを調べたこと
3 A受審人が発航を取り止めなかったこと
4 A受審人が釣り船をテント付きのあてぎ丸に変更したこと

(原因の考察)
 本件は、日本海中部にある低気圧が北東進中で、同低気圧や前線に向かって南から暖かく湿った空気が流れ込んで、西日本の大気の状態が不安定になっており、福山・尾三地域に大雨、雷、洪水注意報が発表されて局地的な突風に警戒を呼びかけている状況の下、魚釣り中に天候が悪化したので帰航途上、突風を受け大傾斜して転覆したものである。
 以下原因について考察する。
 A受審人は、発航前に、釣り仲間から前夜の天気予報で警報が出ていたことを聞いて、携帯電話でテレホンサービスの天気予報を調べ、大雨、雷、洪水注意報が発表されて防災上の注意事項として落雷などのほか、局地的な突風に警戒を呼びかけていることを知っていたのに、発航を取り止めなかったことは、本件発生の原因となる。
 A受審人がテント付きのあてぎ丸に変更したことは、同船がテントのない釣り船より風圧の影響を大きく受けたことは明らかであるが、小型釣り船が瞬間最大風速毎秒20メートルに達する突風が吹く状況下を航行すること自体が困難かつ危険なのであって、テントがなければ転覆を免れることができたとすることはできないから、原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件転覆は、広島県横島南方沖合において魚釣りを行うにあたり、大雨、雷、洪水注意報が発表されて局地的な突風に警戒を呼びかけている際、気象海象に対する配慮が不十分で、発航を取り止めず、魚釣り中に天候が悪化して帰航途上、甲板上に展張したテントに突風をはらんで大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、広島県横島南方沖合において魚釣りを行うにあたり、テレホンサービスの天気予報で、福山・尾三地域に大雨、雷、洪水注意報が発表されて局地的な突風に警戒を呼びかけていることを知った場合、魚釣り中に天候が悪化して船体等が危険な状態に陥ることのないよう、気象海象に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、前夜の天気予報で発表されていた警報が注意報に変わっているし、朝の空模様が多少雲のある青空で風もほとんどなかったことから、天候は回復傾向にあるものと思い、気象海象に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、発航を取り止めず、魚釣り中に天候が悪化して帰航途上、甲板上に展張したテントに突風をはらんで大傾斜し、復原力を喪失して転覆を招き、鉄パイプ製のテント支柱2本に折損を生じさせ、また、自ら及び釣り仲間4人が海中に投げ出される事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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