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平成16年長審第49号
件名

漁船時栄丸沈没事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年12月16日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也、藤江哲三、稲木秀邦)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:時栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
海水が浸入、沈没

原因
主機ゴム製排気管の点検不十分

主文

 本件沈没は、主機ゴム製排気管の点検が不十分で、同管の切接ぎ箇所が抜け落ちて多量の海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月2日19時20分
 長崎県島原港南東方沖合
 (北緯32度43.1分 東経130度26.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船時栄丸
総トン数 4.90トン
登録長 11.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 102キロワット
(2)設備及び構造等
 時栄丸は、昭和51年に進水した船尾楼付の和船型FRP製漁船で、船尾楼甲板上に操舵室、同甲板下に機関室、前部甲板下にいけす、物入れ等をそれぞれ設け、前部甲板船首部に揚網用の網巻機を備えていた。
 機関室は、中央にB社製のFD6T06型と称する海水直接冷却式の過給機付ディーゼル主機を装備し、操舵室の右舷側通路船首部に設けた縦及び横がそれぞれ約0.8メートル(m)及び約0.4mのさぶた付開口部から出入りできるようになっていたほか、操舵室床面後部中央に縦横いずれも1mばかりで、前後にスライドする蓋付の開口部を設け、同所からも機関室に出入りすることができるようになっていた。
 主機は、排気を船尾から排出するようになっていて、過給機の排気出口に外径80ミリメートル(mm)長さ1.24mのステンレス鋼製排気管(以下「過給機排気管」という。)が機関室天井近くまで立ち上がったのち緩やかに船尾下方に向くように湾曲させて取り付けてあり、船尾外板右舷端に取り付けた外径80mm長さ約300mmのステンレス鋼製排気排出管(以下「排気排出管」という。)との間を外径90mm長さ約2mで布巻ゴム製のホース(以下「ゴム製排気管」という。)で接続してあった。
 なお、主機運転中は冷却海水出口集合管から過給機排気管まで冷却海水を導いて注水し、主機排気管を冷却するようになっていたが、ゴム製排気管は加熱の繰返しによる経年劣化を避けることができないので、変形や亀裂が生じていないか定期的に点検する必要があった。また、排気排出管は先端が斜めに切断され、通常の喫水状態で海面から下縁まで約150mmで、上縁が115mm下縁が80mm船外に突き出していた。

3 事実の経過
(1)操業模様
 時栄丸は、長崎県島原港を定係地として夕方出漁して翌朝帰港する日帰り操業に従事しており、島原湾内で毎年2月から6月及び11月から翌年2月までの期間は、ぼら、かれい、ひらめなどの刺し網漁業、6月から11月までは車えびのげんじき網漁業を行っていた。
 げんじき網漁業は、身網の底部に袋網を取り付けて潮流を横切るように投網し、袋網に入る車えび等を捕獲するもので、時栄丸では長さ約500mの身網に80個の袋網を取り付けた漁網を使用し、約5分で投網後15ないし20分間待機したのち、船首の網巻機で約25分かけて揚網しており、水深40ないし50mの海域で1回50分ばかりの操業を夜明けまで繰り返していた。
 投網は、刺し網漁業のときと同様に、漁網がプロペラに絡まないよう微速力後進として前部甲板船首部の左舷側から行うため、投網中は波の高さや風の状況によって波浪が船尾に打ち寄せ、排気排出管が波浪の打込みや船体動揺に伴う海中没入の繰返しによって間欠的に閉塞を繰り返すことが多かった。
(2)機関室の点検状況
 A受審人は、出漁時、乗船すると先ず操舵室に入って床面開口部のスライド蓋を開け、主機を遠隔始動したのち直結の発電機を駆動し、開口部をのぞいてビルジが溜っていれば自動停止式のビルジポンプを運転しながら、主機のクラッチを入れて漁場に向かっており、開口部直下が主機の後端部で排気管の一部や機関室後部がのぞけることから、機関室に入るのは5ないし6日に一度燃料油等の油量を確認するときぐらいで、主機排気管を含め、機関室内部を適宜点検する習慣をつけていなかった。
(3)ゴム製排気管
 A受審人は、平成6年ごろゴム製排気管が経年劣化により損傷していることを認めて新替えしたのち、同12年10月船体及び機関整備の目的で入渠したとき、主機の潤滑油を新替えするため機関室に入って周囲を点検した際、再び同排気管が変質して微少亀裂が生じていることに気付き、整備業者に相談したところ、船首側は傷んでいるが船尾側は十分使用できる旨の説明を受け、勧められた切接ぎ修理を同業者に依頼した。
 ゴム製排気管は、こうして、船首側0.8mばかりが新替えされ、残った船尾側約1.2mの同排気管との突合せ部に、直径80mm長さ230mmのステンレス鋼製接続管を挿入し、それぞれに幅15mmのステンレス製金属バンドを掛け、ボルトで締め付けて修理され、接続管の重みで同排気管が排気排出管より低い位置に垂れ下がることから、天井からロープで吊り下げられた。
 その後、ゴム製排気管は、投網中、排気排出管が波浪等で閉塞を繰り返す際、管内の排気圧が間欠的に変動して微少な伸縮を長期間繰り返すうち振動の影響もあって、いつしか接続管の船尾側締付けバンドのボルトが緩み始めた。
(4)本件発生に至る経緯
 時栄丸は、A受審人が船長として妻のC甲板員と2人で乗り組み、げんじき網漁業の目的で、船首0.8m船尾1.5mの喫水をもって、平成16年6月2日16時00分島原港を発し、操舵室内から長さ約2mの舵柄で操舵操船に当たり、同時40分同港南東方4海里ばかり沖合の漁場に至って操業を開始した。
 ところで、A受審人は、ゴム製排気管が時栄丸を購入以来二度にわたって損傷したが、修理業者に修理させたので当分は不具合が生じることはないものと思い、操舵室床面開口部から降りて少し船尾方に入れば容易に点検できたのに、切接ぎ修理後も依然として同排気管を点検していなかったので、接続管締付けバンドのボルトが緩み、このころには、船尾側の同排気管が船尾方に抜け出て、そのまま運転を続けると抜け落ちる状態となっていることに気付かなかった。
 こうして、時栄丸は、18時59分島原港防波堤灯台から136度(真方位、以下同じ。)4.2海里の地点に至って当日3回目の操業に掛かり、船尾を風上の045度に向け、機関を微速力後進にかけて2.2ノットの対地速力とし、A受審人が左舷船首部で舵柄とリンクした延長舵棒を操作しながら、C甲板員と投網を開始したところ、船尾から打ちつける波浪と振動の影響で船尾側のゴム製排気管が接続管から抜け落ち、船尾排出管から船内に海水が浸入し始めた。
 A受審人は、19時05分投網を終えてふと船尾方を見たとき、船尾甲板が海水に浸かっていることに気付いて驚き、甲板洗浄などに使用する小型移動式の電動水中ポンプで排水を試みたが効なく、船体の傾きとともに浸水が激しくなって主機が停止した。
 時栄丸は、A受審人が近くで操業中の僚船に救助を求めていたところ、19時20分島原港防波堤灯台から132度4.2海里の地点において、多量の海水が機関室に浸入して浮力を喪失し、船首を225度に向けて船尾から沈没した。
 当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、海上はやや波があった。
 A受審人は、沈没の少し前に危険を感じ、C甲板員に作業用救命衣を着用させて2人で海中に逃れ、自身は来援した僚船に救助され、潮流に流されたC甲板員は捜索に当たった海上保安庁の巡視艇によって約3時間後に救助された。
 沈没の結果、時栄丸は、のち、僚船によって引き揚げられたが、主機ほか搭載機器が濡損するとともに船体各部が損傷していることが判明し、費用と日程の関係で廃船処理された。

(本件発生に至る事由)
1 投網が後進しながら行われていたこと及び排気排出管が海面から約150mmの低い位置に取り付けられていたことから、投網中は排気排出管が海水によって間欠的に閉塞を繰り返すことが多かったこと
2 A受審人が機関室内部を適宜点検する習慣をつけていなかったこと
3 ゴム製排気管が切接ぎ修理されたこと
4 A受審人がゴム製排気管は修理業者に修理させたので当分は不具合が生じることはないとの認識を持ったこと
5 A受審人が二度にわたってゴム製排気管が経年劣化したことを認めながら、主機排気管の点検を行っていなかったこと
6 微少伸縮や振動の影響で接続管締付けバンドのボルトが緩んでゴム製排気管が切接ぎ箇所から抜け落ちたこと

(原因の考察)
 ゴム製排気管は、冷却されているものの加熱の繰返しによる経年劣化を避けることができない部品であることから、変形や亀裂を生じていないか適宜点検する必要があり、切接ぎ修理されたときは更に切接ぎ箇所に緩み等がないかの点検も必要となる。本件はこれら点検を行っていれば事前に締付けバンドのボルトの緩みに気付いて防止できたもので、A受審人が、同管が二度にわたって損傷して切接ぎ修理を施したのちも同点検を行っていなかったことは本件発生の原因となる。
 A受審人が、機関室内部を適宜点検する習慣をつけていなかったこと及びゴム製排気管は修理業者に修理させたので当分は不具合が生じることはないとの認識を持ったことは、いずれも本件沈没に至る過程において関与した事実であるが、本件結果と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 投網が後進しながら行われていたこと、排気排出管が海面近くの低い位置に取り付けられていたこと、同排出管が投網中間欠的に閉塞を繰り返すことが多かったこと及びゴム製排気管が切接ぎ修理されたことは、いずれも接続管の締付けが緩んでゴム製排気管が切接ぎ箇所から抜け落ちるに至る過程において関与した事実であるが、前述のように適宜点検を行っていれば同抜落ちは防止できたことから、本件結果と相当な因果関係があるとは認められない。

(原因)
 本件沈没は、船尾に排気排出管を有するゴム製排気管の点検が不十分で、長崎県島原港南東方沖合の漁場において操業中、同管が切接ぎ箇所から抜け落ちて多量の海水が機関室に浸入し、浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、時栄丸の保守管理に当たり、船尾に排気排出管を有する主機のゴム製排気管が二度にわたって損傷し、切接ぎ修理を施した場合、再び同管が損傷したり、切接ぎ箇所が緩んだりするおそれがあったから、同所の締付けバンドなどを含め、ゴム製排気管を適宜点検すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、修理業者に修理させたので当分は不具合が生じることはないものと思い、同排気管を適宜点検しなかった職務上の過失により、同締付けバンドが振動等で緩んでいることに気付かず、操業中、同排気管が切接ぎ箇所で抜け落ちて多量の海水が機関室に浸入する事態を招き、時栄丸を沈没させてのち廃船させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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