(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月29日05時20分
北海道花咲港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八昇龍丸 |
総トン数 |
4.94トン |
登録長 |
10.68メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
50 |
3 事実の経過
第八昇龍丸(以下「昇龍丸」という。)は、昭和57年3月に進水したはえ縄漁業等に従事するFRP製漁船で、上甲板前部右舷側にネットホーラーが、同甲板中央部に操舵室が、同室後部に機関室囲壁がそれぞれ設置されていた。
ところで、昇龍丸は、毎年2月から5月までを流氷の接近に伴い休漁とし、北海道花咲港の第1船揚場に上架していたが、上架の際、冷却水凍結による損傷防止のため、機関室内冷却水の水抜きを実施していた。水抜きは、船底の船外弁(以下「船外弁」という。)を開放しておくのが一般的であったが、それに加えて主機冷却海水ポンプ蓋の締め付けボルトを緩める場合もあり、下架するときは、機関室内海水漏洩の有無について十分に点検する必要があった。
A受審人(昭和50年8月一級小型船舶操縦士免許取得)は、平成15年2月、昇龍丸の上架作業を雇入れた乗組員により実施させており、水抜きは、船外弁の開放に加え、主機右舷側下部に備わった冷却海水ポンプ蓋の締め付けボルトを緩めることにより実施されていたが、当時、乗船していなかったA受審人はこのことを知らず、船外弁の開放のみで水抜きを行ったものと認識していた。
平成15年4月28日14時00分A受審人は、操業準備のため、冬期間、上架していた昇龍丸を下架し、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水となった同船に、同人が船長としてほか1人と乗り組んだ。
このときA受審人は、上架時に船外弁の開放だけで水抜きを行ったものと思い、船外弁取り付け配管からの海水漏洩について点検確認したものの、機関室内他箇所からの海水漏洩の有無について十分に点検しなかったので、締め付けボルトが緩んでいた冷却海水ポンプ蓋から海水が機関室内に漏洩し始めたことに気付かず、そのまま僚船に曳航され、14時30分花咲港第1船だまりの魚市場前岸壁に主機の点検整備のため係留した。
A受審人は、その後、一旦帰宅し、17時ごろ再び係留状態の確認のため来船したが、このときも機関室ビルジの確認をしなかったため海水の漏洩に気付かなかった。
こうして昇龍丸は、海水が機関室内に漏洩し続け、翌29日05時20分花咲灯台から真方位332度830メートルの地点において、浮力を喪失して水船状態となったところを魚市場職員に発見され、通報を受けたA受審人が事後の措置に当たった。
当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果、昇龍丸は、引き揚げられたが、濡れ損した電気機器等の修理費の都合で廃船とされた。
(原因)
本件沈没は、北海道花咲港において、操業準備のため下架する際、機関室内海水漏洩の有無についての点検が不十分で、無人で岸壁係留中、主機冷却海水ポンプ蓋から海水が機関室内に漏洩し続け、浮力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、北海道花咲港において、休漁期間を終え、上架していた昇龍丸を操業準備のため下架した場合、機関室内海水漏洩の有無について十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、上架時に船外弁の開放のみで水抜きを行ったものと思い、機関室内海水漏洩の有無について十分に点検しなかった職務上の過失により、海水が主機冷却海水ポンプ蓋から機関室内に漏洩していることに気付かず、同船を無人で岸壁に係留中、漏洩した海水により浮力を喪失させて同船の沈没を招き、濡れ損を生じた電気機器等の修理費の都合で同船を廃船とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。