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平成16年那審第31号
件名

漁船第八十八真賀丸沈没事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年11月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(杉?ア忠志、小須田 敏、加藤昌平)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:第八十八真賀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
多量の海水の浸入により沈没

原因
冷凍機用コンデンサの開放掃除終了時、取り外したベンド管のホースバンドの締付け状態の確認不十分、機関室巡視及びビルジ高位警報装置の点検、整備不十分

主文

 本件沈没は、冷凍機用コンデンサ海水側の開放掃除を終えた際、同コンデンサ海水入口管に接続されたベンド型ゴムホースのホースバンドの締付け状態の確認が不十分であったばかりか、機関室巡視及びビルジ高位警報装置の点検、整備がいずれも不十分であったことにより、多量の海水が同室に浸入し、船体が浮力を喪失したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月20日18時25分
 ミクロネシア連邦南方沖
 (北緯04度10分 東経143度43.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八十八真賀丸
総トン数 19.96トン
登録長 16.63メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット
(2)設備等
ア 第八十八真賀丸
 第八十八真賀丸(以下「真賀丸」という。)は、昭和50年5月に進水した、まぐろ延縄漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、甲板下には、船首方から順に船首水槽、1番ないし5番魚倉、船体中央部から船尾方にかけて機関室、船員室、舵機庫及び船尾格納庫などを配置し、機関室前部の上方に操舵室を配していた。
イ 機関室機器配置
 機関室は、そのほぼ中央に、主機としてB社製のS6R2F-MTK-2型と称する、過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を装備し、同機の右舷側前部に、4サイクル4シリンダ・ディーゼル機関で直結駆動される電圧220ボルト容量40キロボルトアンペアの交流発電機(以下「補機駆動発電機」という。)を、反対の左舷側前部に、主機動力取出軸によりベルト駆動される電圧220ボルト容量50キロボルトアンペアの交流発電機(以下「主機駆動発電機」という。)を備えていたほか、補機駆動発電機の左舷側に電動機駆動式の雑用水ポンプを、主機駆動発電機の右舷側に同駆動式の冷凍機冷却海水ポンプ(以下「冷却海水ポンプ」という。)を、機関室後部隔壁のほぼ中央に同駆動式のビルジポンプを、同ポンプの下方にあるビルジだめにビルジ高位警報装置の検出器をそれぞれ備えていた。
 また、機関室中央部から同室後部隔壁にかけての両舷には、容量2キロリットル及び容量2.5キロリットルの船体付燃料油タンクを縦列に各1個ずつ配置し、容量2キロリットルの両燃料油タンクの上部に約800リットルの燃料油セットリングタンクを1個ずつ配置していた。
 そして、機関室前部隔壁には、幅約2メートルの棚が、船底から約50センチメートル(以下「センチ」という。)上方に設けられた同室床面のさらに約1.4メートル上方に、同隔壁に沿って船横方に取り付けられていた。
 冷凍機装置は、冷凍機用圧縮機及び冷凍機用コンデンサ(以下「コンデンサ」という。)などで構成され、機関室前部隔壁に取り付けられた棚の左舷側に、コンデンサが船縦方に据え付けられており、コンデンサ冷却海水入口弁及び同海水出口管を有するコンデンサカバーが船尾側に位置していた。
 また、冷凍機装置は、船体振動の影響を受けやすい箇所に据え付けられていた。
ウ 冷凍機装置の冷却海水系統
 冷凍機装置の冷却海水系統は、主機左舷側の船底に取り付けられた三方弁式の船底弁から冷却海水ポンプにより吸引、加圧された海水が、呼び径32ミリメートル(以下「ミリ」という。)の同ポンプ吐出管に接続された長さ約1.2メートルのゴムホース、T字型管継手及びベンド型ゴムホース(以下「ベンド管」という。)、次いでコンデンサ冷却海水入口管及び同入口弁を経てコンデンサに流入し、これを冷却したのち、左舷側外板に沿って立ち上がったコンデンサ冷却海水出口管を通り、水面上約70センチにある船外排出口から船外に排出されるようになっており、同ホース及びベンド管の両端にはホースバンドが2個ずつ取り付けられていたものの、同ホース及びベンド管などに防振バンドが取り付けられていなかった。
 また、T字型管継手の他方には、雑用水ポンプからのゴムホースが取り付けられていて、同ポンプからもコンデンサに送水することができるようになっていた。

3 事実の経過
 真賀丸は、A受審人ほかインドネシア人5人とフィリピン人2人が乗り組み、操業の目的で、1番、2番、4番及び5番の各魚倉に低温の海水(以下「冷水」という。)を漲水して満水状態とし、3番魚倉に燃料油を5キロリットルばかり積み込み、船首1.4メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、平成15年10月13日15時00分(日本標準時刻、以下同じ。)アプラ港を発し、主機を全速力前進にかけてミクロネシア連邦南方の漁場に向かった。
 発航時、A受審人は、同人の長男が所用で下船したことから、自らが船長職を執っていたものの、船舶職員法の規定に従って交代者を手配しなかったので、機関長が乗り組んでいなかった。
 翌々15日朝、A受審人は、冷凍機用圧縮機の高圧側圧力が上昇しているのを認め、同日午前中、インドネシア人の機関員と2人して、船尾側のコンデンサカバーを開放することとし、冷却海水ポンプを止めてコンデンサ海水側の開放掃除に取り掛かり、レバーハンドルが取り付けられていなかったうえ、同ハンドルを装着する弁棒先端部が著しく衰耗していた同ポンプの船底弁をパイプレンチで閉弁し、コンデンサ冷却海水入口管に接続されたベンド管のホースバンド2個を緩め、ベンド管端の一方を取り外し、次いでコンデンサ冷却海水出口管のフランジ部の各ボルト、ナットを取り外したのち、同カバーを開放してコンデンサ冷却管などの掃除を行った。
 その後、A受審人は、船尾側のコンデンサカバーを復旧し、コンデンサ冷却海水出口管のフランジ部の各ボルト、ナットを締め付け、取り外したベンド管端をコンデンサ冷却海水入口管に60ミリばかり差し込んでコンデンサ海水側の開放掃除を終えたが、冷却海水ポンプの運転を開始したとき、漏水が認められなかったので大丈夫と思い、同掃除終了後、ベンド管のホースバンドの締付け状態を十分に確認することなく操舵室に戻ったので、同バンドの締付けが著しく不足していて、船体振動の影響を受けてベンド管が同入口管から抜け落ちるおそれがあることに気付かなかった。
 真賀丸は、同月16日06時ごろ北緯06度34分東経144度55分の漁場に至った。
 真賀丸の操業は、長さ約90キロメートル直径3.5ミリの幹縄及び約2,600本の枝縄と釣り針からなる延縄を06時ごろから投げ入れ、これを13時ごろ終えたのち、15時30分ごろから乗組員全員で揚縄作業を始め、翌日03時ごろ同作業を終える操業形態のもとで操業を繰り返していた。
 操業中、A受審人は、機関員に対して、燃料油の移送を定期的に行うよう指示していたものの、これまで冷却海水系統のゴムホースなどが損傷するなどしてビルジ量が増加し、ビルジ高位警報装置が作動したことがなかったので、機関室巡視を十分に行ってビルジ量の異常の有無を点検するよう指示していなかった。また、同人は、同装置の点検、整備を定期的に行っていなかったので、いつしか、同室後部隔壁のほぼ中央に備えられた同装置の検出器のフロートが固着するなどしていて、同装置が作動不能の状態になっていることにも気付かなかった。
 同月19日11時30分過ぎ真賀丸は、主機駆動発電機を運転し、雑用水ポンプから甲板上に、冷却海水ポンプからコンデンサにそれぞれ送水しながら投縄作業中、操舵室で操業の指揮を執っていたA受審人が、投縄機が停止したことなどから船内電源の喪失に気付き、機関室に赴いて同発電機の各部を点検したところ、同発電機制御盤のリレーなどが焼損しているのを認めて運転不能と判断し、12時ごろ補機駆動発電機を運転して船内電源を確保したのち、燃料油セットリングタンクの油量及びビルジだめなどの点検を行って操舵室に戻り、主機駆動発電機を修理するためアプラ港に帰港することとし、続けられていた投縄作業を中止して揚縄作業を開始するよう乗組員に指示した。
 そして、真賀丸は、コンデンサ海水側の開放掃除を終えた際、取り外したベンド管のホースバンドが十分に締め付けられず、同バンドに緩みを生じていたことから、いつしかベンド管がコンデンサ冷却海水入口管から抜け落ち、冷却海水ポンプからの海水が機関室に浸入するままとなり、次第に同室の水位が上昇するようになったものの、ビルジ高位警報装置が作動せず、また、同室巡視が十分に行われていなかったことから同水位が上昇し続けていることに誰も気付かないでいるうち、主機逆転減速機のケーシング内に海水が浸入して作動油系統に混入し始め、しばらくして主機動力取出軸が海水を巻き上げ、運転中の補機駆動発電機などに降りかかるようになった。
 操舵室で揚縄作業の指揮及び操船に就いていたA受審人は、18時20分ごろから主機逆転減速機の嵌脱に要する時間が長くなり、そのうち船内の照明灯が明暗を繰り返すようになったのでかん機関室に急行し、同時50分海水が同室床上約25センチまで滞留し、主機動力取出軸が激しく海水を巻き上げて補機駆動発電機に降りかかっているのを発見した。
 A受審人は、機関室の異常を認め、直ちに機側で主機を停止したのち主機冷却海水系統の船底弁を閉弁し、魚倉の冷水などの送水作業に使用していた電動機駆動式の移動式排水ポンプ2台を同室に持ち込み、浸入した海水の排出に努めるとともに、浸水箇所を調査しようとしているうち、19時ごろ補機駆動発電機が焼損して船内電源が喪失し、両排水ポンプが停止して排出不能となり、乗組員に対し、同室内の海水及び魚倉内の冷水をバケツでくみ出すよう指示した。
 A受審人は、船内電源が喪失して冷却海水ポンプなどの電動機駆動式の各ポンプが停止したのち、機関室の水位の上昇速度がやや緩やかになったことから、数日前にコンデンサ海水側の開放掃除を行ったことを思い出し、冷却海水ポンプの船底弁を閉弁しようとしたものの、同船底弁が主機左舷側架構と左舷側燃料油タンク間の約30センチと狭い同室床面の下方の船底に取り付けられており、真っ暗な同室内で、多量の燃料油などが水面に浮遊している水中に潜り、パイプレンチを使用して手探りで同船底弁を閉弁するのは無理と判断し、危険を感じて周辺海域で操業している僚船に救助を求めた。
 真賀丸は、機関室への海水の浸入が続き、翌20日18時25分北緯04度10分東経143度43.5分の地点において、多量の海水の浸入により船体が浮力を喪失して船尾側から沈没した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 沈没の結果、乗組員は、来援した僚船により救助された。

(本件発生に至る事由)
1 本件時、機関長が乗り組んでいなかったこと
2 コンデンサ海水側の開放掃除を終えた際、取り外したベンド管のホースバンドの締付け状態の確認が十分に行われなかったこと
3 操業中、機関室巡視が十分に行われていなかったこと
4 ビルジ高位警報装置の点検、整備が定期的に行われていなかったこと
5 本件時、浸水箇所の調査及び浸水防止措置が十分でなかったこと

(原因の考察)
 本件沈没は、A受審人が、コンデンサ海水側の開放掃除を終えた際、冷凍機装置が据え付けられていた箇所の振動が多かったこと、コンデンサに至るベンド管及びゴムホースなどに防振措置が十分に講じられていないこと、冷凍機装置の下方に主機駆動発電機が据え付けられていることなどを認識していたのであるから、ベンド管が抜け落ちて海水が機関室に浸入することのないよう、取り外したベンド管のホースバンドの締付け状態の確認を十分に行っていたならば多量の海水が同室に浸入することはなかったもので、同人が同確認を行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 また、A受審人が、機関員に対し、機関室巡視を十分に行ってビルジ量の異常の有無などを点検するよう指示し、また、ビルジ高位警報装置の点検、整備を定期的に行っていれば、早期に同室の異常の有無を検知することも、適切な浸水防止措置を講じることもできたものと認められることから、同巡視及び同装置の点検、整備がいずれも不十分であったことは、本件発生の原因となる。
 A受審人が、船舶職員法に規定されている機関長を乗り組ませていなかったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、平素、同人が機関長として乗り組んでいたこともあり、本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら、海難防止の観点から同法に従って有資格者を機関長として乗り組ませなければならない。
 A受審人が、本件時、浸水箇所の調査及び浸水防止措置がいずれも十分でなかったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、異常に気付いた時点では既に多量の海水が機関室に浸入していたうえ、さらに同室の水位の上昇が続き、船内電源が喪失した状況であったから、本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件沈没は、漁場に向け航行中、コンデンサ海水側の開放掃除を終えた際、コンデンサ冷却海水入口管に接続されたベンド管のホースバンドの締付け状態の確認が不十分で、同バンドが締め付けられず、船体振動などの影響を受けてベンド管が同入口管から抜け落ち、冷却海水ポンプからの海水が機関室に浸入したばかりか、同室巡視及びビルジ高位警報装置の点検、整備がいずれも不十分で、同ポンプからの海水が同室内に浸入し続け、船体が浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、コンデンサ海水側の開放掃除を終えた場合、冷凍機装置が据え付けられている箇所は振動が多かったうえ、ベンド管などに防振バンドが取り付けられていなかったのであるから、ベンド管がコンデンサ冷却海水入口管から抜け落ちることのないよう、同掃除終了後、ベンド管のホースバンドの締付け状態を十分に確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、冷却海水ポンプの運転を開始したとき、漏水が認められなかったので大丈夫と思い、ベンド管の同バンドの締付け状態を十分に確認しなかった職務上の過失により、同バンドの締付けが不足していることに気付かず、船体振動などの影響を受けてベンド管が同入口管から抜け落ちて多量の海水が機関室に浸入する事態を招き、船体が浮力を喪失し、沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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