(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月25日05時55分
石川県七尾湾三ケ口瀬戸通鼻沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船新栄丸 |
総トン数 |
2.6トン |
登録長 |
8.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
143キロワット |
3 事実の経過
新栄丸は、レーダーを装備しないFRP製漁船で、平成12年8月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、同人の妻を同乗させ、船首0.25メートル船尾0.90メートルの喫水をもって、なまこ漁の目的で、平成15年11月25日04時50分石川県能登島町無関の船だまりを発し、降雨の中、三ケ口瀬戸を経由する予定で、七尾湾和倉温泉沖合の漁場に向かった。
ところで、無関の船だまりから漁場までの航程は約6.5海里、三ケ口瀬戸までは約4海里で、同瀬戸は南北方向への長さが約1,000メートル幅が500メートルで、その中央部に能登島農道橋があり、三ケ口瀬戸をほぼ2分する同橋南側の猿島の存在により、猿島の西側の水路(以下「西水路」という。)及び東側の水路の幅はそれぞれ約200メートルで、同橋の橋桁には多数の橋梁灯が、猿島南方には猿島南方灯標が設置されていた。
A受審人は、三ケ口瀬戸を南下する場合、能登島農道橋の北方1海里のところから同橋の西端に向けて約700メートル進行したところで、通鼻護岸堤の約50メートル沖合を通過直後に、西水路中央部に向けることにしていた。
05時51分半A受審人は、能登中之島灯台から251度(真方位、以下同じ。)0.65海里の地点において、西水路を通航する予定で、船首目標とした能登島農道橋西端の橋梁灯に向く179度に針路を定め、13.5ノットの対地速力とし、手動操舵により、いつもと同じように進行したところ、雨滴が操舵室前面ガラス窓に吹き付けて見通しが悪くなり、左舷船首6度0.8海里の通鼻護岸堤が見えず、定めた針路が同護岸堤に距岸50メートルで、対地速力が13.5ノットでは、わずかな針路の偏向により、通鼻護岸堤の浅所に乗り揚げるおそれがあったが、いつもと同じように同護岸堤が見えてくるものと思い、減速したうえ、通鼻護岸堤から隔てた針路を選定することなく、続航した。
A受審人は、いつしか針路が左方に6度振れ、05時55分少し前船首方約100メートルに通鼻護岸堤の浅所が迫っていることに気付かず、操舵室前窓を開けて雨滴を拭き取って閉めたが、すぐに雨滴がついて見通しが悪くなり、ぼんやり見える多数の橋梁灯のどれを船首目標としていたのか判別できずに進行していたところ、05時55分能登中之島灯台から209度1.1海里の地点において、船首が173度を向き、原速力のまま、通鼻護岸堤の浅所に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力2の西風が吹き、潮侯は下げ潮の中央期であった。 乗揚の結果、左舷船首外板に破口を生じ、自力離礁できず、僚船の援助により引き下ろされ、最寄りの造船所に引きつけられたのち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、七尾湾能登島西端の三ケ口瀬戸付近において、雨の中を同瀬戸に向け進行する際、針路の選定が不適切で、通鼻護岸堤の浅所に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、降雨による視界不良時において、七尾湾能登島西端の三ケ口瀬戸に向けて進行する場合、平素の高速力及び通鼻に接航した針路では、わずかな針路の偏向により、通鼻護岸堤の浅所に著しく接近して乗り揚げるおそれがあったから、減速したうえ、通鼻から隔てた針路を選定すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、いつものとおりの針路、速力で航行し、近くなれば通鼻が見えてくるものと思い、減速したうえ、通鼻から隔てた針路を選定しなかった職務上の過失により、降雨によって前方の見通しが悪く、船首が偏向していることに気付かず、高速力で進行して乗揚を招き、左舷船首外板に破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。