(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月11日01時30分
南方諸島鳥島西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船東丸 |
総トン数 |
12トン |
登録長 |
14.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
120 |
3 事実の経過
東丸は、GPSプロッター及びレーダーを備え、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和50年3月一級小型船舶操縦士免許取得・平成16年7月一級小型船舶操縦士と特殊小型船舶操縦士の免許に更新)が1人で乗り組み、めだい樽流し漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成16年5月6日22時00分高知県甲浦(かんのうら)港を発し、南方諸島周辺の漁場に向かった。
A受審人は、越えて9日鳥島西北西方75海里の漁場で操業を始め、翌10日その南方30海里の漁場に移動して操業を続け、その後、東方に移動して15時30分鳥島西方10海里に至り、同島周辺の魚群探索を行った後、鳥島北西方沖合で漂泊して仮眠をとり、23時30分起床し、同探索の結果から同島西岸沿いに南下して鳥島南方1,300メートル付近の漁場に向かうこととした。
ところで、鳥島は、ほぼ円形をなし、周囲の海岸は北西部の一部を除き崩壊したがけで、岸に接して岩石が散在し、A受審人は、それまで何回も周辺で操業したり、錨泊することがあったので、同海岸の状況を良く知っていた。
11日01時00分A受審人は、鳥島硫黄山(394メートル)山頂(以下「山頂」という。)から333度(真方位、以下同じ。)3.2海里の地点を発進すると同時に、GPSプロッターにより針路を同島西端の初寝埼西方沖合200メートルに向く171度に定めて自動操舵とし、機関を半速力前進にかけ、折から西南西の強風により、2度ほど左方に圧流されながら6.0ノットの対地速力で進行した。
間もなく、A受審人は、予定の漁場が近いことから、操業準備に取り掛かることとし、船尾甲板上に赴き漁具に餌付けするなどの作業にあたって続航した。
01時27分A受審人は、山頂から284度1,800メートルの地点に達したとき、初寝埼付近の岩場が前方560メートルのところに存在し、その後、岩場に向かって接近する状況であったが、操業準備に気を奪われ、GPSプロッターを見るなり、レーダーを活用するなりして船位の確認を行わなかったので、そのことに気付かなかった。
こうして、A受審人は、操業準備に専念し、鳥島西岸の岩場に向首したまま進行中、01時30分山頂から266度1,650メートルの地点において、東丸は、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力6の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、月齢は21.4であった。
乗揚の結果、東丸は、船底外板に破口を生じて機関室に浸水し、A受審人は鳥島に上陸して避難したが、その後、荒波により船体が流失した。
(原因)
本件乗揚は、夜間、南方諸島鳥島沖合において、強い西南西風に圧流されながら鳥島西岸沿いに南下中、船位の確認が不十分で、同岸の岩場に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、南方諸島鳥島沖合において、強い西南西風が吹く状況下、めだい樽流し漁の漁場に向かって鳥島西岸沿いに南下する場合、同岸に圧流される状況であったから、GPSプロッターを見るなり、レーダーを活用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操業準備に気を奪われ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、折からの強風に圧流されながら鳥島西岸の岩場に向かって接近することに気付かないでこれに乗り揚げ、船底外板に破口を生じて機関室に浸水させ、荒波により船体を流失する事態を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。