(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月24日22時40分
瀬戸内海西部 山口県片島東岸
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船五号寿重丸 |
総トン数 |
198トン |
全長 |
47.78メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
3 事実の経過
五号寿重丸は、船尾船橋型鋼製油送船で、月間5航海に及ぶ岡山県水島港から長崎県大村湾近郊の航空自衛隊基地向け航空燃料の輸送に従事していたところ、A受審人ほか2人が乗り組み、ジェット燃料300キロリットルを載せ、船首2.40メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成16年5月24日15時20分水島港を発し、同航空自衛隊基地に向かった。
A受審人は、平素船長職を執るBと共に一等航海士として乗り組み、同人が船主会合等で下船する折には代わって船長として指揮を執っていた。今度も水島港での積荷役終了後に同社長の下船に伴い、その後船長として単独4時間3直制の船橋当直体制を維持して、自らは毎8時から0時までの間の当直を行う予定で発航した。
ところで、A受審人は、数日前から虫歯による歯痛を患っていたところ、治療を受けていなかったこともあって水島港出航後の夕食を済ませたころから激しい歯痛を催すようになり、激痛の余り救急箱に備え付けの鎮痛剤を使用しようとした。
ところが、A受審人は、同剤使用によって当直中に居眠り状態に陥ることのないよう、その服用にあたってはその注意書を確認して当直前の服用を避けるか或いは止む得ず服用する際には予定の当直を一時的に交替するなどして居眠り運航の防止措置を十分に取ることなく、同鎮痛剤が鎮痛剤のうちでも強い効能があるもので、その副作用として強い眠気を伴うものであることに気付かず、当直の約30分前に同剤2錠を服用した。
こうして、A受審人は、20時00分少し前安芸灘東部斎島付近で昇橋して単独で予定の船橋当直に就き、その後クダコ水道を経て伊予灘に向かった。22時18分半根ナシ礁灯標から096度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点で、針路を261度に定め、機関を全速力前進にかけたまま10.0ノットの速力で進行した。続いて同時29分少し過ぎ大石灯標から042度1.6海里の地点に達したところで、折しも左舷前方の反航船と左舷を対して航過してから伊予灘に向けることにして、いったん針路を240度に転じて自動操舵で続航した。その後船橋内に置いてあった運動器具のエアロバイクを跨ぐようにそのサドルに座った姿勢で当直を続けているうち、居眠り状態に陥ってしまった。その結果、同反航船とも替わったものの伊予灘に向け転針することに気付かず、片島に向首した同じ針路のまま進行し、22時40分大石灯標から300度1,000メートルの地点において、五号寿重丸は、同じ針路速力のまま片島東岸に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、五号寿重丸は、船首船底外板に破口を伴う凹損を生じ、のち修理された。
なお、その後居眠り運航の防止措置として、眠気を催した際には非番の当直者を起こすことが確認され、また船橋内に置いていたエアロバイクの撤去及び船橋内に居眠り防止装置が取り付けられた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、安芸灘北部からクダコ水道を経て伊予灘を西行する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、山口県片島東岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、安芸灘北部からクダコ水道を経て伊予灘を西行する際、単独船橋当直を前にして数日前から痛んでいた虫歯が激しい痛みを伴って鎮痛剤を使用する場合、同剤の服用によって当直中に居眠り状態に陥ることのないよう、その使用説明書を確認して当直前の服用を避けるか或いは止む得ず服用する際には予定の当直を一時的に交替するなどして居眠り運航の防止措置を十分に取るべき注意義務があった。しかし、同人は、鎮痛剤の使用にあたってその説明書を確認せず、当直前の服用を避けるか或いは止む得ず服用する際には予定の当直を一時的に交替するなどして居眠り運航の防止措置を十分に取らなかった職務上の過失により、当直30分前に救急箱にあった強い効能がある鎮痛剤を服用して単独当直に就き、当直中に居眠り状態に陥って片島東岸に向首したまま進行して、同島への乗揚を招き、船首船底外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。