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平成16年神審第63号
件名

貨物船第八豊栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年11月26日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野浩三、橋本 學、平野研一)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:第八豊栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第八豊栄丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)

損害
船首船底に破口

原因
居睡り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月28日01時20分
 長崎県平戸瀬戸
 (北緯33度16.9分 東経129度30.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第八豊栄丸
総トン数 499トン
全長 69.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能
 第八豊栄丸(以下「豊栄丸」という。)は、平成9年2月に進水した船尾船橋型貨物船兼砂利運搬船で、操舵室にはレーダー2台、ジャイロコンパス、自動操舵装置を備えていた。
 当時の喫水で、眼高は海面上約10.5メートルとなり、船橋前面から船首端まで54メートルであった。

3 事実の経過
 豊栄丸は、御所浦島において鉱滓1,600トンの揚げ荷を終え、空倉のまま、船首1.60メートル船尾3.05メートルの喫水をもって、平成15年7月27日17時10分同島を発し、苅田港に向かった。
 A受審人は、十分な休息のない連日の航海と荷役が続いていたことから、当直者に対して眠気を催したときには、休息中の乗組員を昇橋させるため、その旨報告するよう指示し、居眠り運航防止に努めていた。
 こうしてA受審人は、御所浦島の出航操船に引き続いて航海当直につき、21時50分大立神灯台から290度(真方位、以下同じ。)3.4海里の地点において、345度の針路、11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行していたとき、B受審人と当直を交替して自室に退き休息した。
 ところでB受審人は、7月26日13時55分苅田港を発してから御所浦島に翌27日08時40分に到着するまでの間、4時間と2時間の計6時間の航海当直を行い、この間休息を約12時間とり、御所浦島入港後、引き続き揚げ荷作業を行い、荷役監視及び係船索調整作業に当たっていた。同島を17時10分に出航して21時50分に当直に立つまでの4時間40分自室で休息しており、当直前の19時頃には眠ることにしていたが、自宅からの電話により睡眠を取れずにいたことと、連日の航海及び荷役作業などから、当直を交替したときには疲労を感じていた。
 翌28日00時38分B受審人は、牛ケ首灯台から229度1.4海里の地点に達し、針路を344度に定め、12.0ノットの速力とし、いすに腰掛けて、自動操舵により進行していたとき眠気を催したが、何とか我慢できると思い、その旨をA受審人に報告することなく、いつしか居眠りに陥った。
 01時08分B受審人は、沖ノ六ツ瀬灯浮標から260度0.6海里の平戸瀬戸に向ける転針予定地点に達したが、居眠りして2.2海里前方の野島に向かっていることに気付かず、豊栄丸は、01時20分青砂埼灯台から222度3.8海里の地点において、同針路、同速力のまま、野島南端の浅瀬に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮侯は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、船首船底に破口を生じ、自力離礁できず、引船の援助により離礁し、最寄りの造船所に引きつけられ、修理された。

(本件発生に至る事由)
1 B受審人は疲労気味であったこと
2 B受審人は当直前に睡眠がとれなかったこと
3 B受審人が当直中に眠気を催したことをA受審人に報告しなかったこと
4 B受審人が居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 A受審人は、自船の運航状態から乗組員が疲労気味であったことを承知しており、居眠り運航とならないよう、当直者に対して、眠気を催したときには報告するよう指示し、居眠り運航防止に努めていたから、同人の所為は本件発生の原因とならない。
 B受審人が船長の指示に従わず眠気を催した旨を報告しなかったことと、居眠りに陥ったこととは本件発生の原因となる。
 当直交替時、B受審人が睡眠不足であったこと及び当直前に睡眠が取れなかったことは、本件乗揚に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件乗揚は、平戸瀬戸南方沖合において、居眠り運航防止の措置が不十分で、船橋当直者が居眠りに陥り、浅瀬に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、平戸瀬戸南方沖合において、同瀬戸に向けて航行中、眠気を催した場合、その旨を速やかにA受審人に報告し、居眠り運航防止の措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、B受審人は、当直交替まで眠気を我慢できると思い、その旨を速やかにA受審人に報告し、居眠り運航防止の措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥ったまま進行して乗揚を招き、船首船底に破口を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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