(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月7日18時45分
千葉港千葉区第4区
2 船舶の要目
船種船名 |
瀬渡船第三鈴丸 |
登録長 |
8.37メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
95キロワット |
3 事実の経過
第三鈴丸(以下「鈴丸」という。)は、船体中央より少し後部に操舵室を有し、主として千葉港千葉区第4区において姉崎海岸近辺の埋立地護岸へ釣り客の瀬渡しを行う一層甲板型FRP製瀬渡船で、平成14年2月交付の四級小型船舶操縦士免許を有するA受審人ほか1人が乗り組み、釣り客9人を乗せ、船首0.45メートル船尾0.90メートルの喫水をもって、同16年3月7日16時00分同港椎津航路港を発し、東京電力姉崎発電所の排水路北東側護岸に向かい、袖ヶ浦東京ガスシーバース灯から真方位070度2.43海里の地点(以下「瀬渡し地点」という。)で瀬渡しを行った後、16時15分定係地に戻って待機した。
ところで、A受審人は、平素から銚子地方気象台に直接電話をして気象情報を入手しており、同日発航前に、同気象台から北西風が毎秒約10メートル波高が約1メートルになる旨の情報を得ていて、この程度なら瀬渡しに支障ないものと判断し、釣り客の迎えを21時ごろと予定していたが、瀬渡し地点付近の護岸が北西に面していたことから、北西風が吹くと同地点付近に波浪が立ち易く、風速の強まりに注意を払っていた。
A受審人は、北西風が次第に強まってきたので予定を早めて釣り客を迎えに行くこととし、釣り客の1人に携帯電話でその旨を知らせ、18時20分定係地を発して低速で瀬渡し地点に向かい、18時42分同地点に着いた。
ところが、当時付近海域は、波高約1メートルでどうにか釣り客を収容できる海面状態であったものの、時折それより高い波が押し寄せ、そのとき機関を中立にすると推進力がなくなって船体姿勢を制御することが困難となり、護岸に打ち寄せられるおそれがある状況であった。
A受審人は、東方に向首し、機関を前進にかけ船首突き出し部を護岸に押し付けて釣り客の収容を開始したところ、左舷船尾方からの波浪により徐々に船尾が右方に回って北東方を向首したが、機関を前進にかけたまま無難に釣り客を収容した。
18時45分少し前A受審人は、釣り客の収容を終え、離岸するため機関を一旦中立にしようとしたが、前方の護岸に気を取られ、波浪状況の確認を十分に行わなかったので、折から高波が接近していたことに気付かず、機関を前進にかけたまま高波が治まるのを待たずに中立とし、船体姿勢を制御することが困難となったとき、左舷正横から約2メートルの高波を受け、18時45分前示瀬渡し地点において、鈴丸は、護岸に圧流されて護岸下の捨石に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、千葉中央及び東葛飾に強風波浪注意報が発表されていた。
乗揚の結果、推進器に損傷を生じて航行不能に陥り、東京電力姉崎発電所の排水路で釣り客を乗せたまま錨泊して海上保安庁に救助を要請し、来援した巡視船によって定係地に引き付けられた。
(原因)
本件乗揚は、千葉港千葉区第4区の埋立地護岸において、強風で時折北西方から護岸に向かって高波が押し寄せる状況下、釣り客を収容する間前進にかけていた機関を離岸のため一旦中立にしようとする際、波浪状況の確認が不十分で、機関を前進にかけたまま高波が治まるのを待たず、高波により護岸に圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、千葉港千葉区第4区の埋立地護岸において、強風で時折北西方から護岸に向かって高波が押し寄せる状況下、釣り客を収容する間前進にかけていた機関を離岸のため一旦中立にしようとする場合、一時的に推進力がなくなるのだから、船体姿勢を制御することが困難となって護岸に圧流されないよう、波浪状況を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方の護岸に気を取られ、波浪状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、折から高波が接近していたことに気付かず、機関を中立としたとき左舷正横から高波を受け、護岸に圧流されて護岸下の捨石に乗り揚げ、推進器を損傷して航行不能に陥る事態を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。