(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月10日09時30分
北海道十勝港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
交通船第八翔洋丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
17.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,168キロワット |
3 事実の経過
第八翔洋丸(以下「翔洋丸」という。)は、平成14年8月に進水した、測深儀を装備していない2機2軸の鋼製引船兼作業船兼交通船で、A受審人(昭和57年2月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み、北海道広尾郡広尾町字野塚地区離岸堤(以下「離岸堤」という。)工事関係者1人を同乗させ、離岸堤写真撮影の目的で、船首1.04メートル船尾2.52メートルの喫水をもって、同16年3月10日08時28分北海道十勝港を発し、同港北方の離岸堤に向かった。
ところで、離岸堤は、距岸50メートル水深3メートルほどのところに陸岸と平行して施工中であり、離岸堤施工会社では1メートル単位の等深線が陸岸から水深8メートルのところまで記された、縮尺500分の1及び5,000分の1の各工事現場海域図面(以下「工事図面」という。)を使用しており、沖合から離岸堤に接近する船舶は、工事図面を準備して水深を精査するなど水路調査を十分に行う必要があった。また、離岸堤南方100メートル距岸80メートルほどのところに水深3.8メートルの浅所(以下「沖合浅所」という。)が存在し、同浅所には重量3キログラムの円柱形コンクリートブロック2個を錨代わりとしたボンデンを設置して作業船の航行の安全を図っていたが、同ボンデンは数日前の荒天により南方に50メートルほど移動していた。
A受審人は、作業台船を十勝港から北海道釧路港へ曳航するため十勝港に待機中、離岸堤南方延長線付近からの離岸堤写真撮影の依頼を受け、急遽、発航することとなったが、離岸堤付近への接近方法について、離岸堤の施工に携わった作業船船長よりボンデンを10メートルばかり離して沖合浅所を替わすよう助言を得たことから、同浅所を替わせば無難に離岸堤付近に接近できるものと思い、工事図面を準備して離岸堤付近の水深を精査するなど水路調査を十分に行うことなく、沖合浅所を示すボンデンが移動していることも知らないまま、同乗者に離岸堤沖合まで案内させることにして発航したものであった。
09時17分A受審人は、十勝港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から011.5度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点に達したとき、左舷前方に離岸堤を認め、針路を離岸堤に向く343度に定め、4.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により、進行した。
09時27分A受審人は、南防波堤灯台から006度3.3海里の地点に至って、左舷前方に沖合浅所を示すボンデンを認めたとき、同ボンデンを左舷10メートルばかりに航過して離岸堤の写真撮影地点に向くよう、針路を315度に転じ、2.0ノットの速力に減じて続航した。
こうして、A受審人は、水深が分からないまま離岸堤付近に接近中、翔洋丸は、09時30分原針路、原速力で、南防波堤灯台から005度3.4海里の浅所に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 その結果、翔洋丸は船尾船底部に凹損を生じたが、自力離礁して十勝港に入港し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、北海道十勝港において、同港北方沖合に施工中の離岸堤写真撮影のため同離岸堤付近に向け発航する際、水路調査が不十分で、離岸堤付近の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、北海道十勝港において、同港北方沖合に施工中の離岸堤写真撮影のため同離岸堤付近に向け発航する場合、詳細な水深が記された工事図面を準備して離岸堤付近の水深を精査するなど水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、離岸堤の施工に携わった作業船船長より離岸堤付近の沖合浅所を替わすよう助言を得たことから、同浅所を替わせば無難に離岸堤付近に接近できるものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、水深が分からないまま同地点に接近し、離岸堤付近の浅所に乗り揚げる事態を招き、翔洋丸の船尾船底部を凹損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。