(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月27日14時14分
長崎県蛎ノ浦島北西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船漁生丸 |
総トン数 |
3.91トン |
登録長 |
9.24メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
80キロワット |
3 事実の経過
漁生丸は、船体中央やや船尾寄りに船尾側が開放された操舵室を設け、舷側全周に高さ約30センチメートルのブルワークを巡らせた昭和51年4月に進水のFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、一本釣り漁業の目的で、船首0.25メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成15年11月27日06時00分長崎県蛎ノ浦島崎戸港の係留地を発し、同県松島北方の漁場に向かった。
A受審人(昭和51年4月四級小型船舶操縦士免許取得)は、06時20分ごろ漁場に至り、漂泊しながらたいの一本釣りを行ううち、上げ潮によって松島北方から御床島南西方まで流され、11時ごろ潮が変わって下げ潮になったのを機に、機関を使って漁場を移動し、同時20分片島南西方沖合に至って再び漂泊しながら釣りを行った。
その後、南に流されたA受審人は、14時06分半御床島灯台から047度(真方位、以下同じ。)2,450メートルの地点において、釣りを中断し、針路を020度に定め、機関を12.0ノットの全速力前進にかけて手動操舵で潮上り中、当日の16時ごろ人と会う約束をしていたことを思い出し、操業を切り上げて帰港することとした。
14時09分少し前A受審人は、御床島灯台から040度3,200メートルの地点において、減速のうえ左回頭して反転し、針路を200度に転じたところで、尿意を催して小用を足すこととしたが、まさか海中に転落することはあるまいと思い、クラッチを中立にするとともに操舵室側壁等を掴んで体を支え、他船の航走波等大きな波がこないか周囲を見張るなど、海中転落の防止措置をとることなく、機関を微速力前進としたまま4.0ノットの速力で進行しながら、操舵室後方の左舷側に立って小用を足していたところ、右舷方を通過した高速船の航走波を受けて船体が動揺し、14時10分御床島灯台から041度3,070メートルの地点において、身体のバランスを崩してブルワーク越しに海中に転落した。
漁生丸は、単独の操船者が海中に転落して無人となり、転落時の反動で船首が左方に振られたうえ潮流の影響が加わり、ゆっくり左転しながら蛎ノ浦島に向かって進行し、14時14分御床島灯台から048.5度3,200メートルの地点に当たる同島鶴埼の岸辺に090度に向首して乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、南東方向へ流れる潮流があった。
救命胴衣を着用していたA受審人は、漁生丸の跡を追って乗揚地点まで泳ぎ着き、船内に置いてあった携帯電話で息子に連絡をとった。
乗揚の結果、漁生丸は船底全面に擦過傷と舵に曲損をそれぞれ生じ、来援した僚船によって引き下ろされて係留地に曳航され、のち廃船処分された。
(原因)
本件乗揚は、長崎県蛎ノ浦島北西方海域において、海中転落の防止措置が不十分で、単独で操船していた船長が甲板上から海中に転落し、無人となったまま同島鶴埼の岸辺に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県蛎ノ浦島北西方海域において、単独で乗り組んで航行中、尿意を催して小用を足そうとする場合、海中に転落すると自船が無人となって付近の島岸に乗り揚げるおそれがあったから、クラッチを中立にするとともに操舵室側壁等を掴んで体を支え、他船の航走波等がこないか周囲を見張るなど、海中転落の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか海中に転落することはあるまいと思い、海中転落の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、小用中に航過した高速船の航走波を受け、船体の動揺に伴い、身体のバランスを崩して海中に転落し、無人となった漁生丸が蛎ノ浦島に向首進行して乗り揚げる事態を招き、同船の船底全面に擦過傷と舵に曲損をそれぞれ生じさせ、のち廃船するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。