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平成16年那審第28号
件名

漁船幸徳丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年10月8日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:幸徳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
推進器軸、推進器翼及び舵板に曲損、船首部船底外板に破口
乗組員1人が頭部裂創、同乗者1人が肋骨骨折及び左足関節骨折の負傷

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月30日20時10分
 沖縄県小浜島小浜港

2 船舶の要目
船種船名 漁船幸徳丸
総トン数 4.6トン
全長 12.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 404キロワット

3 事実の経過
(1)幸徳丸
 幸徳丸は、平成5年2月に進水した潜水器漁業などに従事する1層甲板型のFRP製漁船で、船首から順に船首甲板、前部甲板、船室兼操舵室及び船尾甲板を配していた。
 また、操舵室内前部中央部に舵輪を備え、その前面の棚上に磁気コンパスを置き、同コンパスの前に無線機を、その右舷側に主機のスロットルレバー及びクラッチレバーを、左舷側にGPSプロッタ及び魚群探知機をそれぞれ配していた。
(2)沖縄県小浜島小浜港
 小浜港は、八重山列島小浜島の東岸に位置しており、東方に向いて開口した幅100メートルの防波堤入口から、南西方に伸びる高さ約2.5メートル幅約10メートルの防波堤(南)と西方に伸びる防波堤(北)とが八の字形に築造されており、同入口の西南西方約240メートルのところに、陸岸から東南東方に向けて突出する岸壁の先端部があったものの、防波堤入口に光波標識がないうえに、岸壁などにも照明設備がなかった。
(3)本件発生に至る経緯
 幸徳丸は、昭和61年5月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか2人が乗り組み、友人3人を同乗させ、帰港の目的で、船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成15年11月30日20時09分小浜港を発し、沖縄県石垣港内にある登野城漁港に向かった。
 ところで、A受審人は、同日の日没時刻ごろに石垣島から小浜島に戻る知人及び同島を訪れたことがない友人たちを乗せて小浜港に入港したもので、同港の水路状況を承知していたことから、久しぶりの寄港であったものの、磁気コンパスで入航針路などを確認しないまま、防波堤入口沖から岸壁先端部の近くを航行して着岸予定の岸壁南面沖まで直進したのち、同南面の約30メートル沖で反転して小浜島島頂(高さ99メートル)から094度(真方位、以下同じ。)1,770メートルのところにある、防波堤(南)の北端(以下「防波堤(南)北端」という。)から269.5度305メートルの地点に出船左舷付けで係留したものであった。
 A受審人は、小浜港から出航するにあたり、闇夜で岸壁南面の係留地点から防波堤入口の所在を見定めることも、防波堤(南)などを視認することも困難であったが、折からの北風を左舷方から受けながら係留索を放し、主機を始動して航海灯を点灯したのち、左舷方を一瞥して岸壁までの距離を目測したところ、十分離れているように見えたことから、このまま岸壁先端部の近くを航過する針路で航行すれば、ほぼ入航時の進路線を逆行して防波堤入口に達することができるものと思い、GPSプロッタを作動させるなどして船位の確認を十分に行うことなく、機関を前進にかけた。
 こうして、A受審人は、20時09分わずか過ぎ入航時の進路線よりも岸壁の南面近くにあたる、防波堤(南)北端から267度280メートルの地点で、針路を航海灯の明かりでかすかに見える岸壁先端部のわずか右側に向かう098度に定め、スロットルレバーを調整して8.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 A受審人は、その後操縦席を取り囲むようにして立った友人たちとの雑談に気を取られ、依然として船位の確認を十分に行わなかったので、岸壁の南面近くをほぼこれに沿って続航していることも、防波堤(南)に向首していることにも気付かず、幸徳丸は、20時10分防波堤(南)北端から247度105メートルの地点において、原針路、原速力のまま、防波堤(南)沿いに敷設されている捨て石に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で、風力4の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は、乗組員及び同乗者ともども来援した船で岸壁に戻り、幸徳丸は、翌12月1日僚船によって引き下ろされたのち、登野城漁港に曳航された。
 乗揚の結果、推進器軸、推進器翼及び舵板に曲損を、船首部船底外板に破口を生じたものの、その後修理された。また、乗組員1人が頭部裂創を、同乗者1人が肋骨骨折及び左足関節骨折を負った。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、沖縄県小浜島小浜港を出航する際、船位の確認が不十分で、防波堤(南)に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、沖縄県小浜島小浜港を出航する場合、防波堤入口に光波標識がないうえに、岸壁などにも照明設備がなく、同入口の所在を見定めることも、防波堤(南)などを視認することも困難であったから、同防波堤などに向首進行することのないよう、GPSプロッタを作動させるなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、離岸したのち、左舷方を一瞥して岸壁までの距離を目測したところ、十分離れているように見えたことから、このまま岸壁先端部の近くを航過する針路で航行すれば、ほぼ入航時の進路線を逆行して防波堤入口に達することができるものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、岸壁の南面近くをほぼこれに沿って進行していることも、防波堤(南)に向首していることにも気付かず、同防波堤沿いに敷設されている捨て石への乗揚を招き、推進器軸、推進器翼及び船首部船底外板に破口を生じさせ、乗組員1人に頭部裂創を、同乗者1人に肋骨骨折及び左足関節骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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