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平成16年広審第56号
件名

油送船近竜丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年10月26日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志、高橋昭雄、黒田 均)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:近竜丸船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
プロペラ翼に擦過傷など

原因
避航措置不適切

主文

 本件乗揚は、避航措置が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月19日07時38分
 関門港小倉区
 (北緯33度53.8分 東経130度54.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船近竜丸
総トン数 2,947トン
全長 104.48メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット
(2)設備及び性能等
 近竜丸は、平成6年9月に進水した近海区域を航行区域とする船尾船橋型油送船で、バウスラスターを有し、船橋楼前端が船首端から約78メートルのところにあり、船首楼後方に1番から5番までの貨物油倉が設けられていた。 船橋甲板は、満載喫水線からの高さが約8メートルで、同甲板上に幅約7メートルの操舵室が設けられており、レーダー2台、GPSプロッター、コースレコーダー及びエンジンロガーが備えられていた。
 近竜丸は、海上公試運転成績書によれば、最大速力が主機回転数毎分217において14.86ノット、最短停止時間及び距離は4分48秒及び1,286メートル、左旋回の横距及び縦距が355メートル及び322メートル並びに右旋回の横距及び縦距が392メートル及び333メートルであった。

3 事実の経過
 近竜丸は、A受審人ほか10人が乗り組み、ガソリン、灯油及び軽油合計5,170キロリットルを積載し、船首5.60メートル船尾6.65メートルの喫水で、平成15年11月18日16時20分香川県坂出港を発し、翌19日04時05分部埼灯台南東方沖合で錨泊したのち、06時20分抜錨して関門港小倉区砂津泊地に向かった。
 A受審人は、二等機関士を主機の操作に、甲板手を手動操舵にそれぞれ当たらせて関門航路を西航し、07時29分大瀬戸第2号導灯(前灯)(以下「第2号前灯」という。)から002度(真方位、以下同じ。)1,350メートルの地点で、針路を砂津航路に向く231度に定め、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 07時31分A受審人は、第2号前灯から332度1,050メートルの地点に達したとき、関門航路を南下する反航船を認めて針路を205度に転じ、同船が船尾を替わったのちに減速し、引船仁徳の引索を左舷船尾にとった。
 07時34分A受審人は、関門航路第22号灯浮標(以下「第22号灯浮標」という。)の北方250メートルにあたる、第2号前灯から285度850メートルの地点で、針路を左舷標識である砂津航路第1号灯浮標(以下「第1号灯浮標」という。)の右側50メートルに向首する250度に転じ、機関を微速力前進にかけて6.0ノットの速力で入航した。
 転針したのちA受審人は、左舷前方の高浜船だまりから自船の前路に向けて出航する砂利運搬船を認めて避航することとしたが、第1号灯浮標の左側至近なら通航できるものと思い、引船を使用して行きあしを減じて出航船の航過を待つなどして避航することなく、07時36分第2号前灯から275度1,100メートルの地点に達したとき、同船を避航するため機関を中立として針路を左に転じ、同灯浮標左側の浅瀬に向けて続航した。
 07時37分A受審人は、出航船が船首方を替わったので機関を微速力前進とし、第1号灯浮標の左側至近に並航した直後、07時38分第2号前灯から266度1,450メートルの地点において、近竜丸は、238度に向首し、5.0ノットの速力で前示浅瀬に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、潮流はほとんどなかった。
 乗揚の結果、プロペラ翼に擦過傷などを生じたが、上げ潮を待って救援船により引き下ろされた。

(本件に至る事由)
1 A受審人が、他船を避航するために左転したこと
2 A受審人が、他船を避航するために船尾にとっていた引船を使用して行きあしを減じなかったこと

(原因の考察)
 本件乗揚は、関門航路の左方に寄った状況下で砂津航路に向けて入航中、左舷前方の高浜船だまりからの出航船を避航するため転針して浅瀬に乗り揚げたものである。
 A受審人は、関門航路を西航中、南下する反航船を認めて針路を左に転じて同航路の左方に寄った状況下で、左舷標識である第1号灯浮標の右側に向首する針路として砂津航路に向けて入航中、左舷前方の高浜船だまりからの出航船を認めて避航するにあたり、左舷側には浅瀬が存在していたうえ、右転すると南下船に接近することとなるから、船尾にとっていた引船を使用して行きあしを減じて出航船の航過を待つなど避航措置を適切にとる必要があった。
 したがって、A受審人が、引船を使用して行きあしを減じなかったこと及び左転したことは、いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗揚は、関門航路から砂津航路に向けて入航中、他船を避航する際、避航措置が不適切で、浅瀬に向けて転針したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、関門航路から砂津航路に向かうため関門航路の左方に寄った状況下で、第1号灯浮標の右側に向首する針路で入航中、左舷前方の高浜船だまりからの出航船を避航する場合、左舷側には浅瀬が存在していたうえ、右転すると南下船に接近することとなるから、船尾にとっていた引船を使用して行きあしを減じて出航船の航過を待つなど避航措置を適切にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同灯浮標の左側至近なら通航できるものと思い、船尾にとっていた引船を使用して行きあしを減じて出航船の航過を待つなど避航措置を適切にとらなかった職務上の過失により、同船を避航しようとして第1号灯浮標左側の浅瀬に向けて転針し、同浅瀬への乗揚を招き、プロペラ翼擦過傷などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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