(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年12月11日14時30分
高知県南西岸沖合
(北緯32度45.0分 東経132度37.3分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船吉福善丸 |
総トン数 |
374トン |
全長 |
61.14メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
吉福善丸は、平成8年に進水した1機1軸の固定ピッチプロペラを装備する船尾船橋型の鋼製貨物船で、砕石や砂を主要貨物として瀬戸内の蒲刈、今治、大阪で積載、和歌山県の田辺港で揚荷をすることを常態とし、大分県津久見港で積荷をするのは、年に2ないし3回程度であった。
吉福善丸は、航行区域を限定沿海区域とし、乗組員の構成は、A受審人のほか五級海技士(航海)の海技免状を受有する一等航海士と機関長の3人からなっており、蒲刈・今治と田辺港間の10時間程度の航海では、船橋当直をA受審人と一等航海士がそれぞれ約5時間ずつ分担し、本件航海のような少し長い航海の時には、機関長を加えた輪番制とすることもあった。
3 事実の経過
吉福善丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、石灰砕石1,100トンを搭載し、船首3.4メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、平成15年12月11日09時55分津久見港を発し、千葉県館山港に向かった。
A受審人は、13時30分鵜来島灯台から324度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点で昇橋し、一等航海士から船橋当直を引き継いで単独で当直に当たり、機関を全速力前進にかけて針路を121度に定め、風潮流によって2度右方に圧流されながら8.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
当直を引き継いでまもなく、A受審人は、やや眠気を感じたので、船橋内を動き回るなどしたのち、13時45分ごろから操舵スタンド前に置かれたいすに座って見張りに当たっていたところ、再び眠気を感じるようになったが、まさか居眠りすることはないだろうと思い、いすから立ち上がって外気にあたるなど居眠り運航の防止措置をとらず、やがて居眠りに陥った。
A受審人は、居眠りを続け、転針しないままムロ碆(ムロバエ)に向かって続航し、14時30分吉福善丸は柏島灯台から178度1.1海里の地点において、同碆に原針路、原速力のまま、乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力3の北寄りの風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、曳船を手配して離礁を試みたが離礁せず、翌12日自然に離礁した。
乗揚の結果、船首下部外板に破口をともなう凹傷などを生じて浸水したが、のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が、立ち上がって外気にあたるなどしなかったこと
2 A受審人が、単独で船橋当直中、居眠りに陥ったこと
(原因の考察)
本件乗揚は、高知県南西岸沖合を南下中、単独で船橋当直に当たっていた当直者が、居眠りに陥り、浅所に向かって進行したことによるものである。
A受審人が、いすに座ったままで、立ち上がって外気にあたるなどして眠気を払拭する努力をせず、居眠りに陥ったことは、本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件乗揚は、高知県南西岸沖合を南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、船橋当直者が、居眠りに陥り、浅所に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、高知県南西岸沖合を南下中、単独で船橋当直中、眠気を催した場合、居眠り運航にならないよう、いすから立ち上がって外気にあたるなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはないだろうと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、浅所に向けて進行して乗揚を招き、船首下部外板に破口をともなう凹傷などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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