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平成16年那審第23号
件名

引船第八 八千代丸引船列灯標衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月7日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:第八 八千代丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
台船一号の左舷側中央部から船尾にわたる外板に擦過傷
灯標の踊り場に曲損

原因
針路選定不適切

裁決主文

 本件灯標衝突は、やや強い風が吹く状況下、灯標から十分に離す針路を選定しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月4日07時30分
 沖縄県竹富島南東岸沖

2 船舶の要目
船種船名 引船第八 八千代丸 台船平良土建一号
総トン数 18トン 約871トン
登録長 11.90メートル 45.73メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 661キロワット  

3 事実の経過
(1)第八 八千代丸
 第八 八千代丸(以下「八千代丸」という。)は、航行区域を沿海区域と定め、最大とう載人員6人の2機2軸を備えた鋼製引船で、上甲板上の船首側から順に前部甲板、操舵室、機関室及び船尾甲板を配し、機関室の上に曳航ウインチを置いていた。
 操舵室には、前部中央に舵輪を備え、その前面の棚上に磁気コンパスを置き、同コンパスの右舷側に主機スロットルレバー及びクラッチレバーを、左舷側にGPSプロッター及びレーダーを配していた。また、操舵室の船尾側側壁にもガラス窓を設けていたため、操舵に当たりながら台船などの曳航状況を確認することができるようになっていた。
(2)本件発生に至る経緯
 八千代丸は、A受審人が1人で乗り組み、船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、ダンプカー12台に分散させたアスファルト100トンを積載し、作業員2人及び運転手3人を乗せ、船首尾とも1.0メートルの等喫水となった台船平良土建一号(以下「台船一号」という。)の船首部左右舷からそれぞれ出した長さ約16メートルの各索の先端と、八千代丸の船尾から出した長さ約23メートルの曳航索とを連結させて全長約95メートルの引船列(以下「八千代丸引船列」という。)とし、平成16年3月4日06時40分沖縄県石垣島の石垣港を発し、同県黒島の黒島港に向かった。
 ところで、石垣港から黒島港に至る海域には、干出さんご礁及び洗岩など多数の険礁が散在するため、沖縄県竹富島南東岸沖に竹富南航路が、同島南岸沖から黒島北岸沖を経由して同県西表島の仲間港に至る水域に大原航路がそれぞれ設けられていた。この竹富南航路は、幅60メートル長さ約2,500メートルの狭い水路で、その北東側入口には竹富島南水路第1号灯標(以下、灯標の呼称については「竹富島」を略す。)及び同第2号灯標が、中間地点付近には右舷標識の南水路第4号灯標が、そして南西側出口には南水路第5号灯標及び同第6号灯標がそれぞれ敷設されていた。
 また、A受審人は、八千代丸引船列として石垣港から黒島港に向かうのは3回目であったが、台船一号の曳航に先立ち、八千代丸を単独で航行させて水路調査を行ったところ、竹富南航路南西側出口の約200メートル手前の同航路左側端に洗岩が存在していることを知ったため、同洗岩から距離をおくためにその手前約70メートルの地点に差し掛かったところで、水深及び水域ともに余裕のある南水路第6号灯標の右側に向けて転針することとした。そして、同受審人は、八千代丸を南水路第6号灯標から約20メートル離して航行すれば、台船一号が同灯標から約10メートルの距離を保って航過することができるものと考え、GPSプロッターに竹富南航路及び大原航路におけるそれぞれの転針地点を入力し、各転針地点を結ぶ進路線を同プロッターの画面に表示させていた。
 A受審人は、07時21分少し過ぎ南水路第4号灯標付近の竹富南航路内にあたる、南水路第5号灯標から054度(真方位、以下同じ。)1,330メートルの地点で、手動操舵のまま、針路を南水路第5号及び同第6号両灯標の中間付近に向かう235度に定め、機関を全速力前進にかけたところ、折からの風を右舷斜め後方から受ける態勢となって5.0ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、07時28分少し過ぎ前示進路線に沿って南水路第5号灯標から048.5度270メートルの地点に達したとき、同進路線に従って南水路第6号灯標の右側に向かう247度に転じたため、右舷正横後約20度の方向からやや強い風を受けながら同第6号灯標の風上側を航行する状況となったことを知ったが、それまで台船一号が風潮流に圧流された様子もなかったうえに、さほど大きな転針でもなかったことから、そのままの針路でも同台船が同灯標に著しく接近することはないものと思い、南水路第6号灯標から十分に離す針路を選定しないまま続航した。
 こうしてA受審人は、07時29分半南水路第6号灯標の風上側を約20メートル離して航過したのち、台船一号の曳航状況を確かめようと振り返ったところ、思いのほか同台船が風に圧流され、その船首部左舷側が同灯標の近くを航過したように見えたものの、間もなく南水路第6号灯標が台船の陰に隠れたため、その後の状況が分からないまま同じ針路、速力で進行した。
 このため台船一号は、折からの風に圧流され、07時30分南水路第5号灯標から314度60メートルの地点において、その左舷側中央部が南水路第6号灯標の下方に設けられていた環状の踊り場に衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で付近には北東方に流れる微弱な潮があった。
 衝突の結果、台船一号の左舷側の中央部から船尾にわたる外板に擦過傷を、南水路第6号灯標の踊り場に曲損をそれぞれ生じたものの、その後同踊り場は修理された。
 A受審人は、台船一号に乗っていた作業員などから衝突音などの報告がなかったので、そのまま黒島港に向けて航行を続け、その後石垣港に戻って再度黒島港に向けて航行中、巡視艇から同灯標との衝突を知らされた。

(原因)
 本件灯標衝突は、沖縄県竹富島南東岸沖において、やや強い風が吹く状況下、南水路第6号灯標の風上側を航行する際、同灯標から十分に離す針路を選定しなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県竹富島南東岸沖において、やや強い風が吹く状況下、南水路第6号灯標の風上側を航行する場合、台船一号が同灯標に著しく接近することのないよう、同灯標から十分に離す針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、南水路第6号灯標の風上側を航行する針路に転じるまで、台船一号が風潮流に圧流された様子もなかったうえに、さほど大きな転針でもなかったことから、そのままの針路でも同台船が同灯標に著しく接近することはないものと思い、南水路第6号灯標から十分に離す針路を選定しなかった職務上の過失により、折からの風に圧流された台船一号が同灯標に衝突し、同台船の左舷側の中央部から船尾にわたる外板に擦過傷を、南水路第6号灯標の下方に設けられていた環状の踊り場に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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