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平成16年門審第107号
件名

漁船第118ひびきモーターボート光進丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:第118ひびき船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:光進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第118ひびき・・・船首部に塗装剥離
光進丸・・・右舷船首外板に破口

原因
第118ひびき・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
光進丸・・・注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、第118ひびきが、見張り不十分で、シーアンカーを投入して漂泊中の光進丸を避けなかったことによって発生したが、光進丸が、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月6日07時50分
 山口県小串漁港西南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第118ひびき モーターボート光進丸
総トン数 9.7トン  
全長 17.55メートル  
登録長 14.26メートル 6.64メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 301キロワット 99キロワット

3 事実の経過
 第118ひびき(以下「ひびき」という。)は、県知事が期間、海域、尾数及び従事者個人名を定めて発給する特別採捕許可証に基づき、毎年5月から6月にかけてぶり養殖漁業の種苗であるモジャコの採捕に従事するFRP製漁船で、平成14年4月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか2人が乗り組み、すくい網漁の目的で、船首0.35メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、同16年6月6日07時40分山口県涌田漁港を発し、同県特牛港西方沖合約4海里の漁場に向かった。
 ところで、ひびきは、船体中央部に操舵室があり、同室に舵輪、レーダー、GPSプロッタ、魚群探知機などを装備し、機関を全速力前進にかけたときの対水速力が約15ノットで、同速力が12ノットを超えると船首が浮上し、操舵室の右舷側に設けられた椅子に腰を掛けて前方を見ると、正船首を挟んで約20度の範囲に水平線が見えなくなる死角(以下「船首死角」という。)が生じる状況であった。
 A受審人は、C組合に就職して以来、総トン数7トンのモジャコ採捕漁船に乗船し、平成16年5月21日の特別採捕の解禁日からはひびきに船長として初めて乗船することになった。同受審人は、出漁後、同船が増速に伴う船首浮上によって船首死角が生じることを知り、レーダーを活用するとともに、船首を左右に振るとか、甲板員を船首に立たせるなどして同死角を補う見張りを行っていた。
 こうして、A受審人は、発航後、自ら単独の船橋当直に就いてレーダーをスタンバイ状態とし、いずれも小型船舶操縦士免許を受有する甲板員2人を船首甲板でモジャコ採捕漁具の準備に当たらせ、涌田漁港の港外に設置されたぶり養殖筏の外側を大回りしたのち、07時46分小串港南防波堤灯台(以下「小串灯台」という。)から221度2.50海里の地点で、針路を346度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操舵室の椅子に腰を掛け、船首死角が生じた状態で、手動操舵によって進行した。
 07時47分半A受審人は、小串灯台から228度2.30海里の地点に至り、山口県真埼を右舷正横に見るようになったとき、船首死角外の左舷船首28度1,100メートルのところに、漂泊中の光進丸を視認することができる状況であったが、右舷側の真埼を見てから船首方に顔を戻したところ、同死角からわずか右に外れた右舷船首方約900メートルのところに数隻の小型漁船を認めたことから、この漁船群から離れて航行することとして左舵5度を取り、光進丸に気付かないまま、ゆっくり回頭しながら続航した。
 07時48分A受審人は、小串灯台から231度2.28海里の地点に達し、針路を316度としたとき、光進丸が正船首方900メートルとなって船首死角内に入り、そのまま進行すると、同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する状況になったが、右舷船首方の前示漁船群との航過距離を離すことに気を取られ、船首を左右に振るなり、甲板員を船首方の見張りに当たらせるなりして船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、同じ針路、速力のまま進行した。
 07時50分わずか前A受審人は、船首死角からわずか左に外れた左舷船首間近に光進丸の白色の船体を初めて認め、急いで右舵一杯としたが間に合わず、07時50分小串灯台から243度2.38海里の地点において、ひびきは、原針路、原速力のまま、その船首が、光進丸の右舷船首部に後方から82度の角度で衝突して同船を乗り切った。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。 また、光進丸は、山口県のDマリーナに所属し、専ら魚釣りに使用されるFRP製プレジャーモーターボートで、昭和50年5月に四級小型船舶操縦士の免許を取得し、平成15年11月交付の小型船舶操縦免許証(5トン限定二級、特殊、特定)を受有するB受審人が1人で乗り組み、同マリーナ主催のキス釣り大会に参加する目的で、船首0.50メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同16年6月6日06時30分同マリーナを発し、小串漁港西南西方沖合の釣場に向かった。
 ところで、光進丸は、船体前部に後方が開放された操舵室があり、同室に舵輪、船外機始動スイッチ、電気ホーン、GPSプロッタ付魚群探知機などが装備されていた。
 06時57分B受審人は、前示衝突地点に至り、船首を北東に向けて機関を止め、船外機をチルトアップせずに船首から直径3メートルのパラシュート型シーアンカーを投入し、錨索を15メートル繰り出して同アンカー取込ロープとともに船首クリートに係止して漂泊を開始し、機関始動キーを船外機始動スイッチに差し込んだまま、船尾右舷側に置いた椅子に船首方を向いて腰を掛け、両舷正横方向に各1本の竿を出して釣りを始めた。
 07時47分半B受審人は、キスを5尾ほど釣り上げ、船首が038度に向いて漂泊しているとき、右舷正横後10度1,100メートルのところに、北上中のひびきを初めて認め、その動静を監視しながら釣りを続けた。
 07時時48分B受審人は、ゆっくり左転していたひびきを右舷正横後8度900メートルのところに認めるようになったとき、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったが、自船がシーアンカーを投入して漂泊中であるから、航行中のひびきが避けてくれるものと思い、直ちに操舵室に移動し、同船に対して電気ホーンにより避航を促すための注意喚起信号を行うことなく、その後更に接近したとき、錨索と取込ロープを解放したのち、機関を始動して移動するなど、同船との衝突を避けるための措置をとることもなく、同じ姿勢のまま釣りを続けた。
 07時50分少し前B受審人は、ひびきが、避航の気配を見せずに同方位100メートルに接近したとき、衝突の危険を感じ、立ち上がって両手を振りながら大声で叫んだが、効なく、光進丸は、船首が038度を向いているとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ひびきは、船首部に塗装剥離を生じただけで修理は行われず、光進丸は、右舷船首外板に破口を生じて浸水したが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、山口県小串漁港西南西方沖合において、漁場に向けて航行中のひびきが、船首死角を補う見張りが不十分で、前路でシーアンカーを投入して漂泊中の光進丸を避けなかったことによって発生したが、光進丸が、避航を促すための注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県小串漁港西南西方沖合において、12ノット以上の速力で漁場に向けて航行する場合、船首浮上によって船首死角が生じることを知っていたのであるから、前路で漂泊中の他船を見落とさないよう、船首を左右に振るなり、甲板員を船首方の見張りに当たらせるなりして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、右舷船首方に認めた小型漁船群との航過距離を離すことに気を取られ、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、光進丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、ひびきの船首部に塗装剥離を、光進丸の右舷船首外板に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、山口県小串漁港西南西方沖合において、シーアンカーを投入して漂泊中、ひびきが衝突のおそれのある態勢で自船に向首接近することを知った場合、直ちに同船に対して電気ホーンにより避航を促すための注意喚起信号を行い、その後更に接近したときに、錨索と取込ロープを解放したのち、機関を始動して移動するなど、同船との衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、自船がシーアンカーを投入して漂泊中であるから、航行中のひびきが避けてくれるものと思い、同船に対して避航を促すための注意喚起信号を行わず、その後更に接近したときに、同船との衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、避航の気配を見せないまま接近したひびきとの衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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