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平成16年門審第84号
件名

瀬渡船長伸丸漁船第八常栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治、清重隆彦、寺戸和夫)

理事官
半間俊士

受審人
A 職名:長伸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
B
受審人
C 職名:第八常栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
D

損害
長伸丸・・・船首部船底に擦過傷
第八常栄丸・・・右舷後部に小破損、船外機に濡損等、船長が左耳前部から外耳道にかけての挫創などで20日間の入院加療を要する負傷

原因
長伸丸・・・見張り不十分、船員の常務不遵守(衝突の危険を生じさせたこと)(主因)
第八常栄丸・・・動静監視不十分、音響信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、長伸丸が、見張り不十分で、第八常栄丸に対して衝突の危険を生じさせたことによって発生したが、第八常栄丸が、動静監視不十分で、警告を意味する音響信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月12日16時55分
 大分県南海部郡沿岸
 (北緯32度55.8分 東経132度03.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 瀬渡船長伸丸 漁船第八常栄丸
総トン数 9.7トン 0.7トン
全長 16.50メートル  
登録長   5.27メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 404キロワット  
漁船法馬力数   30
(2)設備及び性能等
ア 長伸丸
 長伸丸は、平成12年10月に進水した一層甲板型FRP製小型遊漁兼用船で、大分県南海部郡沿岸において、主として釣客の瀬渡業務に従事していた。同船は、船体ほぼ中央部に操舵室を備え、旅客定員が12人で、釣場では船首部を岩場などに押し付けて接岸し、釣客の乗降作業を行っていた。
 操舵室は、右舷側に操縦席、操舵装置や機関操縦レバーが設置されており、A受審人が、操舵室で操船するに際して、周囲の見張りを妨げる構造物や同室のガラスの汚れはなく、また、船尾にフラップを設けて航走時の船首浮上を抑制する構造で、船首死角を生じることはなかった。
イ 第八常栄丸
 第八常栄丸(以下「常栄丸」という。)は、昭和60年9月に進水した和船型FRP製漁船で、船尾中央凹部に船外機を設置し、操船者が同機の操作レバーに、直接手を添えて操舵や機関操縦を行う構造で、航海計器類は何も装備しておらず、見張りを妨げる構造物などは何もなかった。

3 事実の経過
 長伸丸は、A受審人が1人で乗り組み、瀬渡した釣客10人を収容する目的で、船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成16年1月12日16時30分大分県小浦漁港を発し、同漁港東方の瀬渡地点に向かった。
 A受審人は、最初に潮吹鼻で4人を収容した後、16時49分次のワニ3と称する瀬渡地点に向かい、同時52分沖ノ島三角点(138)(以下「三角点」という。)から358.5度(真方位、以下同じ。)1,760メートルの地点で、機関を微速力前進にかけた状態で船首部を岩場に押し付けて船首側から、釣客の収容を開始した。
 A受審人は、ワニ3で新たに釣客4人を収容したのち、その南側に設置してある定置網を避けて、次の瀬渡地点に向かう目的で、操縦席に腰を掛けた姿勢で操船に当たり、16時54分機関を後進にかけて右舵をとって離岩して後退を始め、次いで同時54分半ごろ南西方を向首して機関を前進にかけて左舵をとったとき、左舷横方向150メートルばかりのところに南西方に向かって無難に航過する態勢の常栄丸が存在したが、船首方にある定置網が気になって、進行予定の左舷方の見張りを行わなかったので、同船に気付かず、回頭を続けた。
 こうして、A受審人は、16時54分40秒三角点から003度1,690メートルの地点で、針路を125度に定め、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行したとき、左舷船首30度130メートルとなった常栄丸に対して衝突の危険を生じさせる状況となったが、定針して右舷側に見るようになった定置網の存在が気になって、左舷船首方の見張りを行わなかったので、このことに気付かず、減速するなどして同船との衝突を避けるための措置をとることなく続航し、同時55分わずか前釣客の叫び声を聞いて同船の接近を知り、急ぎ機関停止、続いて後進をかけたが及ばず、16時55分三角点から006.5度1,630メートルの地点で、長伸丸は、原針路、原速力で、その船首部が常栄丸の右舷後部に後方から82度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、常栄丸は、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.35メートル船尾0.28メートルの喫水をもって、同日15時10分大分県間越漁港を発し、同漁港東方の漁場に向かった。
 C受審人は、適宜、操業を行いながら潮吹鼻西方の漁場に至って、同漁場で操業を行い、あおりいか2はいを漁獲した後、漁場を横島西方に移すため、16時52分三角点から012度2,190メートルの地点で針路を207度に定め、6.3ノットの速力で、右舷船尾に腰を掛けた姿勢で進行した。
 16時53分C受審人は、三角点から010.5度2,000メートルの地点に達したとき、右舷船首37度450メートルばかりのところに船首部を岩場に付けている長伸丸を初認し、同時54分半ごろ右舷横方向に離岩した同船を認めて続航した。
 その後、C受審人は、長伸丸は後方に替わるだろうと思い、同船の動静監視を行わず、前方を注視していたので、16時54分40秒右舷船首68度130メートルのところで、同船が南東方に針路を定めて前進を開始したとき、自船に対し衝突の危険を生じさせたが、このことに気付かず、長伸丸に対して警告を意味する有効な音響による信号を行わず、減速するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
 こうして、常栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、長伸丸は、船首部船底に擦過傷を生じ、常栄丸は、右舷後部に小破損、船外機に濡損等を生じ、C受審人が左耳前部から外耳道にかけての挫創などで20日間の入院加療を要する傷を負った。

(航法の適用)
 本件は、大分県南海部郡沿岸において、航行中の長伸丸と常栄丸が、衝突したものであり、同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないので、一般法である海上衝突予防法によって律する。
 長伸丸は、衝突20秒前に、無難に航過する態勢の常栄丸に対して衝突態勢を創出したものであり、同態勢出現から衝突時までの時間間隔が短いことから、海上衝突予防法上の定型航法を適用する余地はない。よって、同法第38条及び第39条の船員の常務で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 長伸丸
(1)A受審人が離岩操船中、常栄丸を視認しなかったこと
(2)A受審人が常栄丸に対し衝突の危険を生じさせたこと
(3)A受審人が常栄丸との衝突を避けるための措置をとらなかったこと
2 常栄丸
(1)C受審人が長伸丸に対する動静監視を行わなかったこと
(2)C受審人が長伸丸に対し警告を意味する有効な音響による信号を行わなかったこと
(3)C受審人が衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は、長伸丸が、無難に航過する態勢の常栄丸に対し、同船の存在に気付かず、同船に向けて、衝突の危険を生じさせた結果、衝突したものであり、A受審人が、進行方向の見張りを十分に行っていなかったこと、同船に対し衝突の危険を生じさせたことは、本件発生の原因となる。
 一方、常栄丸は、操縦性能の優れた小型船であり、衝突前の20秒間に長伸丸を認め、衝突の危険を知って、減速するなどの衝突を避けるための措置をとっていれば、衝突回避が可能であり、C受審人が、衝突前、一旦は視認した長伸丸から目を離し、同船が衝突の危険を生じさせたことに気付かなかったために、同回避措置がとられなかったと認められる。したがって、同人が同船に対する動静監視を十分に行わなかったこと、衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。また、仮に、同人が20秒間の早い時期に前示の状況を認め、音響信号により警告ができたならば、A受審人が常栄丸の存在に気付いて同船を避航できたと認められる。ところが、同人は、海上衝突予防法により、汽笛を備えない場合は、有効な音響による信号を行うことができる他の手段を講じておかなければならないと規定されているにもかかわらず、船内にその手段を講ぜず、また、これを講じることができなかった特段の理由はない。したがって、C受審人が、長伸丸に対して警告を意味する有効な音響による信号を行わなかったことも本件発生の原因となる。
 信号装置の装備の重要性を思い起こし、その励行を厳守すべきである。
 A受審人が、常栄丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことは、同船に対して衝突の危険を生じさせなければ、本件は発生しなかったと認められるから、原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件衝突は、大分県南海部郡沿岸において、瀬渡地点を離岩発進中の長伸丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の常栄丸に対して衝突の危険を生じさせたことによって発生したが、常栄丸が、長伸丸に対する動静監視不十分で、同船に対して警告を意味する有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、大分県南海部郡沿岸において、瀬渡地点を離岩発進する場合、無難に航過する態勢の常栄丸に衝突の危険を生じさせないよう、進行方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、定置網の存在が気になって、進行方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船に気付かず、同船に対して衝突の危険を生じさせたまま進行して衝突を招き、自船の船首部船底に擦過傷を、常栄丸の右舷後部に小破損及び船外機に濡損等をそれぞれ生じさせ、C受審人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、大分県南海部郡沿岸において、漁場移動中、右舷横方向に離岩中の長伸丸を認めた場合、同船との衝突の有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同船が、後方に替わるだろうと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が自船に対して衝突の危険を生じさせたことに気付かず、警告を意味する有効な音響による信号を行わず、減速するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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