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平成16年門審第102号
件名

油送船ひびき丸貨物船シャン シュー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月14日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、清重隆彦、上田英夫)

理事官
島 友二郎

受審人
A 職名:ひびき丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
ひびき丸・・・プロペラ翼、プロペラ軸、船体後部左舷側外板及び舵板に各曲損、逆転機破損など
シャン シュー・・・船首部に擦過傷

原因
ひびき丸・・・港則法の航法(動作避航)不遵守(主因)
シャン シュー・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、関門港において、砂津航路から関門航路に入ろうとするひびき丸が、関門航路を航行するシャン シューの進路を避けなかったことによって発生したが、シャン シューが、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月3日13時39分
 関門航路
 (北緯33度54.3分 東経130度54.8分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 油送船ひびき丸 貨物船シャン シュー
総トン数 99トン  
国際総トン数   4,018トン
全長 31.10メートル 107.77メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 330キロワット 3,353キロワット
(2)設備及び性能等
ア ひびき丸
 ひびき丸は、平成元年8月に進水し、平水区域を航行区域とする一層甲板の、国際信号旗の備え付けを要しない鋼製油タンカーで、船体後部に甲板室が設けられ、同室天井上面が船橋甲板になっており、同甲板船首側に操舵室が配置されていた。操舵室には、出入口が両舷に設けられて船橋甲板に接続し、ガラス窓が前面に5個、側面に左右各2個及び後面に左右各1個あり、同室の前面窓下部左右に木製の計器台、中央窓の手前に磁気コンパス、その後部に操舵スタンド、同スタンドの右舷側に主機遠隔操縦装置、同装置の前部計器台上に電子ホーン操作盤、同スタンドの左舷側計器台上にレーダー、同室右舷後部に海図台、左舷後部にL型ソファーがそれぞれ据え付けられ、同スタンドの後部には背もたれと肘掛けの付いた移動可能の椅子及び左舷船首側に電気冷蔵庫とテレビが置かれていた。操舵室後部の船橋甲板には、煙突と救命筏が設置されていたが、出入口から同甲板に出れば全周を見渡すことができる構造であった。
 同船は、関門港においては、港則法上の小型船に該当する船舶で、主として同港内の油槽所でA重油及びC重油を積み、停泊中の199トンないし499トンの内航船に燃料油を補給する業務に従事しており、ときどき山口県宇部港や福岡県苅田港に向かうこともあるが、平素、07時ころ関門港下関区岬之町船溜まりを出航して給油作業後、16時半ごろには帰航していた。
イ シャン シュー
 シャン シュー(以下「シャン号」という。)は、1994年に大韓民国で進水し、中華人民共和国上海、京浜港東京区及び同港横浜区の各港間において定期コンテナ輸送に従事する船尾船橋型の鋼製コンテナ運搬船で、上甲板上に5層を有する船橋楼が設けられ、その前端が船首端から距離95メートルのところにあり、最上部の航海船橋甲板に操舵室が、船首楼後方に1番から5番までの貨物倉がそれぞれ配置されていた。
 操舵室は、満載喫水線からの高さが約12メートル、船首尾方向の長さ約7メートル及び幅約9メートルで、同室の両舷に出入口が設けられて航海船橋甲板暴露部に接続し、ガラス窓が前面に5個、右舷側面に2個、左舷側面に3個及び後面に左右各1個あり、同室中央前面にジャイロコンパス組込みの操舵スタンド、その右舷側に主機遠隔操縦装置、同左舷側にレーダー2台を備えていた。

3 事実の経過
 ひびき丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、A重油90キロリットル及びC重油120キロリットルを積み、船首1.8メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、帰航の目的で、平成16年6月3日13時28分関門港小倉区を発し、国際信号旗を備えていないので進路を示す信号を掲げずに、同港下関区岬之町船溜まりに向かった。
 13時33分半A受審人は、砂津防波堤灯台から064度(真方位、以下同じ。)480メートルの地点で、針路を関門航路第23号灯浮標に向く051度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、関門港砂津航路を手動操舵によって進行した。
 A受審人は、舵輪後方の椅子に腰掛けて見張りを行いながら操船に当たり、機関長が操舵室後部のソファーに腰掛けて昼食を摂り始めた状況の下、13時34分砂津防波堤灯台から061度610メートルの地点に差し掛かったとき、右舷船首5度700メートルのところに、大型のバージを曳航中の引船列(以下「引船列」という。)を認めるとともに、左舷船首70度1,680メートルのところに、関門航路をこれに沿ってその右側を東行しているシャン号を初めて認め、それらの動静を監視しながら続航した。
 A受審人は、砂津航路第1号灯浮標を右舷側に見て航過したのち、13時36分砂津防波堤灯台から056.5度1,130メートルの地点に達し、砂津航路から関門航路に入ろうとしているとき、シャン号を左舷船首78度770メートルのところに認めるようになり、同船が少し前に関門航路に沿って左転し、このまま進行すると、同船と同航路内で出会うおそれがあることを知ったが、右舷船首方に引船列が航行していることから、自船がシャン号の船首方を左方に横切って航路の北側に出た方が同船が走りやすいものと思い、直ちに減速するなり、針路を右に転じるなりして関門航路を航行するシャン号の進路を避けることなく、その後、シャン号が自船の船尾方を替わるものと思い、同船に対する動静監視を行わないまま、折からの潮流によって右方に2度圧流されながら、11.0ノットの速力で、関門航路を斜航する状態で進行した。
 13時37分A受審人は、砂津防波堤灯台から056度1,470メートルの地点に至ったとき、シャン号を左舷船首86度400メートルのところに視認することができ、同船と衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが、依然、シャン号に対する動静監視を行っていなかったので、このことに気付かず、船首方約1海里に認めた関門航路を西行する2隻の船舶との接近模様を見ながら続航した。
 13時39分少し前A受審人は、ふと船尾方を見た機関長から、シャン号が左舷船尾間近に接近しているとの報告を受け、振り向いて約30メートルに接近した同船を認め、咄嗟(とっさ)に右舵をとったが間に合わず、13時39分砂津防波堤灯台から055度2,150メートルの地点において、ひびき丸は、原針路、原速力のまま、その船尾左舷側に、シャン号の船首が後方から39度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期に当たり、視界は良好で、衝突地点付近には2.5ノットの東流があった。
 また、シャン号は、中華人民共和国の国籍を有する船長Bほか21人が乗り組み、コンテナ貨物1,800トンを積み、船首5.2メートル船尾5.5メートルの喫水をもって、同月1日12時00分(中国標準時)上海を発し、関門海峡経由の予定で京浜港横浜区に向かった。
 ところで、B船長は、船橋当直体制を、中国標準時の00時から04時まで及び12時から16時までを二等航海士に、04時から08時まで及び16時から20時までを一等航海士に、08時から12時まで及び20時から24時までを三等航海士にそれぞれ受け持たせ、各直に甲板部員1人を配する2人1組の4時間3直制とし、入出港時、視界制限時、狭水道通航時及び船舶輻輳時等、必要に応じて自ら昇橋し、操船指揮を執っていた。
 同月3日12時30分B船長は、大藻路岩灯標の北北西方沖合約1海里の海域で、関門海峡通航のために昇橋して操船指揮を執り、二等航海士を見張り兼エンジンテレグラフ操作及び甲板部員を手動操舵に当たらせ、間もなく関門航路に入航し、これに沿って東行した。
 13時33分B船長は、砂津防波堤灯台から353度2,240メートルの地点で、関門航路第18号灯浮標を右舷に見てこれに並航したとき、針路を140度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、折からの東流によって右方に1度圧流されながら、14.0ノットの速力で、手動操舵によって進行した。
 13時35分少し前B船長は、砂津防波堤灯台から007度1,650メートルの地点に差し掛かったとき、右舷船首18度1,310メートルのところに、砂津航路を出航中のひびき丸を初めて認め、その動静を監視しながら続航した。
 13時35分半B船長は、砂津防波堤灯台から016度1,430メートルの地点に達し、ひびき丸を右舷船首12度960メートルに認めたとき、同船が進路を表示する信号旗を掲げていないものの、その進行状況から関門航路に入って東行する船舶であると判断し、前方に同航路内を東行中の引船列を認めたこともあって、少し早めに針路を大瀬戸第2号導灯前灯及び後灯を重視する導線の112度に転じ、同じ速力で進行した。
 13時36分B船長は、砂津防波堤灯台から024.5度1,430メートルの地点に至り、ひびき丸を右舷船首41度770メートルに認めるようになったとき、同船が避航の気配を見せずに接近することから、このまま進行すると、同船と関門航路内で出会うおそれがあることを知ったが、そのうちひびき丸が同航路をこれに沿ってその右側を東行するために右転するものと思い、警告信号を行うことなく、引き続き同船の動静と西行船との航過距離とをそれぞれ監視しながら続航した。
 13時37分B船長は、砂津防波堤灯台から041度1,520メートルの地点に達したとき、右舷船首33度400メートルのところに認めたひびき丸が、針路を変えずに関門航路を斜航し、自船の船首を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近することを認め、左舷前方に西行船がいたために大きく左転することができなかったことから、同船と著しく接近することを避けるために早めに左転し、大瀬戸第3号導灯前灯及び後灯を重視する導線上となる059度の針路線-2320-より航路中央寄りを航行することとし、小舵角による左転を開始した。
 13時38分B船長は、砂津防波堤灯台から051.5度1,820メートルの地点に至り、ゆっくり左転して船首が065度に向いたとき、右舷船首80度120メートルのところに、依然、針路を変えずに接近するひびき丸を認め、衝突の危険を感じ、機関を半速力前進にかけ、同時38分半微速力前進にかけてそれぞれ減速したが、更に接近することから、同時39分少し前同船の船尾を替わろうとして右舵一杯、機関を極微速力前進にかけて減速したものの、及ばず、シャン号は、操舵室が砂津防波堤灯台から053.5度2,080メートルの地点に位置し、船首が090度を向いて8.7ノットの速力になったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ひびき丸はプロペラ翼、プロペラ軸、船体後部左舷側外板及び舵板に各曲損、逆転機破損並びに主機の移動を、シャン号は船首部に擦過傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は、関門航路において、砂津航路に入ろうとするひびき丸と、関門航路を東行中のシャン号とが衝突したものであり、両航路を航行する船舶が出会うおそれのある場合の航法が港則法施行規則第39条(関門港の特定航法)に規定されており、同規定を適用する。

(本件発生に至る事由)
1 ひびき丸
(1)関門港内を航行する際、国際信号旗を備えていないので進路を表示する信号旗を掲げなかったこと
(2)右舷船首方に引船列が関門航路を東行していたこと
(3)A受審人が、シャン号の前路を横切り、関門航路の北側に出た方が同船も走りやすいものと思ったこと
(4)A受審人が、関門航路を東行中のシャン号の進路を避けなかったこと
(5)A受審人が、シャン号の動静監視を十分に行わなかったこと
(6)A受審人が、関門航路を航行する際、できる限り、航路の右側を航行しなかったこと
(7)A受審人が、関門航路を斜航したこと
2 シャン号
(1)前方に引船列が関門航路内を東行していたこと
(2)B船長が、ひびき丸を認め、同船は信号旗を掲揚していなかったが関門航路に沿って東行すると思ったこと
(3)B船長が、警告信号を行わなかったこと

(原因の考察)
 関門港においては、船舶は、港則法施行規則第39条に規定される航法によらなければならない。同条第7項に、「関門航路を航行する船舶と砂津航路を航行する船舶とが出会うおそれのある場合は、砂津航路を航行する船舶は、関門航路を航行する船舶の進路を避けること。」と定められている。
 本件は、関門港の砂津航路を航行するひびき丸が、関門航路を航行するシャン号の進路を避けなかったことによって発生したものであり、ひびき丸が、砂津航路から関門航路に入る前に、関門航路を東行中のシャン号を初認し、その後、同船と同航路で出会うおそれがあることを認めた際に、速やかに減速するなり、針路を右に転じるなりしていれば、シャン号の進路を避けることができ、衝突を回避できたものである。
 したがって、A受審人が、関門航路を航行するシャン号の進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
 また、B船長が、砂津航路から関門航路に入ろうとするひびき丸を初認し、その後、同船が避航の気配を見せずに接近することから、このまま進行すると、同船と関門航路で出会うおそれがあることを知った際に、ひびき丸に対して警告信号を行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 A受審人が、関門航路を東行中のシャン号の前路を横切り、同航路の北側に出た方が同船も走りやすいものと思い、できる限り、関門航路の右側を航行せずに同航路を斜航したこと、シャン号に対する動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生に至る過程において関与した事実であるが、本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、関門航路を航行するときに、できる限り右側を航行しなかったこと、同航路を斜航したこと及び他船を初認後の動静監視を十分に行わなかったことは、海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 B船長が、ひびき丸が関門航路をこれに沿ってその右側を航行するものと思ったことは、同船が進路表示の信号旗を掲揚しておらず、船体の見え具合によってその進路を推認することはやむを得ないことであり、このことは本件衝突に至る過程において関与した事実であるが、本件事故と相当な因果関係があるとは認められないから、本件発生の原因にはならない。
 引船列の存在については、ひびき丸、シャン号両船の針路選定において影響があったものと認められるが、砂津航路を航行中のひびき丸が、関門航路を航行中のシャン号の進路を避けていれば、両船の針路選定に影響を与えることはなかったものと認められることから、本件発生の原因にはならない。
 なお、ひびき丸が、信号旗による進路の表示をしなかったことについては、同船が、船舶設備規程第146条の3(属具)に定められているとおり、国際信号旗を備え付けることを要しない船舶であり、港則法施行規則第11条に定められた進路の表示については、その緩和規定により、同信号旗を有しない場合にはその掲揚が免除されているものの、ひびき丸は、その業務遂行上、関門港に定められた諸航路を頻繁に航行するうえ、関門航路を横切る機会も多いことから、これらのことを考慮し、同港内を航行する際の進路の表示に必要な信号旗を準備し、必要に応じてこれを掲揚することが望ましい。

(海難の原因)
 本件衝突は、関門港において、砂津航路から関門航路に入ろうとするひびき丸が、関門航路を航行するシャン号の進路を避けなかったことによって発生したが、シャン号が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、関門港において、砂津航路から関門航路に入ろうとする際、関門航路を東行中のシャン号と出会うおそれのあることを知った場合、関門航路を東行中の同船の進路を避けるべき注意義務があった。ところが、同人は、シャン号の前路を左方に横切って関門航路の北側に出た方が同船が走りやすいものと思い、関門航路を東行中のシャン号の進路を避けなかった職務上の過失により、同航路を斜航する状態で進行して同船との衝突を招き、ひびき丸のプロペラ翼、プロペラ軸、船体後部左舷側外板及び舵板に各曲損、逆転機の破損並びに主機の移動を、シャン号の船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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